第7話 思い出との別れ レネクスside
「バイバイ、私の思い出」
家族と過ごした家に別れを告げ、フェリシアは背を向けた。
レネクスの目に映る彼女の背は寂し気で、けれどその孤独な雰囲気の中に危なげな強さがある。
小さく息をつき、レネクスはその背のあとについていった。
いくら廃れたこの場所でも、火がこんなに燃え上がっていれば人が集まってくるだろう。
その前にその場を離れ、近くの家の中に入る。
その家は誰もいない小さな空き家で、やはりそこも廃れていた。
ボロボロになったカーテンの隙間から外の様子を覗く。
さっきまでは人など一人もいなかったこの場所だが、炎は大きく燃え上がっており、やはりそのせいか目立つらしい。
徐々に人が集まり始め、数分後には多くの人々が、燃える家を垣根の如く囲んでいた。
そこには騎士たちもいて、魔法道具を使って炎を消すべく水を放っている。
「なんでだ……どうして、炎が、消えない……?!」
「くそっ……消えるどころか、勢いを増してやがる――!!」
近くにいることが危険とみなされたのか、騎士たちが集まった人々をそこから離れさせた。
炎を消すことも諦めたらしく、騎士たちもまたその場を離れ、遠巻きに見つめる。
フェリシアがその状況に、目を見開き驚きの表情を見せた。
「どうして……?」
そう呟く彼女にレネクスは言う。
「当たり前だろ。魔族の炎は普通の水じゃ消えねぇよ。
どこか自慢げに言うレネクスに、フェリシアは「そうなんだ」と呟くように小さな声で返した。
それ以上何も言わず燃える家を見つめるフェリシアに、レネクスはつまらないとでも言うように溜息をつくと自身も同じように、燃える家をじっと見つめる。
炎によって崩れていくフェリシアの家。
まるで思い出諸共消えていくように崩れ落ち、そして消えていく。
再びフェリシアに視線を向けると、悲しみを滲ませる沈黙の中、彼女の姿は炎に照らされていた。
彼女の銀色の髪は簡単に紅に染まる。
まるで彼女も炎の中に消えてしまいそうで、その儚さに魅了された。
ふと、フェリシアの頬が緩められる。
「――――!」
初めて見る笑みだった。
優しい微笑み。
しかしすぐに、それを隠すように俯いてしまう。
そんな彼女にレネクスはどこか安堵したように笑みを浮かべ、外に目線を戻した。
――それほど時間も経たぬうちに、炎は家を跡形もなく燃やし尽くし、集まっていた人々もバラバラと散っていく。
騎士たちはその場を確認し、それを報告書のようなものに書き込んでいた。
やがてそれも終わると、そこには人っ子一人いなくなり、また静かな廃れた街に戻る。
そこには今まであったはずのものがなくなり、一層寂れたように思えた。
レネクスたちは誰もいなくなった頃を見計らい、家を出る。
燃えた家の前まで行ってみるが、そこには塵一つ残ってはいなかった。
「…………」
彼女は何も言わず、その場に立ち尽くす。
そんなフェリシアにレネクスが言った。
「……そろそろ行くぞ。ここに長居すんのもあんまよくねぇだろ」
「うん……」
か細い声でそう答えた後、フェリシアは踵を返す。
ここに戻ってくることはもうないのだろう。
その境遇にか、それとも自分自身にか――彼女はまるで何かを堪えるようにそっと目を閉じた。
レネクスは何か声をかけることもできず、ただ彼女の頭に手を乗せポンポンと軽く撫でる。
ぎこちないその行動に、フェリシアの表情は少し柔らかくなったような気がした。
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