3-5
――そろそろ昼ご飯の時間だ。
早く帰って、こめっこと一緒に食事を取って……。
「待ってくれ! 二人とも、俺を見捨てないでくれ!」
溜まっている洗濯物を洗った後は、久しぶりに遊んであげて――
「頼むよ、無視しないでくれよ! 酷いじゃないか、おかげでそけっとを撒くのに苦労したよ! あとちょっとで顔を見られるところだった!」
そして、一緒にお風呂に入って、ついでにあの毛玉も洗ってやろ……、
「お願いだよおおおおお! 頼むよおおおおお! ああああああああ」
「うるさいですよさっきから! ついてこないでください、私達にまでストーキングするつもりですか? もう諦めて、新しい相手を探した方がいいですよ」
「めぐみんの言う通り、もう諦めた方がいいですよ。……そういえば、紅魔の里の近くには、安楽少女っていう可愛らしいモンスターが出るそうです」
「どうして俺にそんな情報を教えるんだよ! モンスターで我慢しろって事!? 大人しそうな顔して案外キツい事言うね!」
帰ろうとする私達の前へ、ストーカーがそんな事を喚きながら回り込む。
――そけっとをようやく撒いてきたぶっころりーに、先程からずっとこうして纏わりつかれていた。
「……まったく。何度頼まれても無駄ですよ。私達も暇ではないのです。ニートと違って学生の休みは貴重なのですよ」
「そこを何とか! お昼ご飯奢るから!」
私達の前で手を合わせ、祈るように頭を下げるぶっころりー。
「私達だって子供じゃないんだし、そんな事ぐらいで釣られませんよ。ねえめぐみん……。あれっ?」
ゆんゆんが、ぶっころりーにホイホイついていく私を見て声を上げる。
「まずは腹ごしらえをしながら作戦会議といきましょうか」
「ちょっとめぐみんそれでいいの!? ……わ、私も手伝うから、置いてかないでよー!」
――里に一件しかない喫茶店にて。
「要は、最初のきっかけ作りだと思うのですよ」
子羊肉のサンドイッチを頬張りながら、私はピッと指を立てた。
私とゆんゆんが昼食を食べるのを、ひもじそうな顔をしたぶっころりーが眺めていた。
このニートは、私達の食事代でいよいよお金が尽きたらしい。
「「きっかけ?」」
「そうです。今のところ、そけっととは何一つ接点がないのでしょう? となれば、まずは知り合いになれるきっかけを私とゆんゆんで作りましょう。本当はお客として通い詰め、常連になって仲良くなるというのが一番なのですが。それは、無収入の今の時点で言っても仕方ありませんしね。出会いのきっかけぐらいは、私達でなんとかしましょう」
「わ、分かった!」
「ねえ、きっかけ作りってどうやるの? 何か考えでもあるの?」
ゆんゆんの言葉に、私は食後のジュースを飲み干すと。
「そんなものは簡単ですよ。まずゆんゆんが覆面でも被り、短剣を手にそけっとを襲います。そこに通り掛かったぶっころりーが……」
「それだ!」
「嫌よ! バカじゃないの!? バカじゃないのっ!!」
喫茶店でギャイギャイと騒ぐ私達に、喫茶店の店主が言った。
「さっきからちょこちょこそけっとの名前が出てるみたいだが、何か用なのか? そけっとなら、木刀持って森に入っていったぞ」
「いえ、大した用事では……。……森?」
店主の言葉に、私とゆんゆんは思わず顔を見合わせる。
私達の意図するところを察したのか察していないのか。
ぶっころりーが、自慢げに……。
「森か、森に入ったのかそけっとは。それはいつもの日課だよ、彼女は修業が好きだからね、一人で森に入ってはモンスターを狩って回ってるんだよ、好きな獲物はファイアードレイク、ファイアードレイクを氷漬けにしてクスクス笑うんだよ、これってさ、これって俺と凄く趣味が合うと思うんだよね、俺はほらニートじゃないか、だからね、毎日時間が余るんだよ、持て余してるんだよ、そこで氷だよ、氷を作ってそれが溶ける様をぼーっと眺めてるだけで一日が終わってたりするんだよ、そけっともきっと同じ趣味を持ってると思うんだ、違うかな? まあいいや、それはともかくそけっとは、毎日森に入って修行するのさ、そけっとの戦い方は凄く派手でね、電撃系の魔法を好んで使うみたいなんだ、電撃は見た目が綺麗だもんね、綺麗なそけっとに凄く似合ってると思う、ごめんねまた話が逸れたね、まあこの時間に森に入ったって事は間違いなく修行だよ、彼女のレベルはそろそろ50に届きそうだからね、凄いよね、レベル50だなんて紅魔族の中でもそうそういないよ、もう超一流の冒険者クラスだよね、綺麗で可愛くてしかも強いだなんて反則だよね、そけっと強かっこいいよそけっと、戦闘中のそけっとは綺麗なんだけど、戦闘が終わった後のそけっとは凄くグッとくるんだよね、だってさ、汗とかであの綺麗な黒髪が白いほっぺたとかうなじに張り付くんだよ、これはもう反則だよね、反則だよそけっとは、俺がムラムラくるのもしょうがないよね、責任とって欲しいよね本当に、それはまあいいんだけどね、いや良くないけど、まあ今はいいんだよ、とにかくこの時間に森に入るっていうのなら目的は修業だよ、間違いないよ、きっと今頃一撃熊をあははははとか言いながら追いかけ回したりファイアードレイクを足だけ凍らせたりして凄く楽しそうにしてると思うんだ、見たいよね、見てみたいよね、ていうか見に行こうか、うんそうだ見に行こう、そしてそけっとが笑う姿を一緒に愛でようかそうしようかうんそうしようよ!」
「ドン引きですよ。というか、そんな物騒な個人情報はどうでもよいです、それよりも……! 先ほど私達が森に入った時、一撃熊が群れを成していましたよね? 最近は、モンスター達の様子がおかしいと聞くじゃないですか。そんな中、そけっとは……」
「ちょ、ちょっと、それって大丈夫なの!? ねえ、変なモンスターの目撃情報だってあるんだし、里の人を呼んだ方が……」
と、私とゆんゆんが口々にそんな事を言う中、ぶっころりーが小さく呟き立ち上がる。
「行かなきゃ……」
まるで、ヒロインのピンチを知った主人公みたいに。
「ぶ、ぶっころりー……さん……?」
真剣な表情で立ち上がったぶっころりーに、ゆんゆんが驚きの表情を浮かべる。
「俺、急いで森に行ってくる! そして、そけっとを探さないと……!」
その言葉に、ゆんゆんがパアッと顔を輝かせた。
「そ、それです! それですよ! 今のぶっころりーさんは、何だかとても……!」
感極まったゆんゆんが、拳を握って叫ぶ中。
「もしかしたら、そけっとも一撃熊の群れに遭遇しているかもしれない……! そこに、俺が颯爽と駆けつけたなら? そして、まさにピンチだったそけっとを助けたら? それこそもう、抱いてとか言われちゃうんじゃないのかな!? ……? ゆんゆん、今何か言い掛けたかい?」
「いえ、一撃熊に囓られちゃえばいいのにって思っただけです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます