Ⅱ 第2の審判

chapter 5 dark side Ⅱ

「気持ち悪いんだよ」

「なんで学校来るんだよ」

「お前なんて居なくなればいいのに」

「消えろ」

「しね」


 少年にとっての「世界」とは、闇そのものだった。

 少年にとっての「世界」とは、「ここ」だけだったのだ。

 少年は「ここ」よりも広い世界を知らない。

 少年は「ここ」の外にもっと大きな世界が広がっていることを知らない。

 

 だから少年にとっては、「ここ」が全てだったのだ。

 

 少年は正義や秩序を愛する子供だった。

 だが少年には勇気がなかった。

 またこの状況を打破する術も知らなかったのだ。

 少年は自分を殴ってくるアイツらを嫌った。

 自分を蔑むアイツらを憎んだ。

 アイツらを頭の中で何度も殺した。

 そして幻想と現実の狭間で生き方を見失い、心が静かに汚染されていった。

 

 辛かった。

 憎かった。

 悲しかった。

 何もかもが消えてしまえばいいと思っていた。

 

 しかし少年が本当に望んでいたことはそんなことではなかった。

 少年はただひたすらに「助け」を求めていたのだ。

 だが、助けを乞っても誰も助けてなどくれない。

 少年と目が合っても少年に手を差し伸べてくれる者など「ここ」にはいなかった。

 少年は「ここ」を嫌った。

 

 だがそんな少年にも弱い自分を見せないようにしている人物がいた。

 この子にだけは気付かれたくない。

 この子との間にだけは「幸せ」を感じていたい。

 この子には温もりを与えていたい。

 自分が母から与えられていたように。

 守られるのではなく守りたい、この少女を。

 少年は『その少女』を本当に愛していた。

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