第108話 真実の相合傘

「で、シェリル。その竿って…………ど、どういう感じだった?」


「そうだな。こう……骨があったぞ」


「骨っ!? 新太のアレ、やっぱり骨があるの!?」


「ふがが」ないから。


「ああ、しかもその骨、驚くことに自在に折ることができるのだ」


「骨が折れるって……だいじょうぶなの? ああ、でも新太のは昔から左曲がりだったから、折れてるってきっとそういうことよね」


「ふががーが」何で知ってる。


 話はどんどん変な方向に進んでいる。

 しかもかみ合わないようでかみ合っているから、お互いに内容が違っていることに気がつかないのだろう。

 ……ううむ、これはやっかいだな。


「ねえシェリル。中に入れてもらって、新太は何て言ってた?」


「ええと、ちょっとせまいなって言ってたぞ」


「そ、そう。シェリルはせまいんだ。あとは……どんな様子だった?」


「そうだな。……かなり激しく降っていたな」


「激しく振ってたの!? 新太、そうとう興奮してたのね」


「ふがっが」それ腰な。


「他には!? そのあとどうなったの!?」


「わたしの中に、液が流れこんできてしまったんだ。あのときは思わず『ひゃん!』と言ってしまったぞ」


 シェリルは指で首筋をさしていたのだが、もはや興奮した花梨の目には、そんなものは見えていないようだった。


「液が、流れこんで……。ねえ、その……気持ち良かった?」


「いや、そのときは何が何だかわからなかったな。でもそのあとアラタがわたしを抱きよせてくれて、すごく嬉しかったのを覚えている。アラタとふれあっている部分が、とてもあたたかくて心地よかった……」


「そうなんだ。…………うらやましい」



 う、うらやましい……?

 花梨が想像してるのって、アレなんだよな?

 つまり花梨は、アレがしたいって思ってるのか?


 俺と花梨がしてるところを想像したら、すごくドキドキしてしまった。



「あれ、お兄ちゃんたち、何してるの? もうごはんできてるよ?」


 菜々芽が不思議そうな顔をして、こっちにやってくる。


「ダメよ菜々芽ちゃん! 今オトナの大事な話をしてるの! お願いだからちょっと向こうに行ってて!!」


 花梨が慌てて、菜々芽を追い返そうとしている。

 菜々芽はまだ12歳。

 性の知識を仕入れるには、ちょっと早いお年頃。


「えー、でも今の話、全部こっちまで聞こえてたよ?」


「そ、そんな!! ダメよ菜々芽ちゃん! 今の話は全部忘れて!!」


「そうなの? リンお姉ちゃん、どうして?」


 菜々芽はきょとんとした表情で、こう言った。





「だって、今のは折りたたみ傘の話でしょ?」





「え…………?」


 花梨が石のように固まってしまう。


「だってリンお姉ちゃん、中に入るっていうのも骨があるっていうのも傘の話だし、濡れるのは雨が降ってるからで、せまいのは2人で1つの傘を使ったからでしょ?」


「え……? そ、そんな…………! でも、確かに……」


 花梨はハッとすると、真実を知って真っ赤になってしまった。

 さすがはエロ知識皆無の菜々芽。

 当たり前のように、正解がわかっていたようだ。


「傘じゃないなら、リンお姉ちゃんは何だと思ってたの?」


「と、当然あたしも傘だと思ってたわよ! ね、ねえ、シェリル!」


「そうだな。あれだけわたしと話がかみ合っていたのだ。カリンが他のことを想像していたというのは、まず考えにくいな」


「で、でしょう? あは、あははっ、あははははっ」


 花梨はぎこちない笑いを浮かべていた。

 そしてふいに、俺と目が合ってしまう。


 俺だけが花梨の考えていたことを、すべて知っている。

 さすがは幼なじみ。それが一瞬にして花梨に知られてしまった。


「あははははっ、あははははっ………………新太のバカぁぁぁぁぁぁっ!!」


【かりんのこうげき! かいしんのいちげき! かいしんのいちげき! さらにかいしんのいちげき!】ドカドカドカッ!!


「ぐへごはぐばぁっ! あばばばばば……っ」


「ふんっ、新太はごはん抜きなんだから!」


 そ、そんな殺生な……。

 ケガはローションで治せる。

 でもごはんがないのは、どうにもならないんだぞ。



「ごはんがヌキだと!? おかずは、おかずは何なんだ!?」




 シェリルのこの言葉を聞きながら、俺は意識を失ったのだった……。

 くそー、もう二度と相合傘なんてしないからな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

下ネタは異世界を救う 非常口 @ashishiF

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ