第85話 魔王復活②
「なぜなのです!? なぜ今日に早まったというのですか!?」
受付のお姉さんの姿をした女神が、上空の映像に向かって叫ぶ。
しかし一方的な配信なのか、魔軍参謀は反応を示すことはない。
悲願の達成が目前だからなのか、恍惚の表情を浮かべて演説を続けている。
「フハハ、フハハハハッ!! まるでこの耳に聞こえてくるようだぞ、全人類のざわめきがな!! 加えて憎き神々のヤツらが、今日になった理由もわからずになげいている姿まで見えてきそうだ!! いいだろう、どうして突然魔王様が復活することになったのか、この私が説明してやろうじゃあないか!!」
……こいつ、参謀って割には頭悪そうだな。
みんなも同じこと思ってそうだが、事が事だけに黙って聞いていた。
「魔王様は今、精神体となって深い眠りについている。我々としても時間をかけて最強の肉体を製造し、満を持して復活していただくつもりだった。――ところが!!」
バンッと両手で机を叩く音とともに、参謀が立ち上がる。
「我々の総本山、魔の山がいきなり襲撃されたのだ!! そのせいで作りかけだった魔王様の肉体はこっぱみじんになってしまった!! 予告もなしに攻撃してくるとは何事だ!! 見損なったぞ、愚かな人間どもよ!!」
愚かとか言ってるくせに、見損なうもなにもないよなあ……。
普段ならそう思うところだが、しかし今回に限ってはそんな余裕はなかった。
心当たりがあるのだ。その襲撃に――
「おい……」
「ああ……」
俺とシェリルは、顔を見合わせたあとに菜々芽を見た。
菜々芽が始めて
確かシェリルが、その山が魔物の総本山だとか言っていたが、そのときに製造中だった魔王の肉体が、運良く(?)破壊できたらしい。
魔軍参謀が包帯だらけなのも、その爆発に巻きこまれたからだろう。
当の菜々芽と、そのときはまだいなかった花梨はキョトンとしている。
女神はハッとした顔になっていた。今のですべての謎が解けたらしい。
「魔王様の肉体がふたたび作り出せるほどの素材はない。そこで我々は代替案を考えた。復活の儀式には、3つの満月の力を用いることにしたのだ。そして魔王様の肉体は――貴様ら人間のものを使うことに決定した!!」
人間に……?
人間の体に憑依させるって感じなのだろうか?
女神はすでにもうわかっていたのか、これに驚くことはなかった。
難しい顔をしながらも、顔色は真っ青になっている。
「魔王様が乗り移れる、良質な人間をちょうど見つけられたのでな! その人間とはあふれんばかりの負の感情を持つ者、すなわち――人類の中でもっとも欲求不満が高まっている者だ!! この者ならば、魔王様の絶大なる魔力を存分に発揮することであろう!! さあ今こそ復活のとき。人間どもよ、刮目せよ!!」
あ、適合するのは欲求不満な人間なんだ。
まあこの世界なら、確かにぴったりなのかもしれないけど……。
そんなことを考えていたら、上空の月が3個同時にまばゆく輝く。
3個の位置を見てみると、ちょうど正三角形を描いていた。
赤、青、黄色……すべての色が混ざりあい、世界は漆黒に包まれる。
「……お兄ちゃん!!」
怖いのだろう、菜々芽が抱きついてくる。
世界が――闇に包まれた瞬間。
そのときの俺は、菜々芽を抱きしめながらも、世界の行く末をただ見ていることしかできなかった。
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