第37話 ~悲鳴~

 惑星プルトーへ闇のエネルギーが到達するのを、プルトーに住む人々は一部始終を見ていた。

 プルトーへ攻撃させまいと、そして報酬欲しさに燃え上がって闇のエネルギーへと闇雲に近づく沢山の戦艦達。

 数々の戦艦がエネルギーへ砲撃するも、それに加担するかのように膨大に広がっていく闇のエネルギー。それに対し、中には白旗を上げるような動きのある戦艦も見える。

 そして。エネルギー体は突入してくる戦艦と、反対に、離れようとする戦艦達を、これらを濃い色の絵具で塗りつぶす様にいとも簡単に飲み込んでいく。


 プルトーに住む住民達は、飲まれていく戦艦を見て悲鳴を上げ、悲鳴が悲鳴を産み、大混乱となり果てていた。


「誰か! 嫌だ! 助けて!!」

「邪魔よどいて!!」

「きゃっ!!」

「うわぁぁん!!」


 叫び声達は交差し、空を舞うばかりだ。


 エネルギー体はいくつも枝分かれする姿を見せ、触手の様にも見えた。

 その光景を、一つの戦艦はシールドを張りつつ接近を試みていた。


 戦艦の名は、クラウド――。


「何だ、こんなにも戦艦が居るというのに自殺行為としか見えない……」


 蒼い髪をさらりと揺らす、クラウド艦の艦長であるクライア。


「……バカなんじゃねぇの?」

「ケイ、こういう場合は言葉を選んであげなさい」

「艦長の代わりに言ったまでだぜ?」


 口の端を釣り上げたのはケイ。


「まぁ、いいだろう」

「あの! 艦長、エネルギー体が接近してきます!」

「プルトーへこんなにも間近に来ているんだ。いいか、今は砲撃を待て。まずは飲み込まれないようにシールドと加速へエネルギーを集中させるように」

了解ラジャー


 クライアは、チーム内の操縦士へ的確な指示を出す。


「たどり着いてみせる。これは、ライト君のためにもね」

「そんな、俺の名前とか出してもらったら……。申し訳ないですから」

「大丈夫だから。ね」


 ライトは驚いた表情でクライアを見る。クライアは、信じてくれないかという、強くゆるぎないものを瞳に宿らせ、ライトを見つめた。



 ルナシス艦へ、プルトー付近の様子の情報が詳しく伝わってきていた。指令室にてメンバーを集めたルミナは時折唇を噛みしめながら情報をメンバーに伝える。


「飲み込むとか……そんなのアリ!?」


 マイキーはたまらず、共に連れてきていたマークを抱きしめる。


『前代未聞だな。死の可能性もありそうだ』

「……いくら死なないっては知ってても、こればっかりは怖いわね」


 リーナも眉間にしわを寄せ口元に手を当てる。


「ええ。今回は流石にやばいわね。エネルギー体に飲まれた後は生きてるとか、そういう情報すら一切ないのが怖いわ……」


 ルミナは画面からメンバーへ視線を向ける。


「どうする? 一応、プルトーからの依頼、受けるつもりではいたけど」

「どうする、というと?」


 ユララムはしどろもどろになり、これ以上話していいのだろうかという表情だ。


「生きてるに、手を出させていいか、私は正直わからなくなってる」


 ルミナの判断にメンバーの想いも揺らぎ、黙り込む。


 しばらくの沈黙の後、口を開いたのはカナタだった。


「ゲームって、本来なら一応死はありますからね……。もしかしたら、死の事については、隣り合わせなのが当たり前なのかもしれないですよ?」 


「カナタ、こんな時に何言ってんの?」


 リーナは信じられないという表情でカナタに近づき胸倉を掴む。


「いや、だから……。絶対に死なないっていう確認は、まだ誰もしてない。だから逆に言えば、死なない確率だって、ちゃんと考えられるって事が言いたくて」

「何それ、考えすぎてて疲れる」


 カナタからふっと力が抜ける。リーナは納得のいかないという表情だ。


「まぁ、まぁ。リーナ。んん、じゃあ、俺は小さな確率に掛けよっかな?」


 マイキーはマークを一度高く放ると、小脇に挟んだ。


「本気ですか、マイキーさん!」

「んー、そしたらユララムは降りちゃう派?」


 マイキーの言葉に唇を噛むユララム。


「分かりません……。でも、もし本当に、今までの様に生きてる可能性が高いとなれば……突っ込むべきだと思います」


 ユララムはアイカを見て放つ。


「……アイカちゃんはさ、どうしたい?」


 アイカはマイキーに問われるまで、ずっと悩んでいた。



 どうしても、ライトの目を想うと辛い。

 あたしにできることならなんでもしたい。


 だけど――。


 皆を、巻き込んでいいのかと。

 自分の想いで、巻き込んでいいのかと。


 思ってしまう。



 カナタの視線を感じた気がした。




「なら、僕はアイカを守るから」

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