~タランチュグラ戦・完~ ②
タランチュグラからのドロップアイテムであるクリスタルが輝いて消えた後、アイカの腰のあたりに装備されていた通信機から、機械音声と共に画面が浮かび上がった。
“アイカ、レベル・アップ。アイカ、レベル・アップ、レベル・アップ……”
何事かとライトは意識のないアイカを支えつつ、ワリィ、と小さく声を出すと通信機を手に取った。
“レベル・アップ、レベル・アップ……”
レベルアップを何度も連呼され、ステータスがその度に更新されていく。次々とレベルが上っていく状況に、初めはバグかと思ったが、冷静になれば、ゲームの世界では珍しくはない現象であった。
高レベルのタランチュグラをほぼ一人でダメージを与え、倒してしまったのだ。
その経験値が、レベル1の人間が得てしまうと、とてつもない成長を遂げることになる。
「おい、おいおい……!」
ライトは連呼されていく言葉と、その止まることのないステータス上昇の数値にただただ目を見張っていた。
「ライトー!!」
「ごめんライト! え……アイカ……? ライト、アイカどうしたの!?」
アイカを支えるライトの元に、リーナとマイキーが合流した。
「お前ら……よかった、とりあえずアイカは無事だ」
再びアイカに視線を落とす。止まらない“レベルアップ”。
「よかったー……って、何々? え? その音声ってアイカちゃんのから?」
「ああ……。タランチュグラを……一人で、全部やっちまってから、コレだ」
「え?」
「何? どういう事よ?」
「あのタランチュグラを……アイカ一人でぶった斬った」
「うっそ!?」
「アイカ一人で!? そんな……あんたならまだ信じられそうな気がするのに……」
「いや俺は全然、歯が立たなかった。さっきから止まんねぇんだよ。嬉しく思っていいのか? これ……正直怖ぇ」
「ほう……それは興味深いですな」
聴いたことのない老人の声にライトは反射的に鋭い瞳を声の方へ向けた。
リーナとマイキーの少し後ろに離れた場所。死角になって見えなかった。
アイカにどれだけ集中していたのか、喜び、戸惑い、そして……これはできれば閉まっておきたいものも。数々の思いで埋め尽くされ、老人の存在に全く気がつかなかった。
「おぉ、怖いのう。リーナさん、マイキーくん、ちょっと助けてくれんか」
「本当っ。ライト、あんたいい顔してんのにそれだから怖がられんのよ。ごめんなさいね、ユララムさん。彼はあたし達の仲間のライトって言うの」
「ワリィ……。リーナ、マイキー、その人は……誰、なんだ?」
マイキーはライトの視線にたじろきそうになりながらも説明する。
「ユララムさんっていうんだ。俺とリーナと合流して、ライトやアイカちゃん追ってたら、森の中で倒れてたんだよ。たまたま見つけられたからよかった」
「そうか……よかったな、助けられて……」
アイカが助けたかった奴ってもしかしてこの人か……?
アイカの想いが届いたのかもしれないと、それはよかったものの。
お人好しが過ぎるぜ、アイカ。そう、ライトは思わず苦笑した。
支えていたアイカの身体が、ぴくりと動いた。
「うぅっ……ライ…ト?」
「アイカ! おい大丈夫かよ」
「わっ! わ、私、え!?」
目を覚ましたばかりのアイカは今の状況を全くつかめず、唯一分かっているのはライトの顔との距離が近い事。あたふたするばかりだ。
「あのなぁ、いい加減慣れてくれって、アイカ。調子狂うぜ」
「ご、ごめんライト……」
「ま、少しずつでもいいんだけどよ」
たまらずアイカはふぅぅぅと長い息を出してから、深呼吸をした。
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