第106話 俺、今、女子聖都放浪中
俺が入り込んでしまった異世界。多分俺がやっていたゲーム”プライマル・マジカル・ワールド”と同一のように思われる世界。パソコンの中のゲームのキャラクターとキスをして入れ替わってやってきたのだと思われるこの場所。
ここ、——俺はゲームの中に入り込んだのか? それとも本当に存在する世界で、——ゲームとして俺の世界に繋がっていたのか?
それを確かめるための一つの方法として、俺はNPC——ノン・プレイヤー・キャラクター——と話してみてはどうかと思いついた。その中の人がいるキャラクター、ドワーフのルンとはさっき会話がなりたったが、パソコンの向こう側、キーボードで打つチャットの会話がそのまま声になって聞こえる、俺の声も向こうにはチャットとなって聞こえる、——のだと思えばなんとか事態の説明はできる。
ではプレイヤーのいないキャラクターとの会話なら? その自然さで、この世界の人々が本物なのか判断があるていどできないだろうか? そんな風に俺は思ったのだった。
そして、
「おお、ランドちゃんいらっしゃい!」
「ユウ! よく来たな!」
「こっちで一緒に飲もうか!」
やって来たのは酒場。
声をかけて来たのは酒場の店主のおばさんと、常連の二人のおじさん。共に名前もないというか画面上では「おかみ」「常連A」「常連B」としか表示されない三人であった。ゲームの途中の小休止で、俺はこの酒場には度々来ていた。だが、この三人について、俺はその表示以上のことを知らない。ここで、この人たちと行われるテンプレートの会話の中にレベルアップのヒントや次の戦いの情報などが運営により潜まされているので、訪れるのは頻繁の俺であったが、NPCの中でもそれほど重要なキャラな訳でもなく、キャラ付けも掘り下げられていないこの人たちのことはあまりまじめに交流していたとは言い難い。
しかし、
「なんだお前、いつのまにか聖騎士隊長になったんだってな」
「すごいですねユウ。あっという間じゃないですか」
「は、はい」
「……まあ、あんたたちランドちゃんにそんなタメ口聞いて良いんですか? もうあたたちみたいな呑んだくれよりずっと偉いんですよ」
「は? おかみこそ、ちゃんずけじゃんかよ」
「そうだ、そうだ」
「あたしはいいのよ。ランドちゃんの成長ずっと見守ってきたんだからおかあさんみたいもんでしょ。ねえランドちゃん」
「え、……はい」
「無理やり言わせてんじゃんかよ」
「そうだ、そうだ」
「あら、あんたたち、そんな事言うんなら今日の飲み代は倍にするよ」
「なに?」
「ひでえ、横暴だ!」
「いやなら、その失礼な口を閉じて……」
*
——ううむ。
俺は、酒場を出てから考え込んでいた。
なんと言うか自然だった。
NPCの人たちとの会話がであった。
こう言えば、そうかえってくる。ああ言えば、こうかえってくる。そのやりとりはとても自然であった。
まあ、普通に会話がてきていた。
それは人間との会話に比べて何ら変わるところがなかったが……。
これってでもあの酒場の人たちが本物であることの証明になるのかな?
いや、あそこに行く前には会話すればわかると思ってたのだが、よく考えてみると単に見分けられないだけだよな。俺が見分けられないほど高度な反応をするAIであった、——ってことはないかな?
チューリングテストをしたら合格したがそれは相手が人間「でない」とは見抜けないだけで、本物の人間かってのはわかってないよな。
あっ、チューリングテストって知ってるよね? 念のため説明するとコンピュータの父の一人とも言われるイギリスの学者アラン・チューリングが提唱したコンピュータに知性があるかを見分ける方法で、実際にコンピュータの姿を見せないで、テキストとかでやりとりして、そのコンピュータを人間だと思えばテスト合格って言うもの。
このテスト方法は、本当に知性があるかを何かの指標で図っているわけでなく、知性がないことを見分けられないってことだから、これって知性の証明ではないのではという批判は最初から随分あったらしい。けれど、でも、それっていつも日常生活であいてが人間だって判断してるのは、相手の反応を見てそう判断しているのだから我々が普段やっている生活全般を疑うことになるのでは。
いやいや、たまたま、まだ現実には人間と見間違うような精巧なアンドロイドとかいないから、見れば相手が人間かそうではないかってのはわかるから、本当は今話している相手が人間そっくりの別のものだけど、自分に見分けられないだけなのかもしれない? なんて疑念の出番はないわけだけど……。
この世界では、俺が見ている街の人々はNPCで、その中に意識はないのではないと言う可能性がある。俺はそう疑って、——しかし区別がつかない。もちろん、区別がつかないなら、それは本物だと思って対応してしまってもよいのだろうが、やっぱりなんか引っかかるんだよな。
そう思い、俺はさらに街のあちこちの行きつけの場所で、ゲームの中かでやりとりのあったNPCたちに会いに行ってみるが、過不足なく、不自然さのないやりとりが延々とに繰り返されることになる。
魔法薬店でのエリクサーの購入の時、武器店で剣の物色の時、屋台でパンを買う時。最近話題の魔法帝国の聖都進行の噂の他、天気の話や、相手の家族の話など聞き出したり、——少々唐突なものも含めてあえていろいろと聞き出して見たりしたのだが、どうにも、あまりに普通のやりとりがなされるだけで、俺は、結局この世界が偽物——ゲームの中の世界だと言う証拠は見つけ出すことができないでいる。
でも、本物だって証拠は難しいだよな。いくら本物としか思えない体験を積み重ねても、それが「本物」を意味するのかと言えば、——それって本物は何なのかっていう定義の問題になっちゃうんだよな。
こんなの……。
ああ、やめだやめだ。めんどくせ。
この世界がゲームの中でも本物でもどっちでも良いじゃないか。
俺は「本物」としか思えないようなリアルさでこの世界にいる。
それも相当リアルが「充実」した状況だぞ。聖騎士として小さいが隊を任され、もうすぐ行われる大イベント——俺にとっては多分「本物」にしか見えない——聖都攻防戦を戦わないといけない。
たぶん、本物としか思えないような戦いを。
んんん——。
それって、もしかして、
「いてっ!」
俺は自分で自分の手を強くつねって見て、確かに痛みを感じることを確かめる。
うん。本物だ。体に感じる痛みも、——ってことは。
「戻ろう」
俺は、この後の魔法帝国の進行の時自分が「本物」として戦わねばならないことの意味に気づき、これは一刻も早く元の体に戻らねばと思うのだった。
だが、どうしたら……。
と俺は悩むのであったが、
「あ、いた! あんたいろいろほっつい歩いていたのでなかなかあえなかったじゃない!」
ちょうどその時、御誂え向きに現れたのはパチモン魔法少女のような格好の女、
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