第156話 俺、今、女子二次会中
酒は怖いよね。それは、高校生の頃の体入れ替わりでじゃなくて、後に本当に大人になってからでも、何度も感じたことだ。
飲み過ぎて、酒で失敗したって思っても、懲りずにまたやらかしちゃう。
——ほんとロクでもないものだけど。
……やめられない。
というか、やめる気にならない。
アル中とかそういうレベルではないけれど、飲みに誘われたらことわらないし、家でも夕食では毎日軽く飲んでしまうし、休肝日をもうけろとか健康診断の時にいわれたりするけれど……。
つらいときとか、嬉しい時とか、時には深酒してしまったりね。
もちろん、俺が大人になったからって、基本的に、——人間がそんな変わるわけがない。ご想像の通り、俺は、高校時代と同じ、ビビりで、コミュニケーション能力もないまま成長して、そのまま歳をとっただけのの大人が出来上がってしまたっと思ってもらって良い。
とはいえ、まあ、大学を卒業するころには、外面をなんとか保てるくらいには世間に対応できるようになり、一応仕事を見つけて働いたり、家族を持つようになったり(相手は誰なのか今のところは内緒と言うことで)、大分社会適応できるようになったのだけれど、本質はナイーブな……というか小心者の高校生オタク男子の頃のままなのである。
であれば、——それならば、そんな俺の「失敗」は、決して派手なものじゃない。
飲み過ぎて次の日の昼間で気持ち悪いとか、泥酔して眠って終電で降りる駅乗り過ごしたごしたとか、階段滑って尻餅で青あざつくったとか……。あ、まだあったな。財布落として後ろを歩く人に拾ってもらったとか、スマホを新幹線に忘れて拾得物として届けてもらってたのを取りに行ったとか。失敗というのも人間力の大きさに比例する物なのか、その個々を見れば、それぞれ、大したことでは無い、「あるある」レベルの失敗のように思える。
しかし、例えば……転けたのが尻じゃなく、頭を強打していたら? 財布も拾ってもらえずに盗まれていたら? 他も、酒を飲んで記憶が定かでなくなるような状態の時に、もし悪意のある者に何か陥れられたら?
もしかしたら……という可能性まで考えるなら、酒での失敗は——たまたま大きな失敗が無かったからといって、反省もせずに看過できるものでは無いだろう。
それに、結局一番後悔するのは、飲み過ぎて気持ち悪い時の次の日だからね! その時は、もう一生酒飲まないで良いなと思うのだが……結局二日酔いが覚めたならそんな決意も何処へやら……。
酒ってこわいね。
ともかく、というわけで、酒の怖さを、俺は、人生を通じてずっと感じることになるのだったが、実は、その初回がこの日——コリドー街での女子会の日だったのであった。
一次会は良かったんだよまだ。一次会は。
桜さんの懐妊、婚約のお祝いだって、店中を巻き込んで盛り上がって、杯も重なるにつれ、気分もどんどん良くなって行く。酔いが進んでからは、正直何をどう話したのかさっぱり覚えていないのだけれど、とにかく楽しかたって記憶しかない。
突然、俺——稲田先生——の席の隣に乱入気味に座ってきた見ず知らずのイケメンに、最初は警戒したけれど、飲んで話するうちになんかどうでも良くなってくる。
なんか、話もあってるようだし、周りも盛り上がっているし、ただ面白おかしい時間を過ごしたねって感じだ。
問題は、桜さんお祝い会が終わってからのことだ。
夜の9時前くらい。桜さん、摩耶さんの仲良しアラサー女子グループでの飲み会がこんな時間に解散になることなんて、今まではありえなかったことらしいのだけど、子供ができて、つわりが始まった、体を大事にしないといけないメンバーが一人いるので、一つ目の店をコース料理が終わった区切りが良いところで終了。
どうも摩耶さんはもう少し飲みたい雰囲気だけど、
「
耳打ちされて、その目線の方向に振り向くと、
——?
「良ければ、もう少し飲みませんか?」
同じコース料理を頼んでいたらしく、同じような時間に終わって店をでたイケメンが、銀座コリドー街に戻った俺に話しかけてくる。
ん? これナンパ?
「……お友達は?」
イケメンと一緒にいた男女はどこへ?
「あの二人は同棲していて……一緒に帰ってしまいましたよ」
そうなの? じゃあ、この人一人取り残されたの? それ、確かにちょっとかわいそうだな。
俺も、もうちょっと飲んでも良い気分なのだが、一人じゃな。
やっぱり、
「摩耶……いっしょに……」
来てほしい。
「……私は、良いから。がんばってね」
が、また耳打ちされて、背中をポンと押される。
すると、数歩、歩き出した俺は、
「どんな店が良いですか?」
さっと横に来て、自然に腕を組んできたイケメンに、まるで拉致をされるように次の店に連れていかれる。
そして、小洒落たバーでの二次会、2時間弱の会話。
正直、細かいことは何も覚えていない。
——俺は、その時、すでに適度を大幅に超えて飲み過ぎていたのだと思う。
酔いに認識力や判断力は大幅に衰えて……どうでも良いような会話をしていたなということしか覚えていない。カウンターの隣の席に座り、甘い酒を飲みながら、時々軽いボディタッチをしてくるイケメンの目的など言わずもがなであったのに。
なんとなく警戒はしてたと思うけど、酔いはそんな気持ちなど軽く吹き飛ばし、今はただ自分のことを全て承認してくれるナイスガイとの会話が楽しくて、酒もどんどん進めば、合わせて夜もふけて、
「……大丈夫ですか?」
ん? 気づけばタクシーらしき車の後部座席にいる俺。
横には体をぴったりとくっつけて、手を握っているイケメン。
——へ?
俺、あのまま、店で泥酔して、寝てしまっていたのか?
でも、なんで、イケメンと一緒にタクシー乗ってるの?
「……もうすぐつきますよ。終電終わってしまったから……責任とって僕のマンションに招待しますね」
それってつまり、
「……運転手さん。次の角を右に曲がった先の信号のあたりで止めてください」
——お持ち帰り!
「さあ、初美さん、着きましたよ。狭いマンションですみませんが……」
タクシーが止まり、支払いも終わると、ケメンは俺の手を引きながら、自動で開いたマンションエントランスの中に俺を引きづりこもうとするのであった。
ええ、まずいんじゃないこれ!
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