第48話 降りてください

「今日は土台になる足回りの確認だけやし、腕から先はFB70をそのまま乗っけとるだけやで」

「パワーに差が出るか気になりますね」

「そやなぁ」


 社屋の裏手にある試験場に、親父さん、ガンタ、神崎さん、城代主任、ヨッちゃん、それにあたしが集まっている。これから新機種FB80の試乗をするんだ。

 現行機種FB70と開発中のFB80の決定的な違いは「ハイブリッド仕様」にしたとこだから、あたしも見せて貰う事にしたわけ。メインコントロールパネルなんかはあたしの仕様だし、ソフト自体もあたしが組んでるから、見せてって頼んだら親父さん即OKくれた。

 実はこの試乗会が結構ワクワクすんのよ。だってさ、神崎さんが大枠の仕様を上げて来て、そこにあたしがソフトベースの仕様を作って、製造にOK貰ったらまたあたしが今度ソフト作って、それを神崎さんが車体設計段階で組み込んでくれるんだよ。で、その設計を元に親父さんやヨッちゃんたちが製造してくれんの。そんで販促会議にかけてターゲットを絞ってまた何度か改訂入れて、OK出たら大量生産よ?その最初の方の段階なんだもん、ワクワクするさー!

 

 さてそんなわけであたしたちの見守る中、ガンタがFB80試乗車に乗り込んだ訳よ。エンジン掛けて、早速なんか言ってる。


「このメインパネルのこれ、何すか?」


 メインパネル! あたしだ!

 あたしはすっ飛んでって運転席に乗り込もうとしたんだけど……どうやって乗ったらいいんだ~。


「山田さん、そのクローラの真ん中にステップがありますから、そこに足をかけて。僕につかまってください」


 神崎さんが音も立てずに後ろに立ってた。コイツ忍びの者か? 伊賀で修業しただろ。水の上、走れるだろ。鎖鎌とか持ってんだろ。


「もう、なんでキャブってこんなに高いの?」

「クローラの関係上、どうしてもこの高さになります」


  説明を求めたんじゃなくて愚痴っただけなんだけど、そーゆーのわからんかな。


「ガンタ良くぴょんてフツーに乗れるよね」

「岩田君は山田さんより脚が長いですから」

「身長の問題でしょっ!」

「勿論そのつもりで言いましたが、体重の問題もあるかもしれません」


 とかヘーキな顔でムカつく事を言いながら、それでもあたしの手を取ってくれる。ガンタがチラッと神崎さんを見て、運転席からあたしの方に手を伸ばして引っ張り上げてくれたんで、ヒーヒー言いながらもやっとこさっとこ運転席を覗き込む事ができたわけなんだけどさ。

 誰よ、こんな地面から1メートル以上も上空に運転席作ったの! 絶対車体設計したヤツだ。神崎、お前だろ!


「これなんすけど。こんなゲージFB70になかったっすよね?」

「あー、これはハイブリッドメーター。こっちがエコゲージ。んで、ここでパワーモードとエコモードに切り替えんの。掘削時にエコモードじゃパワー足りんわ~って時に、パワーモードにすれば……うわっ!」


 一人用のキャブに無理矢理半分体突っ込んで、フレームにつかまったまま変な体勢で説明してたら、手が滑って図らずもガンタの座ってる運転席の上にダイブしてしまった。ごめん、ガンタ……。


「うっ……う~」

「ごめんごめん、ちょっと待って。どうやって起きたらいいんだこれ」


 あたしはパニクる、ガンタは呼吸困難、慌ててその辺につかまろうとした瞬間、背後から鋭い声が飛んできた。


「動くな!」


 ビクッとして固まっていると、背後からあたしの脇の下に手を入れて静かに起こしてくれる人があった。


「そのままゆっくりフレームにつかまって」

「はい……」

「岩田君、大丈夫ですか?」

「俺は大丈夫っす」


 この声、神崎さんだ。


「山田さん、岩田君、二人ともマシンから降りてください。岩田君はエンジンを停止してからにしてください」


 あたしは神崎さんに後ろから支えられてキャブから降りた。


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