第18話-あまい、あまえる。


夢は、不思議だ。

何時間にも及ぶような長い夢を見たとしても、脳科学的には実際に夢を見ている時間というのは、ほんの僅かな時間でしかないのだ と、ココが言っていたのを思い出す。


地下鉄が減速を始め、間もなく伏見駅に着く。

そんな時、その一瞬に目を閉じた私は、次の夢を見た。

内容は、とあるクレープ屋さんが後日閉店する という夢だった。


なぜ、見たことも無い物が見えるんだろう?

なぜ、止める力もない私が見るのだろう?


そんな事を頭の中でぐるぐると考えているうちに、私は現実に戻ってきた。


地下鉄のドアが開く音がした。







彼女は、私の夢の話を信じてくれるだろうか?

それとも、変な奴だと思われるだけだろうか。


そんな事を思いながらも、駅から出てしばらく歩いた所で、彼女は目当ての店を見つけたのか 店のドアを開いた。






鉄板小倉トースト という、小倉トーストを見たことも無い私には想像もできない料理が出される。

鉄板に乗っている分熱いだけで、味は同じなんじゃないか とも思っていたが…小倉トーストにアイスが乗っているようだ。

複雑な味だが、本当に彼女はどこからこうしたグルメ情報を得るのだろうか…。




彼女に甘えられるのは、ここが最後。

最後まで、知らないものを食べさせてもらえて幸せだな。



…これを食べ終わったら、ちゃんと言わなきゃ。


なんて言えばいいかな。

嘘はつきたくない。

でも、心配かけたくもないよね。




考えているうちに、彼女はこう言う。


「フラリエ、来週は大須商店街に行こうか。」


「え?」


…ダメ、断らなくちゃ。


「唐揚げとか、団子とか食べに行こうよ。」


…でも来週、だけ…



「ココ、食べ物ばっかり…。でもいいよ。」


「でもココ…、私ね。」


「三重の親戚のお家に住むことになるかもしれないんだ。」



「…フラリエ…。」


…そんな、悲しそうな声聞かせないで。


「でも、来週は約束だよ。大須も久しぶりだし、楽しもうね。」





私は、目の前にいる親友の顔すらも知らない。

知らない事だらけの私が、知っている事がある。


来週、母は死ぬ。

どこで、どうして死ぬのかもわからない。

彼女に今、これを言っても信じてもらえないだろう。

母よりも、私は親友と過ごす事を選んだ。

非情な人間だ。本当に、どうして私は見たいものが見えなくて、どうして、私には見たくもないものが、見えるのだろう。



そうだ、未来を変えることはできなくても、この力を1度だけ自分のために使おう。


彼女と2人で、今しか食べられないクレープを食べる。

そうして、お別れするんだ。

慣れ親しんだ、こことも。

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