第108話 俺、今、女子相談中(異世界の俺の部屋)

 で——。

 立ち話もなんなので、どこか落ち着いたところに行こう。

 と話しかけても、疑問符だらけの顔つきのパチモン魔法少女あいつだった。

 まあ、そりゃあそうかもしれない。あいつからしたら、どこでも同じだ。この異世界の街角はすべてゲームの中だ。それが現実、もしくは現実としか思えないような状態である俺とは違って、人目の無い隔離された落ち着いたところでこっそり相談しようが、このまま天下の往来で大声で話そうが、どちらもパソコンに向かってキーボードを叩いているに過ぎない。

 でも、実際に異世界こっちにいる俺からしたら、今しようとしているのは路のど真ん中で、それも他の人の通行遮ってめだってするような話ではない。俺が他の世界からの転移——パソコンにキスしたら体が入れ替わって聖騎士ユウ・ランドの中に入ったとか。この世界はゲームだと「俺たち」は思っているとか。この世界の人たちが聞いたら何をバカななことを言ってるんだ——と思われるくらいならまだいいが、それが魔法帝国側の企みかなんかだと思われたらまずいよな。聖騎士の体が何者かに乗っ取られた? とか、いかにもそれっぽい。それで誤解されて、捕まって尋問されるのなんていやだよ。中世風世界で中世風拷問なんかされるのは……、って考えただけでも寒気がする。


 だから……。


「ここがあんたの部屋ってわけ?」

 やって来たのは俺の部屋だった。

 聖騎士の隊長クラスとなった俺は、この後、神殿内の騎士の宿舎に住むことになる。——その義務が生じるはずであったが、隊長になったばかりの俺は、引っ越し前でまだ場末の安宿暮らしてあった。

 ……というか、そういう脳内設定だったんだけど、本当にそのとおりであった。なんとなく街のこの辺なのかなって一帯をウロウロしてたら、宿の女主人に声をかけられて俺はその中に入ることになるのだった。その後は「ここかな?」って思った部屋が俺の部屋だった。もらった鍵を回して中に入れば、

「何だか私の部屋と雰囲気似てるね」

 そのとおりであった。喜多見美亜あいつの部屋、俺がこのプライマル・マジカル・ワールドプラマジを夏休みの最後にやり込んだその部屋にこの場所はにていた。

 もちろんあいつのだだあまな父さんが『おしゃれな机が欲しい』と娘に言われて買ってあげた馬鹿高いモダンな家具があったり、まるで変身ロボットかというくらいにやたらと調整できる場所が多いだけあって随分と座りやすい機能的な椅子があったり、ましてやりんごのマークのついたパソコンがあったりするわけではないが、——なんとなく全体の雰囲気はその部屋に似ていた。

 家具の置き場所、大きさ、その形とか、そもそもの部屋の作りなどが、喜多見美亜あいつの部屋に似ていたのだった。それは、俺がゲームをやりこんだその部屋の様子が、この世界でも俺が住む場所として……。

 でも、それも脳内設定のはずだったんだけどな。ゲームの中には住んでる部屋なんて出てこないし。

「なんか、そういう話聞くと、ここはあんたの妄想の中の世界というようにも思えてくるね」

「ああ」

 俺もその可能性は考えていないでもなかった。俺が考えて、誰にも伝えてないし、書き残してさえいないような設定がこの世界には多々反映されているのだった。これは、——俺の妄想がこの世界を作り出したと考えれば理屈に合わないでもないが、

「でも、私はあんたの妄想の中の人物じゃないわよ。というか、自分がボッチオタクの妄想産物だなんて、そんなの勘弁して……」

 確かにこいつが俺の妄想だとは思えないんだよな。

 もちろん喜多見美亜こいつが、俺が妄想と思えないような妄想の産物って可能性もあるが、

「俺も、妄想するならもっとましな女性を妄想するよ」

 百合ちゃんとか。

「はあ? まあ、そんな軽口叩いてるんならこのまま全く助けて上げなくても良いんだけど。その聖騎士様がこっちの世界でこのままやり放題にするのをほおっておいて……」

「いや、それじゃお前も困るだろ?」

 なにしろゲームの中のキャラクター(と俺たちは思っている)聖騎士ユウ・ランドが入れ替わったのは喜多見美亜こいつの体だ。俺が入れ替わっていた喜多見美亜こいつ自身の体だ。

「くっ!」

「聖騎士様が現代日本で常識はずれの行動をすれば、それがそのまま喜多見美亜おまえの悪評になるよな……」

 どちらにしても、俺たちはこの事態をなんとかするしかない。少なくとも、これが俺の妄想中の中の世界だったにしても、画面の向こうから俺にチャットで話しかけているあいつは、聖騎士ユウ・ランドに現代日本で暴走されると困るのは確かなのだから、

「……じゃあ、ちゃんと起きてることを整理しよう」

 俺の提案にしょうがないといった顔でうなずく喜多見美亜あいつのアバターの——パチモン魔法少女なのであった。


   *


 というわけで異世界の俺の部屋で始めた喜多見美亜あいつとの相談は、主に俺の世界——現代日本へ紛れ込んでしまった聖騎士様をどうあつかったらよいのか、そしてどうやって俺が元の体に戻れば良いのかということになった。

『ゲームの中、——そっちの世界で私がどうやってあんたを助けるかは話さなくて良いの?』

 と言われたが、喜多見美亜こいつはまだゲームは始めたばかりで、俺と一緒にミッションをこなせるようなレベルには無い。もしこの事態が長期化——俺がゲームなの中に長くとどまって、様々なミッションをこなさないといけなくなるようなことも考えて、パチモン魔法少女こいつのレベルをあげて協力をもらうことも考えなければならないが、緊急なのはそっちではない。

 聖騎士様をさっさと見つけてこちらの世界にお戻り願わないといけないことのほうだ。戻る方法は多分、今までの体入れ替わりの経緯から考えて、これもキスする——モニターの中に見えるだろうユウ・ランドと接吻願うしかないだろうけど、

「ともかく探しに行くしかないが……」

「どこにいったのか皆目見当つかないわよね」

現代日本そっちの基本知識ないのなら電車にのって遠くにいくとかはないと思うが、——思うままに歩き回られても見つけるのは難しいよな」

「街中うろついてたら、森のなかに隠れられたりしたら」

 我が地元は東京にもほど近い郊外であるが、山も川もある自然も豊かな場所なのである。それは普段は心地よく、郷土の自慢ポイントでもあるのだが、この場合はより探索を困難にする要素であった。

「でも、聖騎士様の目的が、まずは状況の把握や視察なら、森の中に隠れているなんてことはないか……。何かに追われて逃げているのならともかく、聖都で普通に歩いているときに俺と入れ替わったんだからな。まあ、何かの陰謀や事件を想定して慎重になっているだろうけど」

「この世界を偵察してくる、とか言ってたのだから、たぶん隠れて出てこないってことはないんじゃないかな?」

「そうだな。なるべく人目につかないように動くかもしれないが、じっとひそんで出てこないということはないかもしれないな……そっちの世界が危険がなさそうだと思えば、見てるだけでなくて街中に出てさらなる状況把握を図ろうとするかもしれないしな」

「でも、私だけじゃ……」

「人数が足りないな」

 歩いていける範囲と考えても結構広さになる。情報収集のため住宅地や森とかよりも繁華街を中心に移動していると考えても、隣駅くらいまで考えたらそれなりの範囲の捜索となってしまう。喜多見美亜あいつが特に計画もなくうろついて偶然出会える可能性は高くないかもしれない。それに喜多見美亜あいつが今入っている俺——向ヶ丘勇の体は、聖騎士ユウ・ランドに見られているのだから、近寄ったら隠れられるか……、場合によってはもう一度縛り上げられてしまうかもしれない。

「なら、他の人にも頼むしかないよね」

 首肯する俺。

 頼める人っていったら……。

 体入れ替わりの事情を知る、百合ちゃん天使下北沢花奈オタ充萌夏さんパリポは少し住んでいる場所離れてるので除外して、生田緑女帝あたりか。

 喜多見美亜あいつもそれしかないかなってことで、

「じゃあ、私から頼んでみるよ」

 三人に順番で電話をかけてもらうことになった。


 まずは百合ちゃん。

 今度はゲームの中のキャラクターと入れ替わってしまったと言う事態に驚くも、すぐに状況を理解して、すぐに聖騎士探索をしてくれる了解と、このあとゲームの中でも助けが欲しければと、プライマル・マジカル・ワールドプラマジにも参加、ログインをしてくれることになった。

 ゲームの中に入れ替わったなんて、そんな馬鹿げたことを言われても、一切の疑いも挟まずに真摯に話を聞いてくれて、そして迷いなくすぐに行動してくれる。さすが百合ちゃんであった。天使であった。


 そして、下北沢花奈。

 彼女も、事態をすぐに理解してくれて、探索にもすぐ参加してくれる約束をしてくれたのだが、

『中世世界の聖騎士。取材したい!』

 とどうもこの機会を創作に生かそうと私利私欲は満々のようであるが、

プライマル・マジカル・ワールドプラマジはブラッディ・ワールドでない別のマップならやり込んでるから、僕もすぐにそっちに行くよ』

 なんと、ニワカで急造聖騎士としてゲームを楽しんでいた俺とは違って、すでにこの世界の強者である風の下北沢花奈でっあった。それは、たのもしい。彼女は現実リアルよりももしかしたらこっちで助けになるかもしれない、と俺はうれしくなる……のだが。そのジョブを聞いたら、

『まお……いいじゃないそんなこと。後で』

 と言い淀んだというのがのが少し心配であった……。


 で、最後に女帝——生田緑。

 ついこの間まで俺が入れ替わっていたクラスのリア中のトップ女子に喜多見美亜あいつが電話したところ、

『え、聖騎士? なにそれ、でも、というか、それが喜多見美亜あなたの体のことをさすのならば』

『……?』

『今、私の横にいるんだけど』

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