第58話 コピーですね
「ところで山田さん」
「何?」
「お気付きですか?後ろ、GT-Rですよ」
「え? ガンタ?」
確かにガンタの青い車だよ。でも、今日は煽って来ない。フツーに付いて来てる。どうしたんだろう?
「今日、煽って来ないね」
「そうですね」
「ねえ、昨日ってあれ、ガン無視したんだと思ってたけど、もしかしてわざとガンタに抜かせてやんなかった?」
神崎さんがルームミラー越しにガンタを優しい目で見てる。昨日と全然眼差しが違うよ。
「……誰がそんな事を仰ったんですか?」
「城代主任。ガンタが抜けなかった人は今まで居なかったって」
「そうですか」
それ以上なんにも言わない。って事は図星って事じゃん。
「彼はもう二度と僕を煽って来る事はありませんよ。多分ね」
「鈴鹿でやろうって言われるかもよ?」
「それも無いでしょう。やるならワンメイクレースでしょうが」
「何それ?」
「全く同じ条件の車両を使って、レーサーの腕だけで勝負するレースですよ。これならGT-Rだのレガシィワゴンだのと気にする必要はありません。完全にレーサーの腕オンリーですよ」
「へー、そんなのがあるんだ」
「でも僕はやりませんよ」
「まあそーだよね、国際C級つったっけ? 何だかよくわかんないけど、反則だよ」
「そうですね」
その時にさ、いきなり神崎さんてば、クスッと笑ったんだよ。
「岩田君……僕の走り方の真似をしてますね」
「ほえ?」
「ギアチェンジのタイミングや踏み込みの深さ、ハンドル操作、まるまるコピーしてますよ」
「何やってんだ? ガンタ」
「彼なりの遊びですよ。GT-Rでレガシィワゴンのコピーなんかしてもあまり意味は無いんですが、ちょっとしたゲームでしょう。そういう事なら、少々面白い運転を教えてあげた方が彼も楽しめるでしょうね。昨日は楽しませて貰いましたから、今日は僕が楽しませてあげないとね」
ガン無視のフリして、やっぱ昨日楽しんでたんじゃん! このポーカーフェイスめ!
「困りましたね。彼を楽しませてあげたいところですが、僕は山田さんの命をお預かりしてますからね」
「昨日楽しんでたんでしょ。なーにを今更」
「では、お言葉に甘えてちょっとだけ」
そう言って伊賀忍者はニヤリと笑うと、いきなりアクセルを踏み込んだ。
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