第129話 デート……ですか?
「見せて見せて!」
キッチンからドタドタと地面を揺らして神崎さんの方に急いだら、神崎さんが笑って言うんだよ。
「そんなに急がなくても逃げませんよ」
「早く見たいんだもん」
「そんな可愛い事を言わないでください」
「へ?」
「いえ、なんでもありません」
またかい、またなのかい。聞こえるように言えよ。わかんねーよ。
「うっわ、可愛い~!」
「気に入っていただけるといいのですが」
「気に入った! 見てくる!」
ソッコーでイヤリング付けて、洗面所に走る。地響きが凄い事になってるだろう。近くの気象庁震度観測点が反応しなきゃいいけど。
で。あたしは鏡を見てメッチャ恥ずかしくなったんだよ。
だってさ。だってさ。可愛いんだもん。イヤリング。恥ずかしくなるくらい可愛いんだもん。あたしには勿体無いくらい可愛いんだもん。
「似合ってますよ」
後ろから音も無く伊賀忍者が忍び寄ってた。音はさせなくてもいいから、人の気配くらいさせてよ。びっくりするじゃん。伊賀忍者って言うより背後霊だよ。
だけど。笑顔なんだけど。なんか切なげな笑顔なんだよ。どした?
「とても……可愛いです。とても」
「神崎さん?」
ふっと、神崎さんが後ろを向いて部屋に戻っちゃった。
「ねえ、どうしたの? この前からちょっと変だよ? 何か悩んでるの?」
「いえ、そうじゃありません」
「でも偶に苦しそうな顔してるよ」
「本当に何でもないんです」
「体、どっかしんどいの?」
「いえ、健康ですよ、問題ありません」
「じゃあ何なの? 何も無いってことないよ」
「そうだな、今は……山田さんによく似合っていて、可愛すぎて、そんな顔になったのかも知れませんね」
「変なのー、そんならもっと嬉しそうにしてよ。神崎さんが作ってくれたんだからー」
「……そうですね」
あ、神崎さん笑った。
「ね、ね、ね、昨日のチェックのシャツワンピも、先週のお花のカットワークのチュニックも、ピンクだって気づいてた? このイヤリング、絶対合うと思わない?」
「ええ、合いますよ。その為にピンクトルマリンでは無くてローズクオーツにしたんですから」
「合わせて選んだの?」
「勿論ですよ。お忘れですか? 僕はカラーコーディネイターですよ?」
「あ、そうだったね。お忘れでした。ね、ね、神崎さんのは? 見せてよ」
「こっちです」
「わー……綺麗」
神崎さんのは何かが引っかけられるパーツが付いてて、そこにあたしと同じように白い貝殻とパールビーズと紫の石がぶら下がってる。なんかほんとにお揃いだよ。
「この紫、綺麗だね。神秘的な色」
「アメジスト、僕の誕生石です。『愛の守護石』と呼ばれています」
「こんなパーツよく見つけて来るよね」
「これは割とどこにでもあるパーツですよ。ナスカンと言うんです」
「へー。神崎さんてほんと何でも知ってるよね」
「偶々ですよ」
「最近『偶々ですよ』多いよ」
「そうですか?」
「うん。『何でもありません』も多いけど」
「そう……ですか」
「ね、折角お揃い作ったんだから、これ付けてどっか行こうよ」
「これからですか?」
「今日はもうあんまり時間無いから勿体無い、明日!」
そしたら神崎さん、楽しそうに笑うんだよ。楽しそうにだよ?
「そうですね。どこがいいですか?」
「どこがいいかなぁ。でも明日、雨降るかな?」
「この調子だと止みそうにありませんね」
「じゃあ、水族館行こ! 貝つながりで」
「そういうつながりですか。いいですよ、行きましょう」
「神崎さんとデート!」
深い意味は無かったんだよ? 軽いノリでさ。だけど神崎さん、急に真顔になったんだよ。
「デート……ですか」
「え、やだ、冗談だよ」
「ああ、そうですよね。驚きました」
「神崎さん、真面目過ぎ~。サラッと返してよ」
「ええ、そうですね。……デート、しましょう」
あれ? やっぱジョークでもまずかったかな?
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