第16話 スイーツ系男子
親友の
うちは自営業なので昼間の二、三時間なら都合がつくのでスタバで会うことになった。待ち合わせの時間に着くと、莉奈はテラスの席でブラックコーヒーを渋い顔して
私は注文したココアを持って、彼女の席に着いた。
「急にどうしたの? 何かあったの?」
「う~ん。ちょっと……」
なんだか元気がないし、何か悩み事があるみたい。
「先月会った時は彼氏ができたって、あんなにはしゃいでたじゃないの」
「まあね」
「彼氏と上手くいってないの? それとも別れたとか……」
「違う! 別れてないし、上手くいってるよ。けど……」
――歯切れが悪い。
いつもならサバサバした男勝りの性格のなのに、いつもと様子が違う、なんか変だ。
大学を卒業してOL三年目の莉奈は、取引先の社員たちとのコンパで、以前から目を付けていた憧れのイケメン社員と親しくなったと、先月会った時には舞い上がっていたのに……。
「性格が合わないとか?」
「そんなんじゃなくて……デートの場所が嫌なの」
「どこよ?」
「スイーツのお店」
「ス、スイーツ!?」
私の知る限り、莉奈ほどスイーツの嫌いな女子はいない。
とにかく甘いもの全般がダメで、ケーキもアイスもたい焼きも見るのも触るのも嫌という徹底した嫌甘家なのだ。
その彼女が選りに選って、スイーツのお店に行くなんて……とても想像できない。
「うちの彼氏ってスイーツ系男子で、超甘党だからケーキ屋や甘味処のお店へいつも連れて行かれるんだ。それが辛くて……」
ハァーと深い溜息を吐いた。
「甘いの苦手だって、彼氏に言えばいいじゃない」
「言えない! 彼のこと大好きで嫌われたくないの」
う~ん、何んとも切ない女心。
「甘いものが食べれるようになりたい。いつも歯が痛いとか……お腹の調子が悪いとか……何とか理由を付けて断わってるけど、もう限界だよ!」
甘党の私にはどうアドバイスしたらいいのか分からない。
ココアの上に乗ってるホイップクリームひと舐め《甘くて美味しい!》と思ってしまう、私も甘党なんだ。
「じゃあ、デートの場所を変えたら? 莉奈の好きなお酒の飲めるお店とか」
「……彼、
「下戸って? お酒飲めないの?」
「アルコールに弱い体質なのよ。缶チューハイ一本でダウン」
うわっ! それって莉奈にとっては最悪じゃない。
大学時代から酒豪で鳴らした彼女は、飲み比べで空手部の主将に勝った女なのに、恋人が下戸で、しかも甘党ときたら結婚しても上手くやっていけるのかしら?
味覚の合わない人との愛は、国境を超えるよりも難しいと思う。
「そんなに合わないのにやっていけるの?」
親友なので率直な意見をいう。
将来、辛い想いをするくらいなら今諦めた方が莉奈のためだと思うから……。
「先のことは分からないけど……今は運命の人かと思うほど彼が大好き!」
「そうなんだ」
莉奈の
「取り合えず、甘さに慣れること!」
彼女のブラックコーヒーにスティックシュガーを一本入れてかき混ぜた。それをひと口飲んだ莉奈は、ブハッと派手に噴き出した。
ダメだこりゃあ~。
その日は砂糖入りのコーヒー飲んで、気分が悪くなったというのでスタバで別れた。
数日後、『報告したいことがあります』と莉奈からメールが届いた。やっぱりスイーツ系男子との恋は無理だったのかしら? 私は慰めの言葉を用意して再びスタバへ向かった。
いつものテラスの席に彼女はいた。目の前には生クリームたっぷりのパフェが置かれている。《いったい誰が食べるのかしら?》不思議に思いつつ席に着いた。
「で、報告ってなぁに?」
単刀直入に訊く。
親友の幸せを願う私は辛い話なら早く終わらせたいのだ。
「ジャ――――ン!!」
いきなり左の薬指を私の目の前に突き出した。そこにはキラリとダイヤの指輪が光っていた。
「私たち婚約しました!」
「えっ、本当に? おめでとうー!」
去年、私の結婚式でブーケをキャッチして、『来年は絶対に結婚するんだ』と宣言した莉奈の夢が叶って良かった。――だけど、味覚のギャップは大丈夫なのかしら?
「あたし、甘いもの食べれるようになったの」
「まさか、どうやって?」
「これよ!」
タバスコの小瓶をテーブルにドンと置いた。生クリームが真っ赤になるまでふりかけて、美味しそうにパフェを食べ出した。
「タバスコかけたら、どんな甘いスイーツも食べれることを発見したの!」
そこまでやる涙ぐましい努力に正直感動した。
昨年、三代続いた和菓子屋の嫁になった私は莉奈と違ってスイーツ大好きっ子だ。今の旦那ともスイーツが取り持つ縁だった。
「今度、
「うちの店の羊羹だけは止めてよね!」
「あたしの人生、砂糖に浸食されそうだ」
そういって、あははと笑った莉奈の顔が最高にスイーツだった!
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