旅立ち ② ~第一部・完~
「それではぁぁ、改めてユラっちが仲間になったお祝いにぃぃー…」
リーナの発音が明らかにあちこちへと飛び散っておかしい。きっと皆の隠れた場所でお酒飲んできてる。そう、アイカが笑いをこらえていると、今にも笑い出しそうなマイキーは既に肩を震わせていた。
「カンパイッ!」
「ぎゃははははは!!」
「なによぉマイキー!」
「だってリーナ、絶対隠れてお酒飲んでたよね。ぷっくくおっかしー!」
その後リーナからいつもよりも激しいストレートパンチがマイキーへと繰り出されたのはお約束。その後、近くに居たユララムも、リーナに「若いほうが可愛い」等言われこれでもかという力で頬を引っ張られて散々だった。
「ちょい、ライトくん」
宴の最中。呼び慣れない愛称に、眉間に皺を寄せてライトが振り返るとケイがこっちに来てくれとこっそり手招きをしている。
「なんだよ?」
「単刀直入に言うけどな、俺と来ねぇか? ライト」
「は、何言って……?」
「おまえのその左目だよ。俺もどうにかしてやりてぇし……。ここじゃどうしようもねぇだろ。俺の師匠に、合ってみねぇか」
「……」
「無理は言わねえが……でも、そのままで、ライトはいいのかよ?」
突然のケイの誘いにライトは黙りこむ。
俺は、ここの居心地の良さに今まで甘えていたのか――?
ここを出る、という想像は、全くしたことがなかった。
俺を見つめるアイカの表情が浮かぶ。
おどおどしすぎておかしな敬語になっていたアイカ。
チーム・ルナシスに入って初めて笑ったアイカ。
俺を必死に守ってくれたアイカ――。
「わりぃ、すぐには返事出来ねぇよ……」
「そりゃまぁ、そう、だよな」
ケイは眉を下げて頭で手を組んだ。
「なかなか、仲間と離れるっていうのは出来ねぇ……よな」
その時のケイの視線を追ってみると、ルミナの方を見ているのか、どこか遠いところを見ているような。そんな様子にライトの目には映った。そして、リーナからのパンチを避ているマイキーへ目を向けると、ばっちり目が合う。その時のマイキーの目は、一瞬少し真剣だった気もしたが、きっとリーナから助けて欲しいのだろうという風にライトは捉えた。
リーナが強引にユララムに絡むことにより、笑顔になるメンバー達。そして力尽きたのか、リーナは机に伏してしまい、宴の椅子に背もたれに仰向けになって、口を開けて眠っていた。自然に宴は幕を閉じていく。
幕を閉じ、各自解散、ということになった。
ユララムは口を開けたまま眠ってしまったリーナに肩を回していた。
「まったく、どうして俺が……!」
「ユララム、それは新人としての業務だ」
「え……! 業務って、俺まだ学生……」
「いいから。リーナは女性なんだ。丁寧にお運びしろ! 命令だ」
「うはー……ケイ、厳しい」
「何か言ったかよおい」
「な! なんでもないです! ったくもう……」
ユララムはリーナの脇の下から支え、引きずる様に運ぶとケイに睨まれた。恐怖の視線に逃げるようにしてユララムはすぐさまリーナを抱きかかえた。その姿に目を見張ったのは、ケイ以外のメンバーだった。
そんな視線も恥ずかしいという気持ちよりも義務感に駆られたユララムは、静かにリーナを運んでいくのだった。
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