旅立ち ③ ~第一部・完~

「そしたら、私も部屋へ戻るわ」


 ルミナも宴の席から立ち上がり、リボンを揺らす。ケイはルミナへ近づくと


「なぁ、ルミナ。ちょっと話があるんだけどよ……」

「……どうしたの、ケイ……って、きゃ!」


 ケイはルミナを抱きかかえる。その時、チームメンバーに初めて見せたルミナの紅くなり様に、開いた口が塞がらない。


「あんなの見せてくれちゃ、俺だって負けてられねぇってなるよなぁ」

「何よそれ! ユララムはケイの目が怖くて抱きかかえてあげてたんでしょう!? 立場も思いやりも全然違う!」

「久しぶりで嬉しいくせに……ってやべぇな、すまねぇ、大人の話し合いに行ってくる。ルミナの部屋はっとー……」


 鼻歌交じりのケイにルミナは顔を更に真っ赤にし、ケイへと何度もパンチを食らわせるが全く効かない様子であった。



「なんか、いろいろ刺激的だったな」

「うん、びっくりした」

「っていうかあの二人出来てたんだ?」


 ライトとアイカ、そしてマイキーはケイとルミナのペアの後ろ姿をしばらく見つめていた。


「アイカちゃんも酔えばよかったのにー。そしたら俺がお姫様抱っこしてさー」

「えぇえっ!?」

「な!?」


 驚くライトを横目にマイキーはニッと笑ってアイカを見る。アイカは慌てて両手を前に出してぶんぶんと振る。


「い、い、いいよそんな!」

「ふっふふ、アイカちゃん照れちゃって。かっわいぃ」

「て、照れてないよ! マイキー、あ、あたしは、だいじょうぶ! 私一人で部屋行けるから! じゃあ、皆おやすみ!」


 アイカは半ば棒読みのようにしてその場を走り去っていった。


「つれないなぁー。なぁライト」

「ん?」

「一気に賑やかになったよな、うちのメンバー」

「本当、そうだな」

「アイカちゃんが入ってきてから、いろんな事起きすぎだよね」


 マイキーは頭部につけている自作ゴールグを外すと、触れつつ嬉しそうに話した。


「まぁ、な。俺達があの場所に転送されてなかったら、出会ってなかったんだろうしな」

「うん、あの出会い。巨大ミミズのワーム戦、ある意味レアだったよね。って、おっと」


 マイキーの手からゴーグルが滑り落ちていった。ライトは大丈夫かよとマイキーに声を掛ける。

 ライトがアイカとの思い出を巡らせていけば、タランチュグラ戦での脅威のレベルアップを見せたことが一番の印象だった。


 守りたいのに、どんどん守られてしまう。


「どんどん強くなってくんだもんな……」

「ん? どしたのさ、ライト」


 マイキーがゴーグルを拾い上げて、ライトの視線の先を見た。


「……ふっふー……ライトってさぁ……」

「んだよ」

「……何でもっ? 分かりやすいなぁってさ?」


 両手を上げるようにしてふざけたマイキーの小腹に一発食らわせた。


「いっで!! あのさ、ライトもリーナも手加減ってのを知ってくれよな」

「俺の気持ちは……そんな簡単なもんじゃねぇよ」

「ふぅん。複雑に考えすぎてるだけじゃん?」


 ライトの脳裏にチラリと暗闇と雨の映像が浮かぶ。


――ライトくん、どうやら君の瞳の傷へは呪を掛けられているようだ――


 医療チームのリーダーであるリョウの言葉が脳内に再生された。




「ライ、ト?」

「……ワリィ、俺酔ってるんだよな」

「なんか、ごめん」

「いや、マイキーは何も悪くねぇって」


 ライトが大きくため息をつくと、頬を両手で勢い良く叩いた。

 バチン!!


「おぉお、びっくりしたっ」

「こんぐらいしねぇとな。酔から覚めねぇと」

「ぇええ……ただただ痛そうだったよライトくん。おおよしよし」


 マイキーがふざけて笑う表情を見て、ほっと安堵の表情を浮かべるライト。


「これからも、よろしくな? ライト」


 拳を出されたマイキーのいつもと違う低めの声に、少し驚く。


「ああ」


 ライトもマイキーに拳を出し、コツンと当てるが、同時にケイからの意思も蘇り、短い返事をするのが精一杯だった。

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