第128話 拙者、今、女子異世界人
というわけで、気づけば体が入れ替わって(?)、拙者、聖騎士ユウ・ランドは、異世界の
いや、異世界人になったことについて驚天動地というほど驚いたわけではない。ちちょっと、戸惑いはしたが、自分の世界では、異世界から転移する者、転生するものがいたり、逆に拙者の世界から他の世界に行くものがいると言うのは、ホイホイあることではないが、それなりにはあると言うのが常識。ついに自分にもそれが起きたのかとすぐに納得した。
かくいう拙者も、前世の記憶を残してはいないものの転生者であるらしいのだ。ならばもう一度
聖騎士となる前、冒険者時代に精霊に告げられたことがある。
『あなたは転生の咎により、死すべきときに死ねぬ定め。この後も、——その呪いを祝福と間違わぬよう注意することだね』
森で迷い、三日三晩の放浪の末であった精霊。道を案内してもらって樹海を抜け、やっと民家が見え始めた頃、精霊が森の奥に戻る別れ際にと伝えられた言葉だ。
森に迷ううかつ者の拙者が、それよりもさらに気をつけなければならぬこととして、この言葉を告げて精霊は消えた、
その時、拙者はその意味を理解しかねていた。ああ、自分はあの不死身の超人たちの仲間なのか、それは運の良かったことだ、とぐらいにしか思わなかった。
もちろん、死んでも蘇るからと言って自ら積極的に危険な行為を使用と思うような迂闊な心は持ち合わせてはおらないが、——この
だが、精霊はそれ——不死——を『咎』と呼んだのだった。
拙者は、超常の論理の中に生きる精霊の言うことなど、人には、そもそもまともに理解することもできないのであると、その意味を深くは考えずにほおっておいたのであったが……。
——今になり、その咎と言う意味が少しはわかったような気がするのだった。
だって、拙者、何でこんな目にあわないと行けないのだ!
今日も、また連れて行かれた合コンだとかいう悪夢のような集い。
なんだあのイライラする男どもは!
ゴブリン一体も倒せないような貧弱な体しておるくせに、やたらと自分の自慢ばかりしてきおって。
良い
で、あまりイライラしたから、
『そんなすごい殿方ばかりでしたら、……はっ! 竜の一匹くらいはもう狩ったことはあるのでしょうな』
と言ってやったら、
『なに? 美亜ちゃん、それゲームの話? 俺、モンハンなら結構竜ドラゴン倒しまくってるけど、なんなら携帯ゲーム機持ってきている気取る一緒にやる?』
とか放言をはくので、
『いや、ゲームなどではなく……』
ゲーム。確かに、拙者の生まれ育ったあの世界は、
その中で魔物を狩り、魔法帝国から都を守る聖騎士の努めを果たしたとして、この目の前のいけ好かない男の言う
そんな風に思ったら、拙者、思わず言葉に詰まる。
すると沈黙。
集まる視線。
しかし、
『美亜、そういうつまんない話は良いから』
そんな時、
『あ、ごめん』
それに乗って、その場は何とかごまかしたものの……。
結局また始まったのは口ばかりが達者な男どものしょうもない自慢話。
こんなのをまともに聞き続けることができるなんて、ボスもともかく、ただの腰巾着かと思った
だから、やっとのことで家に帰り、ベットに転がって天井を見ながら、こんな世界などもう限界と思っている時に、
「もうそろそろ戻っても良いのではないかしら?」
「……」
拙者にそう語る女性の言葉には、ただ無言で首肯するしかないのであった。
*
わけもわからず転移したこの世界。
拙者、さっさと元の世界に戻らなければと、ここに来た最初から思っていた。
すぐに魔法帝国の大侵攻がある時に転移してしまったこと。聖騎士としての努めを果たさねばならない大事な時にこんなことになってしまったこと。
拙者は、こんな世界でブラブラしていて良いわけはない。
早く元に戻って聖都の守りに馳せ参じないといけない。
そう思うと、焦り、イライラとしてしまう日々を、拙者、数日間続けていたのだった。
しかし、これが誰かの策略であって、何かさらなる罠が拙者に仕掛けられている。そんな可能性を否定できなかった。
だから、パソコンとか呼ばれている動く絵を出す機械じかけの中の自分——ユウ・ランドにキスをして元に戻れと言われても、……そんなことをしてあの箱パソコンの中に閉じ込められるのでは? と思えば、そんな危険をおかすことはできないと拒否していた。
しかし、
「これは必然なのよ。私にとっても、あなたにとっても、そして
駅を降りて、すぐの街でたまたま会った女性。
喜多見未亜——今、拙者がその中にいる体の持ち主の、知り合いと名乗る女性に言われるままに、家に連れて帰れば、彼女は次々に拙者をびっくりさせるようなことを言う。
この世界の秘密。多元世界を超えて広がる戦いや探検。そんな中にやがて拙者が身を投じることになるだろうと。そしてそれはこの後起きることであるが、ある意味もう起きたこと——必然でもあると。
彼女はそれらを全て見た——知り得た上で拙者に語るのだという。
拙者は、今このタイミングでこそ、自分の世界に戻るべきであると。
なにを妄言を。拙者は、最初は女の言葉をとるに足りぬ放言と思った。
あるいは、この女こそ私をはめて、目の前の箱の中に閉じ込めようとしてる魔女なのではと思った。
きっと、喜多見未亜の友達と言うのも嘘であろう。拙者が彼女の交友関係などまだ把握していないことにつけ込み、騙してこの部屋まで入り込んだのだろう。
「確かに、友達というのは嘘かもしれないけど、知ってる? この国ではライバルのことを
女は、そう言うとにっこりと笑った。
それはとても無邪気で悪意なく、しかし少し悲しそうな表情で、——なんか妙に胸が締め付けられる。
「あ、ありがと。ランちゃんはずっと変わらないよね。ここでも、昔でも、別の世界でも……」
拙者の心中を読んだかのような女言葉がいつかどこかで聞いたような気持ちがして、なんだかこみ上げる懐かしさに、心が嬉しいような、悲しいようなもやもやとした気持ちでいっぱいとなる。
「うん。まだ、いろいろ語りたいところだけど、もう時間かな、じゃあ、お願いね……」
そう言われた瞬間、拙者の体は自然と動いた。
女の言葉に動かされた。
しかし、それは強制されて動いているのではない。
拙者は、自ら、自らの気持ちで
パソコンとか呼ばれるカラクリ仕掛けに映る自分の顔に向かって、グッと唇を近づけて……。
——チュ!
拙者、聖騎士ユウ・ランドは、こうして、街で出会った謎の女性——片瀬セリナから言われて、自分の生まれた
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