第37話 ポーションは塗り薬

「さあ、アラタわたしがポーションを塗ってやろう」


「えええっ!? べ、別にいいから!!」


「遠慮はするな。ケガをしてるのはどこだ?」


「やめろって!! 俺の服を脱がそうとするんじゃねえ!!」


 ボロボロで動けなくなっている俺に、シェリルがおおいかぶさってくる。

 そして自分の手にローションをかけると、俺の体に手を伸ばしてきた。

 いやああああっ! そ、それはマズイって!! マズイって!!


「――ちょっと待って!」


 それをとどめたのは、花梨の声だった。

 よしいいぞ花梨! 俺のことはどんなに嫌ってもかまわないから、こんないかがわしいシェリルの行動はすぐにやめさせるんだ!! ……いや、できれば嫌うのはほどほどにしてほしいけど。


「ねえシェリ。そのヌルヌル……あたしにもやらせて」


「はああっ!? 何言ってんだよ花梨!!」


「べ、別にやりたいわけじゃないわよ! アンタに触るだなんて、こんな気持ちの悪いこと他にないわ! でも、アンタのダメージはあたしのせいだから、その……あたしがやるってのが筋ってものでしょ?」


 そうだった。花梨はこういうヤツだった。

 妙に律儀というか、貸しは絶対に作らないタイプなんだよな。

 学校でも風紀委員とかやってたくらいだし。


 つーかこれって、さっきより状況が悪くなっちまったぞ……?


「はいはいはーい! お兄ちゃん、あたしもぬりぬりしたーい!」


「菜々芽まで!? ダメだ菜々芽、お兄ちゃんは許さないぞ!!」


「えー、こんなにおもしろそうなのに! ねえシェリルお姉ちゃん、いいでしょ?」


「ああ、みんなでやろうではないか」


「やったー!!」


 シェリルが花梨や菜々芽の手に、ローションをかけた。

 そしてヌルヌルになった彼女たちの手が、俺の全身をなでまわす。

 ちょ……、ムズムズしてくすぐったいんですけど! うひゃひゃ、笑いをこらえるのが精一杯で、つい体がクネクネ動いてしまう。……って、そこはらめええっ!!


「アラタはなかなか良いカラダだな。これは塗りがいがあるというものだ」


「気持ちわるっ! でも悶えるアンタ見てると……いい気味だわ」


「にひひっ、何この感触! おもしろーい!」


 3人とも、何か楽しそうに塗りたくってるし。

 俺の体をオモチャにして遊んでるようだ。

 ううっ、俺は汚されちゃった。これじゃもうお婿に行けない……。


 塗った部分がパアアッと発光して、ケガした部分がみるみる治っていく。

 大事な部分は懸命に死守したものの、それ以外は頭から足までテッカテカに塗られると、そこまで高くない俺のHPは最大値まで回復していた。

 痛みは完全になくなって、体の調子が良くなっているのを実感する。


 でも……俺の心のHPは、ゼロになっていたのですよ。

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