~ネオビードルと共に~ ②

 ネオビードルの巨大な角に触れた時、時空が歪むのが分かったため、更に意識を込めスピードを上げる。角には確かに、男性の戦闘服が引っかかっていた状態だった。


「……どうしよう、この人凄い表情。ってそんな場合じゃなかった」


 アイカは我に返ると角に引っかかった男性の服をすぐさま角から取る。


「よし……!」

『アイカさん、もう駄目みたいです!』

「うん! 分かっ」


 た、と言い終わるや否や、豪風が再開し、アイカは男性と共に吹き飛ばされた。


『アイカさん!!』


 ユララムはもう一度と意識を呪文に集中させようとするが、発動させた後はなかなか力が沸かない。


『くっそ……!!』


 ユララムは必死にアイカが飛ばされた方向へ、あらん限りの精神をスピードに込め、豪風の中を駆けた。



 ――ダンッ!!


「あ゛ぁっ!!」


 アイカは壁に背中から激突し、意識が遠のくのが分かり、そのまま倒れ込んだ。


「……っ! あれ、ここは……?」


 同時に、身体を起こしたのは、ネオビードルの角に引っかかっていたカナタだった。


「え、女の、人? え、え!?」

「何が……起きたの?」


 カナタの戦闘服のポケットから恐る恐る顔を出すエル。そして、倒れたアイカを見て蒼白して飛び出した。


「きゃぁ! うそ、どうして!?」


 エルはパタパタと羽ばたいてアイカの元へ降りた。

 その姿をただただ、カナタは眺めて、そしてはっと我に返って、アイカの元へ寄る。


「ねぇ、しっかりして!」

「えと、こういう場合って触っちゃいけないんだっけ……?」

「何言ってるの! 起こしてあげてよ!」


 エルは全身の力を込めてアイカの頬を叩く。叩くと言っても、手の平は蝶よりも小さいため、通じるのだろうか。


「エル……」


 カナタは何も出来ない自分に腹立たしく感じていた。


 自分を助けたのだろうか。そうでないと、自分もエルも、この女性もここには居ないはずだ。


 どうしてこんなことに……。



「ねぇ、ねぇっ、お願い――!!」


 エルは渾身の力を込めて叫んだ。

 すると、エルの身体がまばゆく光りだした。



 自分はただ、ゲームを楽しみたかっただけなのに。



「ちっくしょぉおお!!!! 僕に力をくれよぉお!!!!」

「目を覚まして――――!!!」


 エルから生まれた光と、カナタの叫びが交わった。



「何だ!?」


 ユララムは豪風の中、光を見て足が止まった。




『オートモード、開始します』


 カナタの通信機が光り輝きそしてアナウンスが流れ出した。通信機はカナタの手元へ浮いてきたため掴んだ。カナタは起きたことが把握できずオロオロしている。


『アイテム選択、装備、武器、プラズマガン』


 通信機からのアナウンスは続き、カナタの両手に銀色に輝く拳銃がセットされた。二丁拳銃が現れたことに更に驚く。


『装備完了』


「え、何だ、何だっ!?」


 驚いたまま、カナタの身体が強制的に戦闘態勢に入られたのが分かった。身体を動かそうとするが、自分の意思では言うことをきかない。カナタの持つ二丁拳銃は、豪風を生むネオビードルへ銃口を向けられていた。


『ターゲット、ネオビードル、ロックオン、発射準備……』


「え、ちょ、マジで!!?」


『完了』



 エルの光りに包まれていたアイカは瞳を開けた。


「あっ! よかった、目を覚ましたぁ……! 大丈夫?」

「え……え!? ここは……? え、え!?」


 アイカの目の前で羽ばたかせて喜んだ小さなエルの姿に驚き、意識が戻って間もない内に後ずさる。


「ちょっとぉ! どうして逃げるの!?」

「え、え、え? だ、だって、こんなところに、よ、妖精さん!?」


 ゲームや映画等の映像の世界では妖精という種族が生息するのは当たり前なのだろうが、初めて見る人間意外の喋る種族に、アイカは固まるばかりだ。



 ズドッ、ズドォン――――――!!


 アイカとエルの視界が瞬間、眩しくなり少々目がくらんだ。


「ギシャァアアアアア――――!!!」


 ドォンッ――――!!!



 大きな地響きと、ネオビードルの悲痛な叫びが辺り一帯を包んだ。

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