chapter 6 第2の審判 -1
1 6月3日 心配
空から降り注ぐ日差しも夏の陽気に近づいてきた6月初め。
梅雨の時期でもあろうというのに最近は晴れ渡る快晴に見舞われていた。
「あついな」
宵崎高校まで乗ってきた自転車をこの駐輪場に停め、神谷陽太はぽつりと独り言を溢した。
自転車で登校をしている陽太にとって、徐々に暖かくなってきたぽかぽか陽気のなかでさえ汗だくになることもしばしばあった。
「おはよ。陽太」
陽太はふいに背後から声を掛けられた。
振り向くと陽太の幼馴染の胡桃沢桜が立っていた。
昔から体の弱い彼女であるが、ここ最近、この天気のように体調の良い日々が続いているようで、陽太も安心していた。
「おはよ、桜。下着透けてんぞ」
「ええ! う、うそっ!」
「うそ」
「……あ、社会の窓開いてるよ」
「あほか。引っかかんねーよ」
「……ふんっ」
いつもの調子でやり取りを交わしたが、桜はあることを気に掛けていた。
陽太がずっと何かを抱え込んでいるように元気が無いのだ。
「なんか陽太。最近元気ないね」
「……まあ」
思い出したくも無い先月の中旬。
クラスメイトである五十嵐アキラが階段で転倒、段差の角に頭をぶつけてそのまま大量出血。
しかし、戦慄されるのはそうなる直前の出来事。
奇怪な内容のメール、そして、スピーカーから鳴る不気味な放送から始まった『審判』と呼ばれる儀式である。
あれから2週間ほど経った今でも陽太も桜も、五十嵐の事件が偶然であるようには思えないでいた。
「でも陽太だけじゃないよね、元気ないの」
「……うん?」
「クラスのみんな……」
「……ああ、そうだな」
「とくに金城君とか仲居さんとか」
金城と仲居とは、五十嵐と仲の良かったクラスカースト上位のA軍・金城蓮と仲居ミキのことである。
「まあそりゃあ……五十嵐と仲良かったからな。悲しいだろ」
「あと……東さんも」
「……罪悪感を抱えてもおかしくない、よな」
「違うの。絶対それだけじゃない」
「え?」
「怯えてるの。凄く……」
「怯えてるって……何に?」
「……もしもだよ? もしあの出来事がまたあるとしたら」
「……」
「あの審判っていうのが一回じゃなかったとしたら……また誰か死んじゃうのかな」
陽太は一瞬にして表情が険しくなった。
それは勿論、陽太自身も考えていたことであったからである。
ただの悲観的予測ではない。
ある根拠があり、陽太はそう考えていたのだ。
『……ソレデハ次回審判で遭いましょう……』
あの奇怪放送は確かにそう言っていた。
次回審判……つまり二度目があるということを。
「桜の考え過ぎだって。たぶんあれは誰かが五十嵐を怖がらせるためにわざとやった。そして五十嵐は不幸にも事故にあっちまった。きっとそうなんだって」
出来るだけ明るく、桜の心配を弾き消すかのように陽太は言った。
桜を、いや桜だけは心配させたくない。
そう思っていたからである。
「でも金城君や仲居さん、東さんだけじゃなくて……ほかの皆もどこか態度がぎこちないの。……まるで」
桜の心配は消えることなく巨大に膨れ上がり、冷酷な現実へと繋がっているように見えた。
「誰とも関わり合わないようにしているみたい」
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