届かないけど繋がっている 6/7 ~横田さんの大事な昔話~
三人は約束の午後五時を少し過ぎた頃に横田さんの部屋を訪ねた。部屋はきれいに片付けられている。必要最低限の家具しか置いていないようで、奥の洋室もテレビと座卓があるだけだ。
悠と詩織は、横田さんと亮太に座卓のある洋室で待っていてもらう事にして、調理を始めた。
「詩織、出汁取り始めてくれる? 私煮物の野菜を準備するから」
「分かった。……あのさ、お出汁……どうやって取るの?」
「煮干しと昆布。そこの袋に入ってる」
「これか。へえ……これを水に入れるの?」
「煮干しは頭とはらわた取って」
「ああ、はらわたね……あのさ、どうやって取るの?」
「えっと、まず頭の付け根をこう……適当にむしって」
悠は嫌な予感がした。そう言えば詩織がちゃんとした料理を作っているところは見た事がない。料理がほとんど出来ないのではないか……。
悠の予想通りだった。詩織は小松菜を水から茹でようとしたり、塩抜きしておいた塩鮭に塩をまぶそうとしたり、生のまま何故か皮を剥ごうとしたりと、料理下手を存分に発揮したのだ。
その癖煮物に関しては妙に知識があり、作っている悠の脇から、こんにゃくは包丁で切らずに手でちぎれだの、人参は面取りしろだの、椎茸に飾り切りを入れろだの、やたら注文をつけて、とことん悠を手間取らせた。
一時間半後、悠と詩織が二人で(という事になっている)作った料理が栗色の座卓の上に並べられた。
卯の花色の皿の上に、珊瑚色の鮭と、若草色の小松菜。大きなどんぶりにまとめて盛り付けられた煮物は、朱色の人参と渋い緑で光沢のあるさやえんどうが入っているおかげで、茶色っぽい他の具材の微妙な色合いの差が見えてくる。作っている時は地味だった料理も、こうして並べるととても鮮やかで綺麗で、見栄えがいい。
「すごいな……」
横田さんが料理を眺めながら呟いた。
見栄えは良くても、品自体はたいした物はない。しかし横田さんは、今日いきなり来ると言い出した若い女の子二人(という事になっている)が、こんなに丁寧に料理を作ってくれるとは思っていなかったのだろう。
「時間かかっちゃってすみません。私が煮物にちょっと手間取ってしまって」
「いやいや、本当に美味しそう。待った甲斐ありました。いただきましょう」
四人は座卓の周りに座った。悠、亮太、詩織は座った時まず自分以外の三人の顔を見たが、横田さんは料理を眺めた後顔を上げ、手を合わせた。
「いただきます」
横田さんに続いて三人もそう言い、食事が始まった。
悠は静かに頭を働かせて考えた。奥さんが亡くなった事や、今の気持ち、生活、聞きたい事は沢山あるが、いきなりそんな話を始めるのも不自然だし、食事を楽しめなくなるかもしれない。どうやって話を誘導すれば、何から、どう聞けばよいのか。考えても考えても何も浮かばない。ひとまず自分も食事を楽しみながら、しばらく様子を見る。
「この椎茸、飾り切りまで入れてるの? 手が込んでますね。木村さん、お料理得意なの?」
「得意です。定食屋で働いているので。厨房に入る事はあまりないんですけど。実はこの飾り切りも、人参の面取りも、予定にはなかったんですけど、詩織がやれやれってうるさくて」
「人参も面取りしてるの! あ、そう。美味しいですよ」
横田さんは煮物を次々と自分の皿に取っていく。気に入ってもらえたようだ。
「ねえ悠、おれこれ嫌い」
亮太は箸で小松菜のお浸しをつついている。
「嫌いでも食べな! そんなに多くないでしょ?」
「だって美味しくない!」
「そんなの関係ない!」
悠と亮太の応酬に詩織が入ってきた。
「りょうた、実はさ、私も小松菜嫌いなんだよ。だからさ、私いつもこうやって食べるの」
詩織は小松菜を全部味噌汁にぶち込んだ。悠は「え…」とつぶやいた。
「詩織……それちょっとお行儀悪いと思う」
「えー、でもさ、残すよりはマシでしょ?」
「そう。残すよりはマシですよ」
横田さんが力強く言った。
「食べ物はね、宝物なんだよ。俺らの世代は戦争経験してるからね。あの時はもう、好きだ嫌いだ言ってられませんでしたよ」
これはチャンスだ。ここから昔の話を聞いて、次第に今の生活の話に持っていけるかもしれない。悠はすかさず横田さんに質問した。
「戦争中は、全然食べ物なかったんですか?」
「戦争中だけじゃないよ。戦争終わってしばらくの間はね。もう何でも食べましたね。仕事もなかったから、何でもやったな」
「どんなお仕事されたんですか?」
「俺は戦争中はまだガキだったから、仕事は戦争終わった少し後だけど、最初にやったのは炭焼きだったな。弟子入りとかじゃなくて、お手伝いだけど」
「炭焼き……山に入ったりしてたんですか?」
「もちろんしてましたよ。炭焼きの窯は山の中だからね。食べ物の話をすると、あの頃はよく獣を獲って食べたな。ウサギとかシロテン、海も近かったから、カモメも。カモメとシロテンはね、抜群に美味いんですよ。ウサギ汁も美味いけどね。あと、熊も食ったな。あれは肉が固くって、食べるの面倒だけどね。木村さん、お店で扱った事ある?」
岡本食堂で扱う肉は、普通の鶏、豚、牛だけだ。しかもお店にくる時には、当然もうさばいてある。
「うちでは全く扱った事ないです。今は獣肉って、どちらかと言うと高級食材ですよね」
「そうなんですよ。おかしな話だけどね。俺なんかは当時、それしか食うもん無かったんだけど」
「あの……やっぱり自分でしめてさばくんですか?」
「もちろんそうですよ。押さえつけて頭をこうトン! で、血抜きして皮剥いでさばいて。鶏なんかはね、臭いがね、すごいんだよ。当時も人によっちゃ『自分で殺したのは食えない』って言ってましたね」
悠と詩織が「へえ」とうなずいていると、亮太が質問してきた。
「ねえ悠『しめる』って殺すって事なの?」
「そうだよ」
「悠もお店でさあ、鶏とかしめるの?」
「しめないしめない! 私はやった事ないよ。今は専門の業者の人がやるの」
「『ぎょうしゃ』って何?」
「そういうお仕事してる人って事」
「昔は全部自分でやってたんだよ。亮太君、学校で鶏飼ってない?」
横田さんが亮太に話しかけてくれた。
「うん。飼ってる」
「それを自分で殺さなきゃいけないんだよ。そうしなきゃ、こっちが死んじゃうからね。食べるっていうのはね、そう言う事なんだよ」
「ふーん……」
あまりピンとこないらしい。亮太が二人の会話に入ったのに乗じて、詩織もやっと入ってきた。
「私の祖父も同じ事言ってました。だから食べ物だけは絶対粗末にするなって」
詩織はさっきから煮物を、鶏もも肉とこんにゃくだけしか食べていない。粗末にしているとまでは言えないが、あまり説得力のないセリフだ。悠は今はそれを突っ込まずに心にしまっておいた。
詩織は続けて聞いた。
「熊も自分でさばくんですか?」
「うん。一人でじゃないけどね。熊はね、獲るの大変だったんですよ。何十人も集まって。炭焼きの旦那の友達がマタギでね、獲るのを見せてもらったんだよ。その人はね、もう下から山を見るだけで、どこから何人で尾根まで追い立てればいいかとか、そうすると熊がどう逃げて、自分達はどこで待ち伏せていればいいか、全部分かっちゃうんですよ。でも他にも獲り方があってね、イカのはらわたをいっぱい巻き付けるんですよ、爆薬に。で、木にぶら下げとくと、熊が食いついて、バン! 今はやっちゃいけないけどね」
「ええ! すごいですね……。あの、私猪なら食べた事あるんです。もちろんお店でですけど。猪ってどうやって獲るんですか?」
詩織も悠も、今の話を聞くなんて事は忘れて、すっかり横田さんの昔話に聞き入っていた。詩織の質問に、横田さんから少し意外な答えが返ってきた。
「ああ、俺はね、猪食った事ないんだよ。北海道だったんでね」
「え、北海道ご出身だったんですか。いつ頃こちらにいらっしゃったんですか?」
「十九で相模原に行って、そのあと大宮、所沢……で、川崎、八王子。八王子に来たのは、二十三だったかな」
「四年間で五か所も!」
質問した詩織も悠も目を丸くした。
「そう。仕事がなかったから、あちこち渡り歩いてたんですよ。でも、八王子に来てからは仕事も上手くいって、結婚もして。八王子には定年直前まで住んでましたね。その後ここに来たから、越してきたのは案外最近ですよ」
結婚という言葉を聞いて、悠は自分の使命を思い出した。奥さんの事も気になるが、定年直前? 八王子で仕事が上手くいっていたのに、定年直前にこんなボロアパートに引っ越してきた理由は何なのだろう。
気になるが、何と言って聞けばいいのか、悠には分からなかった。次の言葉を考えていると、亮太が悠にこう言った。
「ねえ悠、『ていねんちょくぜん』って?」
しめた。上手くすれば亮太が、悠や詩織には出来ない言い方で、話を聞くきっかけを作ってくれるかもしれない。
「定年って言うのは、ずっとお仕事してきてすごく頑張ったから、もうお仕事は終わりにしていいですよって事」
「『ちょくぜん』は?」
「何かのちょっと前って事。定年になるちょっと前」
「ふーん」
亮太の質問はここで終わってしまった。何とも中途半端なきっかけだ。だが、ここで話を止めたら、次のチャンスがいつかは分からない。悠は思い切って聞く事にした。
「横田さん、こちらに越してこられた理由って……なんだったんですか?」
声に出して質問した瞬間、悠の心臓は爆発しそうなほどに激しく鼓動した。
「いやあ、俺、友人の借金の保証人になっちゃってね。そいつに逃げられてしまったんですよ。ゼロが八つ! 老後用に貯めていた預貯金も退職金も家も全部手放して、ここに越してきたんです。幸い借金は返せたんだけど、もう年金暮らしだからね。ここでずっと暮らすしかなかったんですよ」
奥さんや家族の事も聞きたいが、悠は激しい鼓動が収まるのと一緒に勇気もしぼんでしまい、ここで止まってしまった。
横目で見ていた詩織がそれに気付いてくれたらしく、悠に代わって横田さんに質問を続けた。
「本当にご苦労なさったんですね。でも私には、横田さんも奥様も、お互いをとっても大事になさってるように見えてましたよ。そうやって苦難を乗り越えてきたんだろうなって思ってました」
これを聞いて悠がまず驚いた。上手い言い方だ。詩織は以前、ヤンキーの従兄の啓一が来た時は全然喋れなくて、悠が助けてやったのだが、こういう落ち着いたデリケートな会話は詩織の方が上手いようだ。
「うーん、どうかな。そうかもしれないね……。ねえ、垣沼さん、木村さん」
詩織と悠は横田さんと目を合わせた。
「うちのやつが死んだから、俺の事心配して、来てくれたんですよね?」
ばれていた。まあ、よく考えれば当たり前だ。ただ、不意に言われたので二人は一瞬固まってしまった。
「心配してくださってありがとう。本当にね、今日は助かりましたよ。俺は一人になってあれもこれも面倒でね、食事もずっとコンビニ弁当だったから。この晩飯はもう、最高でしたよ。これだけやってくれれば、もう十分。十分すぎるくらい。ありがとう。年寄りがね、若い人にこれ以上迷惑かけちゃいけないから、もう心配しないでください。ありがとうね」
岩田さんと奥さん、大将に言われた通り、ここで話さないといけない。
「横田さん……あの、もちろん、奥様を亡くされて大変だろうと思ったのが、一番大きい理由なんですけど、今日伺ってお話を聞かせてもらおうとしたのには、他にも理由があるんです」
「他にも?」
「はい。私の祖母の話なんですけど、祖母は祖父が死んだ後、元気がなくなってしまって。一緒に暮らしてたのに、私何もしなかったんです。何も助けられなかったんです。それで私の中にはずっと罪悪感があって、それが全然拭えなくて。だから、私が横田さんの力になれれば、何か変わるかもしれないって思ったんです。なので、私のためでもあるんです。自分勝手と思われても仕方ないんですけど。ご気分を害してしまったらごめんなさい」
横田さんはすぐにこう言った。
「いやいや、別にそんな事はないですよ。そうか、そういう事だったんだね。それなら、私も力にならなきゃね。今日はお世話になったし。そうだな……取りあえず、もう少しお話しましょうか」
横田さんは残っていたお茶を飲み干すと姿勢を正して、きちんと悠の方に向いた。悠は軽く頭を下げ、詩織は黙って二人を見ていた。
「まず、うちのやつの事がいいかな。うちのやつはね、東京生まれなんだけど…『山手育ち』って分かる?」
詩織だけうなずいた。
「山手のあたりで育った…まあ、要は『お譲様』って事ですよ。戦争が始まる少し前に、両親と弟二人、合わせて五人で、中国の大連に渡ったんだけどね。キツかったらしいですよ」
「食べ物とか仕事とかですか?」
悠がそう聞くと、横田さんは首を横に振った。
「その時はまだ勝ってる時だったからね、戦争で。それじゃなくて、当時、大連の日本人は、すごく感じが悪かったらしいですよ。中国人を顎で奴隷みたいにこき使って、偉そうにふんぞり返って。まあ、みんながじゃなかったんだろうけど、あいつの周りはそうだったみたいですね。あいつはそれが嫌で、帰ろう帰ろうって両親にせがんだんですよ。周りからは止められたそうですよ。日本よりこっちの方が居心地がいいって。だけどあいつはそれでも嫌だったみたいですね。で結局、父親は仕事があるってんで、とりあえず母親とあいつ、それに一番下の弟の三人で日本に帰ってきたんですよ」
「それは、戦争が終わって…」
「よりちょっと前ですね。まだ大連から日本への船があったわけだから」
詩織なら恐らくその辺の知識があるだろうが、気を使ってくれているらしく、悠と横田さんのやり取りに口をはさまないでいる。
「結果としては、それが最後の船だったみたいですよ。大連からのね。残してきた父親と、上の弟とは、それきり会えなかったみたいですね」
「そうなんですか…」
「で、戦争が終わって母親は女手一つであいつと弟を育てたみたいですね。凄く厳しい人だったそうですよ。早くに亡くなっちゃって、俺は会えなかったけど。弟も早くに死んだらしくて、あいつは一人になっちゃったんですよ。若い頃は本当に美人でね、男がうじゃうじゃ寄ってきて。俺もその一人!」
横田さんが自分を指さして軽く笑い、悠も詩織も笑顔を返した。
「で、まあ色々あったけど俺と結婚して、八王子でずっと暮らしてましたよ。息子も立派に育てて」
詩織が一言「素敵ですね」と言い、横田さんはまた微笑んで、話を続けた。
「借金抱える前はね、お金もあったし、暮らしに不自由はなくて、家の中にもいい物がいっぱいあったんですよ。高い食器とか、テーブル、大きなテレビに、本でいっぱいの本棚もいくつもあったし、古いレコードも沢山。他の人から見たら、幸せそうでしょ? もちろん幸せでしたよ。もちろん幸せ。でもね、私はここに来てからの方がもっと幸せでしたね」
悠には信じられなかった。こんなボロアパートに住むのが幸せなはずがない。これは自分で自分に言い聞かせているだけで、真実ではないのではないか。詩織の方を見ると、笑顔で横田さんの話を聞いている。まさか横田さんの言葉をそのまま信じているのだろうか。
「木村さん、嘘だと思うでしょ?」
横田さんにそう言われて悠はドキッとした。考えを完全に見抜かれている。脇を見ると、詩織も悠に笑いかけている。分かっていないのは悠だけ、という雰囲気だ。
「嘘か本当かなんて、どうでもいいんですよ。幸せって、心の中に感じるものだから、自分が思っていれば幸せ。私はここに来てから幸せだと思ったから、幸せなんですよ。どうしてかって言うとね、ここに来てから、うちのやつと二人きりになって、声を出せば届く所にお互いいるわけですよ。それが、幸せだったんだな」
まだいまいち納得できない。でも横田さんの顔は、炭焼きをしたとか熊を食べたとかいった話をしていた時と全く同じ、柔和な笑顔だ。
「でも、俺は幸せだったけど、あいつの方はどうかな。自分が子供の頃はめちゃめちゃ苦労して、親も兄弟もなくして。俺と結婚した後は家事も子育ても一人でやって、やっと子供が手が離れたと思ったら、俺が作った借金のせいで、住み慣れた家からここへ来て、またずっと家事。文句ひとつ言わずにね。俺のせいでさんざん苦労かけたからね」
詩織が座卓の下で悠の足をつっついた。そうだ。ここで悠が横田さんのために言葉を紡がなければ。この瞬間のために詩織の力も借りて準備して、今日一日を過ごしたのだ。今朝の影絵が、悠の心に中に蘇ってきた。
上手くいくかよりも、この気持ちを横田さんのための言葉に変換して、声にする事自体が悠にとっては大事だ。
「私には、奥様が不幸せそうにはとても見えませんでしたよ。奥様は、私と会うといつも素敵な笑顔で優しく挨拶してくださって、私も幸せな気分になれましたから。きっと、ご自身が幸せだったから、そんなお顔だったんだと思います」
六十点といった所だろうか。悠の言いたい事は言えたが、言葉としてはあまり説得力はないかもしれない。何かもう一つ、最後の一押しのようなものが欲しいが、何と言ったらいいのだろう。
悠が次の言葉に詰まっていると、詩織が手助けをしてくれた。
「私にもそう見えました。奥様みたいに、本当に好きな人のためにつくせる人生って自分も歩んでみたいなって思います。私だったら、さらにわがまま言うと、旦那さんより先に死なせて欲しい。本当に好きな人に先立たれたら悲しいですもん。だからひょっとしたら、奥様の最初で最後のわがままだったのかもしれませんよ? 旦那さんより先に旅立つのって」
奥さんの望みを旦那さんが叶えた、という話でまとめた。やはり悠よりだいぶ上手い。
「なるほどね…」
横田さんがそう言った後、その場は一旦静かになった。三人が食事に戻ると、今までずっと蚊帳の外にされていた亮太が口を開いた。
「ねえ悠……おれ、これもう食べらんない」
亮太は小松菜の入った味噌汁のお椀を差し出している。悠はだまってそれを受け取ると、また横田さんに話しかけた。
「横田さん、さっき、お食事コンビニ弁当ですませてるっておっしゃってましたよね。私達二人(という事にしておく)たまに何か作って持ってきますよ。今日みたいな煮物とか」
「ああ、いやいや。ありがたいけどね、俺、三日後にはオーストラリアに行っちゃうんですよ」
「オーストラリアですか?!」
悠も詩織も愕然とした。もう横田さんの力になる機会はないかもしれない。今日こうやって一緒に食事できたのもギリギリ。運が良かった。
「息子夫婦と孫達が暮らしてるんですよ。前から来い来いって言われてたんだけどね。海外ってなると、なかなか……。でも、うちのやつも死んで、俺一人になっちゃったから、さすがにもうこっちに来いって言われてね。明日息子が来て、荷造りとかしながら、少し一緒に過ごして、その後すぐに。オーストラリアのニューカッスルって所ですよ」
奥様が亡くなった後の息子さんとの二人の時間を邪魔するわけにはいかない。今日この時間が、横田さんの話を聞く最初で最後の機会だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます