chapter 18 第5の審判-4

4  9月16日 静間浪子




 陽太たちは静間の下の名前を知らなかった。

 いや、意識したことがなかったといったほうが正しいかもしれない。

 スクールカーストの存在する荒れ果てた教室では教師の名前などどうでもよかった。

 もしかしたらA軍のなかには担任教師の静間という苗字すら知らない生徒もいたかもしれない。

 いやそれだけが理由ではないだろう。

 教師を苗字で呼ぶ習慣がついてしまっている生徒たちは、静間だけでなく他の教師、例えば体育教師の海藤、職員室で静間の向かいにデスクを持つ鈴木なども、下の名前を知らなかった。

 厳密にいえば覚えていなかったというべきかもしれない。

 3年1組の担任教師・静間の名は『奈美子』というのである。

 亜門の調査資料によると、『御影浪子』は夫であった御影徹と離婚をして、元の苗字である『静間』に戻した。

 そして、『浪子』という名を偽装して『奈美子』という字に変えたというのだった。

 つまり『御影浪子』は『静間浪子』から『静間奈美子』と名を変えて教師を続けていたのだ。

 陽太たちの担任である『静間奈美子』はイコール『御影浪子』ということになる。


 いや、それよりも大きな疑問があるかもしれない。陽太たちが抱いている静間のイメージはこうである。

 3年1組担任の静間という教師は短い髪に、地味なスーツを着て、曇った眼鏡を掛けている。

 その姿から、と言われても、教師だとは気が付かないだろう。

 そんな地味な見た目とは裏腹に、黒板にお世辞にも巧いとは言えない雑なのか、よくわからない文字を羅列している。


 そうだ。

 静間はまるで地味な男子生徒だと間違われてもおかしくない見た目と認識していた。

 だが、

 

 

 そして、調


 だが、陽太たち3年1組の担任である


 陽太たちは信用してしまっていた。

 静間の言葉を。


「御影先生の行方はわからない」


 その言葉が完全な嘘だということは一切疑わずに。

 そして、陽太と霧島は真実を知り衝撃を受けたのだ。

 3年1組担任の『静間』は『御影浪子』である、と……。

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