第71話 女神

 結局、俺は風呂にはつからずシャワーですますことにした。

 



 なあ女神、俺ちょっと気になってたんだけどさ……。

 もしかしてお前、俺のハダカ見えてる?


『もちろんです。アラタの視界は私と共有されていますから』


「そ、それを早く言えよおおおおおおおお!!」


 つい声を上げてしまった俺は、慌ててタオルで前を隠す。



『恥ずかしがらなくてもだいじょうぶですよ。堂々と見せてもいいくらいには、立派ではありませんか。じー……きゃっ(//0//)』



 うるせえよ、わざとらしい。

 立派だとしても恥ずかしいもんは恥ずかしいの。

 ってか、どうせ立派だっていうのも、からかってるんだろ?



『そんなことはありません。私はアラタのそれ、好きですよ?』



 …………。

 はいはい、そいつはどーも。

 やっぱりからかってるじゃねーか。

 さっきの「あとでネ」ってやつも、からかってたくせにさ。



『さっきのとは……?』



 そりゃ、アイテム欄の「どうてい」を捨てようとしたときのことだよ。



『あ、あのときのですか……』



 ここで女神の声が途切れる。

 俺がシャワーを出すと、すぐにまわりに湯気が上がった。



『あ、あの……アラタ!』



 女神には珍しく、勇気を振り絞ったような声。

 次の瞬間、いきなり目の前に一糸まとわぬ女神が出現した。

 え……? いったい何が起こったんだ……?

 つーか女神、ハダカ……。


『アラタは本当に、私で童貞を捨てたいと思ってくれていたのですか……?』


「え……!? えええええっ!? いや、その……っ」


 そして、しばらくの間シャワーの音だけが浴室に響いていた。


 女神の裸体は目を離せないほどに美しかった。丸みをおびた大きくて柔らかそうな胸、キュッとひきしまった腰、ふくよかで張りがあるお尻、湯気が邪魔で明確には見えないものの、トップレベルのグラビア女優に匹敵することは間違いない。


 そんな彼女が、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに目をそらしている。

 これはおそらく……からかっているわけじゃない。

 そりゃこんなチャンス二度とないだろうけど、でも、俺は……。


『ではこうしましょう。魔王を倒したら、そのお礼に私を好きにして下さい』


「……ばーか。そんなん別にいらねーよ」


 素っ気なく答える俺。

 女神はというと、上目づかいの瞳を潤ませていた。


『そんな……。アラタは私に魅力を感じませんか……?』


「ちげーよ、そんなんドキドキしまくってるに決まってるだろ。今すぐ理性吹っ飛ばして抱きつきたいくらいだよ。でもな、俺をバカにすんのもいい加減にしろ。礼なんかなくたって、魔王は倒すって言ってんだよ」


『え……?』


「俺は、その……お前には感謝してんだ。エロ魔法なんてくだらないシステムはあるにしろ、ロープレ風の世界に転生させてくれたのは割と楽しいし、菜々芽や花梨も一緒に転生させてくれたし、おかげでシェリルにも出会えたし……」



 あー、恥ずい!

 でもここまで来たら、最後まで言わないと。



「だから女神……ありがとう。俺なんかに魔王が倒せるかはわからないけど、できる限りのことはするつもりだ。もちろん、見返りなんかなくたってさ」



 俺がそう言い終えたとたん、女神の瞳からブワッと涙があふれた。


 あれ? 俺……何かまずいこと、言っちゃったか!?

 目の前の女性を泣かせてしまったことにうろたえていると、いきなり女神が抱きついてくるではないか。しかも熱烈に。


『アラタぁぁぁぁっ! ありがとうございますぅぅぅっ! うわーん!!』


「うわあ、やめろって! 俺もお前もハダカなんだからな!!」


 よかった、喜んでくれてたのか。

 だったら魔王を倒すの、がんばらないとな。




 でもこの状況……俺の理性がギリギリなんで、早く何とかしてください。

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