俺、今、女子婚活中

第130話 俺、今、女子アラサー

 さて、今までに、いろんな女子と入れ替わった俺であるが、……今回はその中でも少し難物かなと俺は入れ替わった後に思った。

 今回入れ替わったのは隣のクラスの担任、稲田初美いなだはつみ先生。

 今年29歳の独身女性。

 妙齢というか微妙な年頃である。

 学園ものアニメとかではかならず一人はいる、結婚焦って黄昏ている、ヤグされキャラの役所キャストである。

 確かに、難物と入れ替わってしまった感はあった。

 しかし……、しかしだ。

 今までにいろんな女子と入れ替わって、いろんな修羅場をくぐり抜けた俺である。

 ついには、異世界で聖騎士にまでになって竜と戦うまでしたのだ。

 それで今更、現代日本の女子と入れ替わったくらいで何をビビる必要があるだろうか!


 ……とそんな風に思っていた時が俺にもありました。


「稲田さんの趣味は何ですか……」

「はい。ジョギングとか……」

 あとアニメ鑑賞とかゲームとかな。

「へえ、健康的なんですね。もしかして、先生やってるなら何か運動部の顧問としてるんですか」

「いえ、運動はからっきしで。……文芸部の顧問です」

「へえ、文学とか詳しいんですか素敵ですね」

「まあ、国語教師ですから……」

「そんなことより稲田さん」

「は、はい……」

「彼氏とかいるんですか」

「…………え」

「おいおい、お前ずばっといきすぎだろ稲田さん困ってるだろ」

「はい、稲田初美はっちゃんの彼氏情報公開します!」

「ちょっと、宿河原桜さくら……!」

「え、教えて! 教えて!」

「29年間彼氏なしです!」

「え……処女……」

「おい、なわけないだろ……」

「はい、嘘です!」

「だよな」

「ちなみに私は29時間彼氏なしでーす!」

「って、昨日別れてきたってことかよ?」

「嘘です! ラブラブです!」

「はあ? 彼氏もし女子が合コンくるな!」

「いや、来てもいいぞ! 俺も彼女いるし」

「お前も来るな!」

「いや、いいでしょ楽しきゃいいでしょ!」

「お、津田摩耶まーちゃんノリいいね」

「いいでしょ。人生楽しまなきゃ。私、ひと夜の恋ワンナイトラブもオーケーな人だから」

「お! 俺、立候補! どうですか!」

「あ、がっつく人私嫌い」

「……って、じゃあ大人しくしてます」

「まあ、黙ってると一生恋なんてできないんだけどね……」

「どうせいちゅうねん!」

「おまえからかわれているだけだぞ……」

「まてまて、この流れ変えてやる! おら飲むぞ!」

「お、一気!」

「……おし!」

「じゃあもういっぱい! いっぱい飲む人好き!」

「うぷっ……」

「私、、むせる人嫌い」

「……つ! げほ!」

「うわ、摩耶まやちゃん容赦ないな」

「はい、休んでないでもう一杯」

「って、ピッチャーもうビールの泡だけだな。店員さん呼ぼう……すみません!」

「あ、それなら、あたしエクストラコールドがいい!」

「って、摩耶まやちゃんそれ飲みホに入ってない……」

「男が細かいこと言わないの! そんなんじゃ、モテないわよ」

「……じゃあ、俺もエクストラコールド」

「私は飲みホでいいよ。カシスソーダ!」

「芋ロックで!」

「ハイボールで!」

「……」

「あれ、初美はっちゃんは良いの……?」

「え……私……ウーロン茶……」

 ん。なんか周りの雰囲気が。

「あ、ウーロン茶。初美さん、あんまり飲めないのかな」

 いや、中身(俺)は未成年なもんで。

「まあ、無理しないでよいけど……」

 なんか、俺のせいで完全に場が静まったな。

 ウーロン茶頼んだだけなんだけど……。

 ああ、あんまり盛り上がっていないから目立っちゃうのかもしれないけど。

 いったい、何をどうすれば良いのやら。

 アラサー男女の飲み会に放り込まれた俺は、こういう時、一体どう振る舞えばよいのかさっぱりと検討もつかない。

 しょうがないから、俯いて、場が流れるに任せようと思うが、

「……って初美……ちょっと来なさい」

「え……」

 稲田先生の親友らしい宿河原桜さんに小声で耳打ちされる。

「みんな、はっちゃんと私一緒にお花摘みに行ってきます!」

 なんかトイレに呼び出されるらしい。

「おお、俺も連れションに……」

 それに、お調子者がついてこようとするが。

「はい。そこの変態は罰で一気お願いします」

 桜さんがそれを許さない。


「「「それ、一気! 一気!」」」


 というわけで、騒がしい居酒屋の奥、トイレの前に連れ込まれる俺——今は三十路をすぐにひかえた女教師、稲田初美いなだはつみである。

 二日前、やっと異世界から戻ってきたばかりの俺は、学校の廊下でぶつかった先生と、そのまま倒れ込んだ勢いでうっかりキス。すると、今回もあっさり体が入れ替わってしまったのだった。

 その後、何が起こったのかわけも分からず呆然としている、稲田先生を保健室に連れて行って事態を説明。そしてすぐにもう一度キスをして元に戻るようにお願いしたのだが……。


『ひゃっほー! 美人女子高生で人生やりなおし! 勝者よ! 私人生の勝者よ!』


 そう叫ぶと駆け出して行った喜多見美亜あいつ=稲田先生を、追いかける瞬発力は、今の俺にはないのだった。なにしろ稲田先生もうすぐ三十路だし……。失礼。


 で、その後、放課後、先生もだいぶ落ち着いたからもう一度話をしようと、片瀬セリナが連れてきてくれて、——いつもの山の上の神社で俺たちは会談。

 その結果合意に至ったのは……稲田先生の婚活を成功させたなら元に戻ってやるとのことなのであった!

 というわけで、俺は今日アラサーの集う合コンに三十路間近の婚活女子として参加しているのだった。

 で、参加早々、今回の合コンを企画した親友からダメ出しをされている。


「……初美はつみちょっと、今日いつもにも増してノリ悪いよね……」

「…………」


 やっぱ、稲田先生、いつもノリ悪いんだ。

 良かったら、とっくに彼氏見つけてるよなきっと。見た目はそんな悪くないというか、かなり可愛らしくて生徒の人気も密かに高いのだから。

 きっと合コンとかに出ても、あんまり男の人と交流できないで目立たないで終わっちゃうタイプなのかな?

 で、今回は、俺が中の人になって、いつもよりさらにモジモジしてたようだ。

「わかってる。来年は私たちも三十だよ。ここいらで、ちょっと妥協しても決めとかないと一生独身かもしれないんだよ」

「…………」

 それは、そうなのかな? 同い年の婚活当事者、桜さんが言うんなら。正直、俺的には良くわからないんだけど。

「三十なんてただの数字だって私も思ってるよ。その時が過ぎたって、その前の1分前、1ヶ月前、いえ1年前と一体何が違うのって思う。うん、絶対大して違わないわよ……」

「…………?」

 と言われても、中身の俺は二十歳はたちも超えていない俺に言われても実感はわかない。きっと三十というのはなんか超えてはいけないルビコン川のようなものだろうと推察はするが。

「でもね、そうやって三十なんて意味が無いって思えば、三十一も意味が無い。その次は三十五もただの数字だなんて思っていたら……あっという間に四十よ。一瞬一瞬はほとんど変わらなくとも、それが重なるうちに私たちはおばさんになってしまうの!」

 でも、実感はわかないながらも、桜さんのまるで自分に言い聞かせるかのような迫力満点の説教に、俺は圧倒されて、思わず後ずさる。

 すると、その様子を見て、こりゃ効いてると判断したのか、ここぞとばかりに畳み掛けてくる。

「……で、どうなのよ。気に入った男ひといた?」

「…………」

 と言われても、今、稲田先生の中にいるのは男子高校生である俺——向ヶ丘勇なんだから。それが、アラサーの合コンにやってきたギラギラした男たちの中から気に入った人いるかとか言われても。俺、そういうは無いし。

「まあ、確かに今日の男どもはちょっとハズレっぽいよね。……結婚なんてまるで考えてなくて、やれりゃ良いって考えているようなろくでもない連中ね」

「…………!」

 やるって、……あれだよな。不純な異性な交友するあれだよな。まあ、三十にもなれば不純ってもう言われないのかもしれないが。

「……でもさあ、もうそんなこと言ってる場合じゃ無いと思わない? 私たち。やっちゃってから相手を逃さないようからめとる、蜘蛛みたいな女にならなきゃって思わない?」

「いえ……」

 もちろん、思うか思わないかって言ったら、——純情童貞男子高校生に純愛の夢を見させてくれよ! ってところだが、あんな連中でも結構良い会社に務めてる優良株だとか、結婚と恋愛は別だとかガンガンとまくしたてられて、……アラサー女子のリアルってこうなのかな? 桜さんの言ってることが正しいのかなって思いかける。

 しかし、

「——!」

「初美……どうしたの?」

 俺はちょうど着信したSNSのメッセージを見て思わず息を飲み込む。正直、桜さんに説得されかかっていて、このまま適当に男のどれかと稲田先生くっつけちゃって、お役ごめん。元の、というかあいつの体に戻してもらおうって安易に考えていたのだった。

 でも飛んできたメッセージ——審議会カウンシルの結果は。


「いや、なんでもないわ……」


 俺はトイレでの桜さんの説教が終わって席に戻るときにチラリと自分たちの隣の席を見る。

 そこにいるのは代々木公子お姉さまに、赤坂律お姉さま、そして下北沢花奈の斉藤フラメンコトリオに、片瀬セリナ、そして喜多見美亜あいつ。あいつは、もちろん俺——向ヶ丘勇に入れ替わったままなのだが……、女装してきやがった。踊ってみたでネットに動画アップするときの「ゆうゆう」ヴァージョンできやがった。

 となると、つまり稲田先生の合コンの席の隣は、女子高生と女子大生のピチピチの美女ばっかりが集っていて、まあみんなひと癖ふた癖ある連中というか、一人は偽女子高生だが中身は本物女子高生というか……。

 ともかく、隣は見た目だけなら、アイドルグループもかくやという可愛い女子揃いであって……。

 うん。見てる見てる。男ども、チラ見というかもうガン見で見つめている。というか、なんか代々木のお姉さんに男の一人声かけてるな……。実はコミュ障でショタコンのお姉さまは固まって何も喋らないけど。


 で、そんな様子を苦々しく睨んでいるのは女子で一人残っていた津田摩耶さん。

 確かになあ。アラサー飲み会の横にこのピチピチ女子会が開かれているというのは大迷惑でしかない。男どもがどうしても比べてしまうよな。若さとか、若さとか、……若さとか。

 ——でも、実は、そんなはた迷惑な女子会。実は偶然に開かれているものではない。

 それは、俺の依頼により開かれているのだ。体入れ替わりの事情を知らない代々木、赤坂のお姉さま二人には話を曖昧にごまかして参加してもらっているが、この隣の女子たちの審議会カウンシルにより稲田先生の合コン相手を、結婚相手にふさわしいか審査してもらっていたのだった。

 俺が、安易に稲田先生の結婚相手を決めて、元に戻ろうとしないようにと、女子たちが考えてお目付役として、合コンの隣の席に陣取っていたのだった。高校生だけだど居酒屋入りにくいなということで代々木と赤坂のお姉さんまで巻き込んで。

 もっとも、二人とも話聞いて、こりゃマンガの取材にもなるとノリノリであったのだが……。

 そんな、女子たちが、鵜の目鷹の目で男たちを審査した結果は。 

 ——結論から言うと、議論の余地なく大NG。

 その結果が、さっきトイレに立っている間にSNSで送られてきたというわけだった。


 曰く、大してイケメンでもないのにナル入ってる。

 曰く、務めてる会社の自慢はしてるが話を聞く限りたいして仕事できなさそう。

 曰く、女子と飲み会してる時隣の席に色目使いすぎ。結婚しても浮気しそう。

 曰く、なんとなく生理的に受け付けない。まだ若いのにオヤジ臭い。


 ……えらい言われようである。


 まあ、確かに俺も、稲田先生のキャラ的にちょっとこの人たちは無いな……って思うから結論は同意見であるが、時々かっこつけて髪かきあげたりして隣の席にアピールしてたアラサー男子がナル気持ち悪いとか言われているのは、少しかわいそうな感じもするな。


 でも、

「はい、お持たせ! それじゃスッキリしたところで飲み直して行くわよ!」

「よ、水も滴るいい女!」

「あ、それセクハラ! バツに一気のみ」

「なんでだよ!」

「滴ってないからね、ちゃんとふ……」

「……桜」

 それ以上やめといて。

「一気! 一気!」

「クソ。飲むぞ、ホラ!」

「ヒュー! 俺も飲むぞ!」

「ハイ! ハイ! 一気!」

 うん確かに、この流れで良い感じなるなんて無理でしょ。

 というか桜さん、単に自分が盛り上がって楽しみたいだけ疑惑もあるのだが。

 ちゃっかり彼氏持ちらしいしな……。


 まあ、ともかく今回の男たちは無しとなったから、俺はもうこの場はノリが悪い女子としてこのまま嵐が過ぎ去るのを待つばかり。

 ああ、なんか桜さんの目が怖いから、あとでまた説教されるのかもしれないがな。

 しかし、ともかく、今日はこれが終わればアパートに戻ってゆっくりできる。

 そんなことを考えて俺はますます乱痴気騒ぎと化していく合コンが終わるのをじっとまっていたのだった。


 これが終わった後に、もっとキツイ任務ミッションが待っているとも、この時はまるで知らないで。

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