6-20 王の帰還 その3

 城壁上に居ならぶ射手が弓弦ゆづるを一斉にはじくと、数十本の矢が弧を描いて落ちてくる。緩慢にもおもえる時間の中で眼前の脅威にようやく認識が追いつき、とっさに逃げだそうとする猫人ケットたち。けれど、あとからあとから増えつづける人波に押しもどされて、迫りくる矢じりに絶望の叫び声をあげる。


「――我、魔の探究者たるネネ・ガンダウルフは、安息と停滞を司る土の精霊と、変化と断絶を司る風の精霊に問う。

 四方を土とし、四方を風とし、四方に四方を重ねて、もって砂塵の絶壁と成し、我、外界を拒絶すること叶うか。

 土を砂と化し、風を嵐と化し、汝、土の精霊と風の精霊の喜びをもって、あらゆる暴虐を排除せよ! グレート・サンドストーム!!」


 矢が放たれる直前、ユズハが大通りの両端にむかって箱型の魔道具を投擲。ネネがその発動に合わせて砂嵐の複合魔法を完成させていた。魔道具は扇風機のリミッターを解除し、爆発的に風力を高めたネネのお手製。しかも、闇夜の三角帽子の効果により魔法発現まで3秒と要しない高速詠唱となっている。ネネの視線だけでジャストタイムの連携を決めるユズハの適応力も見事としか言いようがない。

 矢の飛来に身をすくめる猫人たちの耳が上昇気流に逆撫でされ、直後、バリバリ!と風鳴り音が雷鳴のごとく響きわたり、突如出現した激しい乱気流によって、落下する矢のことごとくが砂嵐の渦に呑みこまれていく。暴風に加えて砂礫の衝突で、パキッ、ポキッ、と軽快なリズムを刻みながら、軸が折れた矢がくるくると回転し、重なりあい、砂をまとったおおきなかたまりとなって、遠心力が勝ったものから砂嵐の外へとはじきとばされていく。

 防壁上の弓兵たちはそれでも砂塵の隙間を狙って矢を注ぎこむものの、嵐は通りの上空を隙間なく覆いつくし、飛来する矢のすべてを貪婪どんらんに吸いこみ、残骸を赤い城壁や娼館の屋根の彼方へと次々と吐きだしていくばかり。


「……まだ続けさせるつもり?」


 トレードマークの黒い三角帽子のつばを左手の指で押しあげ、ネネが髭モジャのレッドスコーピオンに問いかけた。

 砂嵐のあまりの威力に蒼ざめた髭モジャが半歩さがると、その背を支えるようにレッドスコーピオンの団員が駆け寄り、耳もとで進言する。


「バルダー分隊長……これはまやかし……複合魔法は複数の熟練魔導士が……たったひとりで……こんなに速く……おそらく他に複数の魔導士が……」


 切れ切れに届く言葉でおおよその意味内容を察した俺は、そうか、髭モジャは分隊長だったのか、と妙なところで得心する。どれほどの権限を有しているのか不明であるものの、バルダー分隊長の泳いでいた目がようやく定まり、血の気のもどったドヤ顔で俺たちを睨みかえしてきた。


「クク、そうか、わかったぞ! 群衆にまぎれた魔導士がいるのだな。こんな小娘が複合魔法など使えるはずがないのだ。いかにも魔導院の奴らが着ていそうな黒ローブで危うく騙されるところであったわ。

 イシス団の奴らめ! 頭の悪い猫人ケットに魔導士がいるはずがないという我らの先入観を逆手にとってくるとは! 忌々しい! やはりこの不法滞在者の中には相当数のシンパがまぎれこんでいるらしいな。徹底的に炙りだしてやるから覚悟しろ!」


 完全にミスリーディングしている。

 自分の魔法を全否定されたネネは頬を引きつらせると、杖を持つ手をかかげて、輝く文字を宙に書きなぐりはじめた。


『これはグレート・サンドストームという土属性と風属性の複合魔法。驚くのも無理はないけど、術者は間違いなくボクだけさ!』


 砂礫が小雨のようにパラパラと降りそそぐ中、筆記速度をさらに上げていく。


『グレート・サンドストーム自体はボクが考案した複合魔法じゃないけど、複合魔法に必須の異属性の魔法の重ねがけを魔道具で代用したのは、独創的な着想だと自負している。そもそも魔法の重ねがけというのは、ひとつの魔法が経糸たていとだとすると、そこに別属性の魔法を緯糸よこいととして織りこむ作業なんだ。だから上手に組み合わせるためには魔法の構造を正確に理解しておく必要があるし、時間経過による変化にも準備しておかないと途中で破綻する。

 ボクは錬金術師アルケミストの理論を学ぶ中で、時間変化の激しい風属性の構造理解を深め、堅牢で隙間のすくない土属性とも相性の良い組み合わせ方を発見した。魔法理論の詳細をここで展開すると長くなるから、かいつまんでイメージで説明すると、土属性の『停滞』を風属性の『断絶』によって細切れにして、硬いけれど柔軟な構造にしたんだ。魔道具もただ風を吹きだすのではなく、緩急をつけることで土属性と混ざりやすくして、この最適値を見つけるためにボクは何日も――」


 薀蓄うんちくが長くなりそうだったので、肩を引いて後ろに下がらせた。ネネが不満げに俺を一瞥いちべつするものの、かまわず交代して前に出る。


「このネネ・ガンダウルフは勇者パーティーの一員であり、前王立魔導院学長アッシュ・ガンダウルフの一人娘。魔導の神髄である複合魔法にも精通した天才だ。

 このネネがいるかぎり、おまえたちがいくら矢を放っても無駄なこと。それに、彼女が本気になれば、この城壁ごとあたり一面を焦土に化すことも可能だ。怒らせる前に武器をおろし、話しあいに応じたほうが得策だとおもうぞ」


 ネネが肘でつついて「……ボクは天才じゃないし、そんなに凶悪でもないから」と抗議してくるが、レッドスコーピオンたちには効いたらしい。

 数人が後ずさり、鎖帷子くさりかたびらがジャラリと鳴った。口々に「やはり勇者の噂は本当だったのか?」「あの、ガッダで魔将級のアンデッドを一騎打ちで仕留めたという?」「いや、アザミでは島ほどもある魔物を屠ったらしいぞ」「おいおい、いくら何でも誇張しすぎだろう」とささやきあう声がする。


「バカどもが! あんなもの、ハッタリに決まっているだろう!」


 浮足立つ部下たちをバルダー分隊長が苛立たしげに叱咤した。そして、このままでは俺の術中にはまると判断したのか右手に持ったシャムシールを前に突きだすと、


「いいか、こいつは勇者を騙る賊だ! おまえたち、妄言に耳を貸すなよ。イシス団にくみする者が本物の勇者であるはずがない。そうだ! このプタマラーザでは我らレッドスコーピオンこそが法なのだ。いま最優先すべきことは反乱勢力の一掃。

 全隊突撃!! このニセ勇者を捕らえよ!」


 大音声だいおんじょうの命令に反応して、騎士団が動きだした。さすがに訓練されている正規兵である。ひとたび軍令が発せられれば迷うことなく前進してくる。中隊が5列縦隊を構成し、最前列がスモールシールドを前に突きだし、そのかげにシャムシールの刃を隠して歩調に乱れもない。

 俺たちの背後には乱戦の予兆におびえて表情をこわばらせる老若男女の猫人たち。まだ前線の状況を飲みこめていない群衆がさらに後ろから押しだされてくる。

 この大勢の人々が一斉に恐慌状態に陥れば、全員を無傷で守るという命題は破綻するだろう。レッドスコーピオンの刃に倒れなくとも、逃げまどう自分たちの足で押しつぶされ、圧死する者がどれほどの数にのぼるか。たとえその場は混乱が収まったとしても、後味の悪さは一生あとを引くに違いない。

 接触まであと10メートルというところで、レッドスコーピオンの第1列が速度をあげた。腰を落とし、ゆらりと曲刀を振りかぶる。


「――弱き者の盾となる! それこそが聖騎士のほまれです!」

「――姉さまの隣りはうちのもんや!」


 右からセシアの氷帝マサムネがびる。

 白銀の軌跡をひきながら流れるような所作で3人を薙ぎはらい、鎖帷子が凍結した騎士たちは身体を震わせながら地面に座りこんだ。

 左からはスクルドの打突だとつ。ナックルを握りこんだ拳を突きだし、踏みこみと腰の回転が見事に一致した渾身の加速で、目にもとまらぬ連打で騎士2人のみぞおちをえぐり、はじきとばした。

 あまりに鮮やかに初撃をさばかれて、レッドスコーピオンたちの動きが止まる。

 

「どや、うちも戦力になったやろ」


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『 スクルド・グレイホース 』

勇者カガトの仲間にして婚約者。グラン大聖堂「導きの手」に所属する修道士。

【種 族】 人魚マーメイド

【クラス】 僧侶

【称 号】 聖女の卵

【レベル】 15(D級)

【愛憎度】 ☆/☆/-/-/-/-/- (E級 セシア姉さまは渡さへん)

【装 備】 鋼鉄のナックル(D級) 聖者のローブ(A級)

      祈りのバレッタ(A級) 白のブーツ(E級)

【スキル】 短剣(F級) 槌(D級) 杖(D級) 格闘(D級)

      聖魔法(D級) アクアフォーム(F級)

      交渉(E級) 薬草学(E級)

      隠密(F級) 水泳(C級) 木登り(E級) 戦術(F級)

      聖なる信仰(F級) 徒手空拳(E級)

      水中呼吸  早熟

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 クラスは僧侶のままだが、格闘はD級にまで到達し、モンクへのクラスチェンジ条件である「徒手空拳」もしっかりとE級に上げてきている。港町アザミで魔物と化したナイラ・ベルゼブルに人質とされ、父親であるグノスンが重傷を負ったことをずいぶんと引きずっていたから、スクルドなりに努力した結果なのだろう。

 まだあどけなさの残る顔をしかめて、スクルドは手をぶらぶらと振った。


「イてて、やっぱり、まだ手は痛いな。お父ちゃんみたいに上手じょうずにはいかんわ」

「スクルド、あなたがモンクの修練をしていたことは知っていますが、僧侶の服装のまま敵と打ちあうことは感心しませんね。防具はきちんとしないと。足も、そんなに見せるものではありません」


 セシアが氷帝マサムネをかまえたまま、横目でチラリと見て、たしなめる。


「あ、これな。そのまんまやと、さすがに動きづらいから。でも、悪くないやろ? カガト兄ちゃんの視線もさっきからうちのふとももに釘づけやし」

「カガトどの!」

「いや、違う、俺はただ、スクルドのステータスを確認していただけで」


 本来であれば足もとまで隠される聖者のローブが、清廉を象徴する純白の布地を大胆にたくしあげられ、ミニスカートほどの位置で扇情的に結い留められてしまっている。拳打の踏みこみのたびに、短くまとまった布地が揺れて、スクルドの水色のショーツがチラ見えするのはまさに悪魔の計算と言えよう。

 スクルドはチロリと舌を出して、

 

「あ、カガト兄ちゃんは履いてないほうが好きやったな。セシア姉さまをうちにくれる、て約束するなら、プライベートな夜の演舞を披露してあげてもええねんけど」


 ショーツの隙間に指を入れて、わずかに引き下げる。

 そこへ、バシッ!と後頭部にするどいツッコミがはいり、三つ編みが揺れた。


「こら! カガトどのをからかって遊んでいる暇はありませんよ」 

「セシア姉さま、大丈夫やて。うちらが時間稼ぎしているあいだに、ほら」


 セシアが前方に視線をもどすと、ちょうどレッドスコーピオンの1個中隊100名が白い霧氷に呑みこまれるところであった。すでに二度、目撃したことのある水と風の複合魔法、グレート・アイスプリズン。

 ユズハが四方に投擲した魔道具から冷気があふれ、ネネの高速詠唱が吹雪のスノーボールを砂漠の街の大通りに現出させていた。


「……ボクの複合魔法を侮らないほうがいいよ」

「さっき、凶悪じゃない、とか言ってなかったっけ」


 ネネが杖でコツンと俺の靴を叩き、無駄口を封じる。


「……時間を短くしてるもん。凍傷程度で済むように」


 たしかに、ものの1分もしないうちに糸車のような吹雪の檻は融けさって、赤い鎖帷子を白く染めかえたレッドスコーピオンたちが雪山の遭難者のごとく震えながら地面に伏していた。

 突撃の号令をかけながらもひとり城門前に残っていたバルダー分隊長はくやしげに石畳を踏み鳴らすと、


「ええい! こうなれば奥の手だ!」


 いかにもヤラレ役なセリフを吐いて、鎖帷子の懐から羊皮紙の巻物をとりだした。


「起動テストが十分ではないが、背に腹は代えられぬ。何が起きても貴様たちのせいだからな! 断じて、私の責任ではない!」


 赤みがかった羊皮紙の封印を切り、両手で伸ばすと、


人形遣いパペットマスター、万操十指がひとり、小粋な左の中指が命ずる。

 立て! 狂騒の破壊魔! ゲートキーパー右王うおう左王さおう!」


 なぜか右手を空に、左手を水平に、脚を左右にひらいた戦隊ポーズで叫ぶ。

 そして、お約束のごとく、背後で爆発する衛兵の詰め所。右側だけだが、派手に爆炎があがり、白煙の中から見覚えのあるシルエットがあらわれた。


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『 ゲートキーパー右王うおう左王さおう 』

いにしえの大戦のおり、巨人ティターン族によって製造された自律型兵器「ゴーレム」の実験機。先に製造されたゲートキーパー右王うおうとゲートキーパー左王さおうを融合し、1体で攻守双方に優れた完璧なゴーレムを目指して試作された。外装はミスリル、魔力回路には第5世代複合動力炉を採用し、魔力の自然吸入、自己修復に加え、大幅な軽量化による長距離跳躍も可能とした。腕は左右に2本ずつ。右王のシャムシールと左王の盾を装備し、1本1本が独立して稼働するものの、干渉領域がおおきく、右往左往してしまうのが玉にきず

【等 級】 C級(上級魔)

【タイプ】 ゴーレム

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 そう。こいつはまさに魔神城の城門を守る2体と同じフォルムで、無理矢理2体を重ねあわせたような印象である。特徴的なのは、左右の下の腕に盾を持ち、上の腕にシャムシールを持つこと。

 ――カッ!!

 いきなりバルダー分隊長の頭上から振りおろされる巨大なシャムシール。


「バカが!! わ、私を斬ってどうする!!」


 意外な俊敏さで飛びのいた髭モジャが泡を吹きながら一目散に城門まで逃げていく。一撃浴びれば、身体を両断されそうな勢いだが、魔神城での戦いに慣れた俺にとってはそう怖い攻撃でもない。


「こっちだ。かかってこい」


 手招きすると、ゲートキーパー右王左王はガシャンガシャンと足を踏み鳴らしながら迫ってきた。打ちおろされるシャムシールを、聖剣エロスカリバーの腹で受けて滑らせ、続いて落ちてくるもう一振りの刀身も聖鞘エクスカリバーを横殴りに叩きつけて自らの大楯に喰いこむよう誘導してやる。

 ガシャンガシャンと4本の腕を躍らせながら、剣に、盾に、と手数だけは繰りだすものの、各腕の連携が悪く、あっちでこすり、こっちでぶつかり、俺がまともに攻撃をしていないにもかかわらず、みるみるうちに全身傷だらけになっていく。

 ステータス表記の「右往左往してしまうのが玉に瑕」は冗談ではなかったのかと俺がやや呆れていると、右王左王もさすがに堪えたのか、数歩下がると、しばし考えこむように沈黙し、次の瞬間、短い両足をさらに曲げて跳躍した!

 巨体が瞬時に、俺の頭上はるか高くまで跳ねとんでいる。そのまま空中で4本の腕をおおきく伸ばし、ボディプレスのような体勢をとる。

 まずい! 後ろの群衆に突っこまれたら阿鼻叫喚の地獄絵図になってしまう。

 俺が振りかえると、すぐ後ろにいたユズハと目があった。


「な、なんにゃ?」

「非常事態だ。頼む!」


 盾を落とすと、抱きつくようにしてユズハのズボンへと左手を突っこんだ。

 邪魔な布はすべてスルーだ。尻尾のふさふさを通りすぎて、指先でしっとりむっちりしたお尻をつかむ。右手は聖剣エロスカリバーを握ったまま。自由落下を開始した右王左王を仰ぎ見つつ、左手の指先を双丘の谷間から前方へと這い進ませていく。


「だ、ダメにゃ! みんな、見てるにゃ!」

「いや、みんなが見ているのは空のゴーレム! ここは言わば、意識の空白地帯だ」


 指が下腹部の奥にさしかかり、凹凸を転がすように愛撫する。


「ィうッ!!」


 羞恥に真っ赤に染まったユズハが前傾姿勢になり、俺の鎧を両手でつかむ。

 濡れる指先。ほとばしる欲情。瞬時に振りきれるSPゲージ。

 俺は全身を駆けめぐる性衝動を右手へと注ぎこみ、


「必殺! カガトスラッシュ・エレクション!!」


 白銀の刀身が光の矢のように刹那に伸びきった。

 ゴーレムの重量をすべて受け止めるべくもないが、渾身の力で叩きつけ、猫人の群衆から俺たちの脇へと落下するように軌道をずらす。

 ガガッガガガガガッガガガ!!!!

 銀色のゴーレムの体躯が大通りの路面に激突し、石畳を削りとりながら滑っていく。どうにか人的被害を出さずに済んで、ホッとしているところに、


「カガト! いきなりはひどいにゃ!」


 ブブー!と愛憎度下降の音を響かせて、ユズハが涙目になっている。

 感謝と謝罪の言葉を並べつつ、ゴーレムが落ちた先を見やると、銀色の巨体が砂ぼこりを全身から垂れ流しながら起きあがるところであった。4本の手からシャムシールと大楯が抜けおち、手のひらに空いた黒い穴を群がる猫人たちに向ける。穴から伸びるノズルは、カバゴーレムたちの口に備えられた火炎放射器と同じフォルム。

 ダメだ! まだあんな攻撃パターンを残していたとは。

 俺が下に落としていた盾をひろって走りだそうとしたとき、


「――我が右手には、すべてを焼き尽くす炎獄。

 我が左手には、すべてを凍てつかせる氷獄。

 二つの地獄が交わり、ここに原始の霧を産みださん。

 奥義! 氷炎一体、霧間むげん地獄!!」


 セシアが両手にかかげた炎帝マサムネと氷帝マサムネを勢いよく打ちあわせると、それぞれから炎と氷が噴きだし、混ざりあい、発生した膨大な水蒸気が巨大な霧の手となってゴーレムへと襲いかかった。

 一瞬だけ。たった一瞬、右王左王の4つの手から赤い光が見えたものの、すぐに霧に融け、掻き消された。ユズハが俊敏に駆けよると、半壊したゴーレムの頭に青白いつらぬき丸のひらめきを突きとおす。

 上がっていた腕が落ち、右王左王の膝が崩れて、再び地面へと沈んだ。


「まだだ! まだ奥の手の、さらに奥の手が残っている!

 最終兵器、百目巨人アルゴスの前にひれ伏せ! 反逆者ども!」


 いい加減こういう展開にも飽きてきたな、と懲りない髭モジャをにらむと、バルダー分隊長は先ほどよりも長い羊皮紙の封印を解き放ったところであった。

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