第71話 俺、今、女子ドライブ中
気づけば、いつの間にか曜日は金曜となっていた。
とまあ、こうやって今週を振り返って見ると、寝ている時間以外は、一日じゅうパーティ続きと言った感じだった先週の怒涛のパリポ生活とは違い、随分と余裕があるなと感じてしまう。
が、よく考えたら完全オフは昨日の水曜だけで、少し感覚が毒されて来たかなって思う。なんかどこにも出かけずに家にると、萌さん的にこれでよいのかと不安になってしまうような……。もしかして、やっぱり呼び出されて一晩中騒ぎ続けないといけないのでは? とか言うような感覚が昨日、一昨日とあったのだった。
だが、今日からは、そんな不安とは無縁の生活。このあと三日間はずっと二十四時間パーティ・ピーポー。となる予定だった。
そう。俺は今、ちょっとした旅立ちのための荷造り中であった。今日から三日間、先週から萌さんに言われていた、確か山梨県で行われる野外イベントにこの後出かけなければならないのだった。
まあ、予定があるとあるでめんどくさいと今度は思ってしまって、朝起きてからなかなか準備も手もつかずだらだらとしてしまったのだが、出発はもう一時間後ぐらいになる予定だ。よし子さんが萌さんのマンションまで車で迎えに来てくれるのだが、途中でそのくらいにつくと電話がかかってきて、——それで俺は慌てて準備を始めたところだった。
今日から行く場所は、電車やバスなんかの公共機関ではなかなか行きにくい山の奥にあるらしいので、三日間必要なものを全部詰め込んで行かなければならないが、そもそもそう言う時に女の人が何を持っていけばわからない俺は、萌さんからSNSで指示があった着替えやら、化粧道具や、タオルとか靴とか、中には下着とか生理用品とか、乙女の秘密系の物品も含めて心を無にして淡々と大きなバックに詰め込んでいく。
この体入れ替わり事象の倫理規程なのか、萌さんの下着を入れる瞬間だけは意識が飛ぶが、まあそんなものを俺がじっくりと見ていたと言う事実があると会った時に気まずいので、風呂とかトイレとかも含めて、乙女の秘密にかかわるような行動の時には無意識で作業をすることになるこの謎の現象はむしろ歓迎なのだが、
「あれ、こんな時間!」
意識が飛んでいる間、勝手に時間が経ってしまい、気づけばよし子さんの到着予定時間までもうあまり時間も無くなっていて、俺はさらにあわてて荷造りを進めるのだった。
そして……。
「間に合った……」
俺は、なんとかよし子さんの到着前に終わった旅支度を終えると、ちょうどかかって来た到着を告げる電話で萌さんのマンションの部屋から出る。
すると、玄関の前から見下ろした路上にには、ミニバンが止まり、横にたったよし子さんが手を降っている。この週末のイベントのため、よし子さんが親の車をこの週末だけ借りてくれたのだった。
で、俺の今いる都内のマンションにまずはやってきてピックアップ。そして多摩川を越えていっしょに行く
うん、あいつ「たち」だ。
このイベントについて行くのは、あいつ一人だけじゃない。
もちろん、今あいつと入れ替わっている萌さんが行かないわけはないが、今回の旅にはもう二人余計なJKがついてくる、
となれば、それは、言わずもがな。生田緑と和泉珠琴であった。
正直この二人についてこられるといろいろ面倒くさいと、思わないでもなかったが、問題は喜多見美亜(の体)をどうやって外泊させるかと言うことであった。あの喜多見家父親のチェックをかいくぐって二日間泊まりで旅行をするとなると、前に夜に学校に忍び込んた時みたいに、百合ちゃんにアリバイの電話入れてもらうくらいではとても持ちそうはない。
なのでのでこの二人も巻き込んだというわけであった。
——で、それはあっけないほどに簡単に成功。
特に、生田緑の方は、
「あの生田さんのお嬢さんと一緒なら……」
とあいつの親もあきらめたとのことたった。
それを聞いて、あの少し狂気が入ってるぐらいに娘ラブの父親がそんなあっさり外泊を許可してしまうような生田家ってどんな家? ってちょっと興味を覚えないでもなかったが、人の家の事情などに立ち入ってもめんどくさい。そう思って、俺はそれ以上の詮索をするのをやめた。生田緑を筆頭とするリア充グループとは、必要最小限の付き合いだけにとどめて、これ以上余計なめんどくさい付き合いを増やしたくない。
家族の事情なんて知ってしまって、相手のそんなことを気にしだしたら、もっと踏み込んで相手のことを考えてしまうようになってしまうかもしれない。
——ああ、やだやだ。
そんな面倒くさいしがらみから離れて、心穏やかに孤高をつらぬこうと、意識高い系のボッチを遂行し続けていたのが体が入れ替わる前の俺だったのだ。
いくらリア充女子へと落ちぶれてしまった今の俺とはいえ、絶対にそんな社交的というか世間のしがらみに自らとらわれに行くような行動なんてするもんか。
そう思って、俺は生田家のことを調べることなどさっさと忘れ、エレベータを待たずに階段でマンションを駆け下りて、よし子さんの運転するミニバンに乗り込むのであった。この後、すぐに自分がその女帝生田緑その者に入れ替わってしまうなどとはこの時はまだ想像だにもしなかったのだが……。
——まあ女帝の件はともかく(それは別の物語)、まずはこの日の話。
よし子さんと俺は、昼前に萌さんのマンションにやってきたよし子さん運転の車に乗って、多摩川を渡り、地元駅前のロータリーに集合していた女子高生集団と合流する。
いや、男子高校生も一人いるか。
「うわ、やっぱ可愛い子だらけよね。萌がこの頃知り合ったっていう高校生たち。それに、何? あの中に一人でいれる男の子。勇くんだっけ? あんな自然に混じっていられるってどんな精神力よ。ていうか、正直ちょっと怪しい感じするわね」
よし子さんもなんか感じるところあるみたいのようだった。
でも『あやしい』って? それは……、
「あれじゃない……」
「……?」
「体は男だけど心は女……」
はい?
「な……なんでそれを」
俺は、いきなり真相をついてくるよし子さんにびっくりして、少し声を裏返させながら言う。
「えっ? 本当にそうなの?」
「……う」
俺はなぜか体入れ替わりの真実をよし子さんに知られてしまっていたことに驚愕し、思わず口ごもってしまうが、
「まさか、彼は本気でそういう性同一障害系の人なの? 確かにあの雰囲気で男子高校生ってのは少し有りないなって思ったけど本当にそうなんだ……」
あれ?
「いやいや、まって! そうじゃなくて……」
「えっ、『そうじゃない』って? じゃあどういう意味……」
「それは……」
うわ、これはつんだ。
体入れ替わったというわけにいかないし、言っても信じてもらえそうもない。
俺は自らの早とちりのせいで、いつぞやの百合ちゃんの時のように、また俺をそっち系の人として説明せねばならないはめになりそうになったが、
「こんにちわはっす! 今日から週末よろしくお願いしまっす!」
「ああ、こんにちは。い…らっしゃい」
ちょうどその時まるで体育会系の先輩への挨拶みたいなテンションで元気よく車に入ってきた和泉珠琴に話題は一旦途切れることになる。
おお、ナイスタイミング。すばらしい。
おれは心の中でこの
この意識が中途半端に高いうざ系リア充も、たまには良いことをする。
「こんにちは。今回はお世話になります」
「こんにちわ……」
「よろしく……」
そして、その後生田緑、
よし子さんは「後でもっと聞かせて」的な目線を俺に向けると、
「あっ、荷物は座席持ち込むと狭くなるから荷台に、今後ろのドアあけるから……」
かしましくも楽しげなその集団の対応に大わらわとなってしまうのだった。
*
その後、車内は騒がしいというか、うるさいというか、騒々しいというか、鬱陶しいというか、落ち着きがないというか……ああ、肯定的な感情をさっぱりもてない。
二日泊三日の野外パーティなどという非日常の体験にアドレナリンが出まくって興奮しているJK たちとパリポお姉さんたちの相乗作用でとてつもなくハイテンションなままに車の旅は進む。
「何? 萌、今日はテンション低いじゃない。昨夜飲み過ぎたとか?」
「いや、別に……」
「なんか萌、先週からちょっとテンション低めだよね。」
その騒ぎに入れない俺=萌さんが目立ってしまう。
でも、と言われても、ダメなものはダメだ。
こののりについていくのは、ぼっち上等の俺じゃなくて、リア充男子だってきついと思うぞ。
下手に中途半端に仲間に入ろうと思って、うっかり場違いの発言してしまったり、白けさしてしまったら、その後に場を復活させる自身がない。そう思えば怖くて口をひらけない。
というか、そもそも、連中の会話何が面白いのかわからない。
恋愛ネタ。かっこいい若手俳優が微妙な年齢差でずれていたこと。好きなお菓子やおしゃれの話。化粧のテクニックや服屋の店員あるあるとか、カフェの店員あるあるとか、女子高生の生活あるある……。
ミニバン内は微妙すぎて(男子高校生には)伝わらないモノマネ大会みたいになってしまって、俺は本気でうかつには口を挟めないような状態になってしまっているのだった。
けれど、そんな車内で、女子ネタに全く臆することなく対応していく
ならば、よし子さんの中の疑いは確信に変わり、
「ありゃ本物ね」
と俺は休憩で止まった高速道路のサービスエリアで、一人缶コーヒーを飲んでいるところにさっとやってきた彼女に言われるのだった。
ああ……まあ、この人脈の人たちには俺はそう思ってもらって置くとしよう。なんか、このあいだの新宿でのパーティを見ると、そう言う人たちに差別ない人たちのようだし。と俺は深い嘆息をしながら諦念の情を深く噛みしめる。
——とかとか。
いろいろとあった道中も、
「さあ、ついたわよ、みなさん!」
そろそろ夕方近くなり、まわりの高い山々の稜線がちょっと赤みがかってきたかなっていう頃には俺たちはついに目的の場所、三日間の野外パーティが行われるある山の中の公園に到着したのだった。
そして……。
俺は思った。
今頃、あの男。
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