4-13 副作用
俺の腕のなかで、セシアが夢から覚めたように吐息をもらした。
「勝った……のですか?」
それから、自分のおおきくはだけた胸に気づいてあわてて床にしゃがみこんだ。
「違います。あの、その、さっきのはダークストーカーを倒すためで、私があんなみだらな姿をさらすなど」
先ほどまでの恍惚が脳裏をよぎり、我にかえった羞恥で耳まで真っ赤になってしまう。涙目でラメラーアーマーの伸縮する竜鱗を引っぱってみるが、ひとたび暴虐をあらわにした爆乳をふたたび押しこめることは難しく、しっとりと汗ばんだ肌はつるりと滑って、すぐに鎧の拘束から逃げだしてしまう。おまけに極度に敏感になっているため、竜鱗が肌にこすれるわずかな刺激にも反応しておもわず喘ぎ声がもれて、焦るほどに乱れていくという悪循環。
「わざとじゃないですから。み、見ないでください。
うう、カガトどのがあんなにいやらしく揉むからですよ」
可愛いうえにエロい。
これ以上に
俺はまだ四苦八苦しているセシアを抱きしめると、
「ありがとう。ダークストーカーに打ち勝つことができたのは、セシア、君がいてくれたおかげだ。これからも俺の背中を預かってほしい」
心からの感謝を口にする。
俺ひとりの妄想力では魔将級のダークストーカーを圧倒できるほどのSPを獲得することはできなかった。セシアという最高の素材があったればこそ。ここまで、そう、ここまで怒張して。収まりがつくはずもなく。
「カガトどの、あの、抱きしめられると、腰が密着して、その、硬いのが」
妖精王の鎧の装具を押しのけ、主張する破壊兵器がいまにもズボンを突き破ろうとしている。尋常ではない硬度にまで達した鋼鉄の剣。もはや目標を粉砕しなければ止まらぬ勢いで、俺の全身を獣欲に染めあげようとする。
もう一度だけ。もう一度だけあの唇の感触を。脳内を埋めつくす自己都合の甘言。
「も、もうダークストーカーはいません。これ以上はだめですよ。あ、だから、もう、これだけですから。そんな、何度も、いけません。
はうっ! いま触られたら」
キスは許してくれた。けれど、そのまま胸に忍びこもうとした手は払いのけられる。一瞬、無防備になる爆乳。その神秘的なまでの美しさに頭がクラクラする。
「しっかりしてください! こんな姿を誰かに見られでもしたら、勇者としての品格が疑われます!」
座りこんだまま後ろにじりじりとさがり、懸命に鎧をととのえようとするものの、やはり爆乳を押しこめることはできず、結局、両手で隠すことになる。けれど、手で隠しきれるほどセシアのおっぱいはおとなしくない。かろうじて桜色の先端は覆ったものの、指間からこぼれおちた柔肉が逆にエロさを高め、俺の理性を問答無用に撲殺する。
ひとつになりたい! ひとつになりたい!! ひとつになりたい!!!
股間から全身へ獣欲が猛毒のように駆けめぐっていく。目の前のセシアをこのまま押し倒し、欲望のままに蹂躙したいという感情は噴火寸前のマグマのように煮えたぎり、理性の防波堤はまたたくまに熔かされて決壊まであとわずかという状況。
こらえろ! カガト! ここが正念場だ!
昨晩も確認したばかりではないか。約束を果たすまで、アリシア姫を救いだすまでは最後の一線は超えない。魔王討伐が果たされたあとなら男女の愛の儀式を受けいれてくれるとセシアは言ってくれたではないか。
「カガトどの、大丈夫ですか? すごい汗ですよ」
目の前にむしゃぶりつきたくなるご馳走があるのに「待て」とされて食べられない。半分ケモノと化している俺は、あまりの飢餓感に気が狂いそうになる。
ここまできたら最後までという誘惑と、その後の悲劇を想像する理性が激しく葛藤し、「
「それほどまでに苦しいのですか!?」
心配そうに覗きこむ翡翠色の瞳と目があった。
途端に「ひっ」と小さく悲鳴をあげて身をひくセシア。
いま俺は飢えた野獣のようなひどい眼つきをしていたに違いない。あまりの申し訳なさに下を向き、自分の足に拳を叩きつけた。本当は股間にこそ打撃を加えるべきなのだが、わずかな刺激でも暴発する危険があってそれは躊躇する。
気まずい沈黙。やがて、セシアが顔をあげて、
「あ、あの、私に手伝えることがあれば」
自分が何を言おうとしているのかに気づいて、言葉を詰まらせる。
あまりの緊張に瞳が小刻みに震え、汗が額から流れおちた。
ダメだ。セシアを困らせている。
ナニはパンパンで、もう別の生き物のように
歯を食いしばれ! 真のエロには耐えることも必要だ!!
俺は性欲をすこしでも減退させるため、気持ちが萎えるものを頭におもい描こうと必死にあがいた。円周率を順にならべてみる。羊の数をかぞえてみる。食べたこともないビーフストロガノフのレシピを空想してみる。
だが、鋼鉄の剣はいささかの衰えもみせず、ますます切れ味するどくズボンを突きあげている。ここはもっと強烈なイメージが必要だ、と俺は禁断の記憶を紐といた。すなわち、「黄金パンツ」バーガン・ルシフルの照りかがやく股間のふく――
「――ブゴハァアア!!」
「カ、カガトどの! 大丈夫ですか!?」
床に吐しゃ物をまきちらし、数歩後ろによろめきながら腰にさげた水筒から水をふくんで口をすすぐ。
「やはりダークストーカーを討ち果たすほどの秘技とは、すさまじい副作用のあるものなのですね。カガトどのは我が身もかえりみず、人々を救うために……。
わ、私の身体で、すこしでもカガトどのの苦しみをやわらげることができるなら」
真剣な表情で両腕を左右にひらく。
たわわに実った豊潤な果実がふたつ。覚悟を決めたセシアの顔は聖母のように美しく、透きとおって輝いていた。まさしく天国への入口。この門をくぐれば、身も心も幸福に包みこまれることだろう。
だが、断腸のおもいで俺はセシアに背を向ける。
「セシアを抱きたい気持ちは抑えようもないが、それはいまじゃない。
アリシア姫を救いだすという約束を果たしたうえで正式に結婚を申しこみ、セシアがうなずいてからだ。そこから何年も何十年も、何百回も何千回も身も心も重ねあわせたいと願っているから、初めては大事にしたい」
鎧の背中にセシアがそっと寄りそい、俺の肩を抱きしめた。
ピロピロリン♪ と音が鳴り、耳もとで優しい声音でささやく。
「カガトどの、ありがとうございます。騎士の誇りに誓って、私も約束は守ります」
さきほど決別したばかりだというのに、セシアを押し倒したいという誘惑がふたたび鎌首をもたげてくる。
このままではいけない、と俺はSPのさらなる上昇を食いとめるため、ひとまず称号を元の「神殺しの英雄」にもどすことにした。
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『 カガト・シアキ 』
勇者リクの意志を継ぐもの。7人の嫁を求めて旅をしている。
【種 族】
【クラス】 勇者
【称 号】 神殺しの英雄
【レベル】 9(E級)
【装 備】 竜王の剣(S級)
妖精王の鎧(S級) 心眼の兜(S級) 天馬の靴(S級)
【スキル】 長剣(E級) 短剣(F級) 斧(F級)
格闘(E級) 盾(E級)
風魔法(F級) 聖魔法(F級)
交渉(E級) サバイバル(F級) 乗馬(F級)
性技(E級)
救世の大志(E級)
周回の記憶
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「――ッ!?」
ステータス画面で称号を切り替えた直後、床が抜けたような落下感におそわれて、俺は膝から崩れおちた。身体が鉛のように重く、頭が割れるように痛む。平衡感覚をうしなって目がまわり、ひどい船酔いのような吐き気がした。身体は手と足がどこにあるかもわからないほど感覚が鈍くなり、悪寒に震えが止まらない。
「カガトどの! どうしたのですか!?」
セシアが俺の顔や手足をさすり、懸命に声をかけてくれている。むきだしになった胸を隠すことも忘れて、たわわなおっぱいが俺の目の前で揺れている。
素晴らしい光景のはずだ。が、何も感じない。果てしない墜落感に支配され、俺はどこか遠くから、動かなくなる自分の身体を見つめていた。
このまま死ぬのか? いや、そういうのとはすこし違う。ゲームクリアして次の周回がはじまったときに近い感覚。そうだ。これはレベルが大幅に低下したことによる喪失感にちがいない。HPも、MPも、SPも。筋力も、素早さも、賢さも。なにもかもが急速に衰えて、猛烈な虚脱感におそわれる。この31周目のはじまりにも経験したが、今回のこれは苛烈さがまるで違う。周回と周回のあいだには時間の概念すら存在しない巨大な隔たりがあって、新しい肉体でまた一からのスタートとなるためレベルダウンしても違和感だけで済んでいた。
しかし、今回は「
頭の片隅で、感覚が切り離された俺は冷静に分析を続けているが、肉体のほうは悲惨だった。セシアに抱えあげられてもうめくことしかできず、口からは血泡のまじったよだれをたらし、手足は痙攣している。失禁していないのが、せめてもの救いといったところだ。
そんな俺をセシアがかいがいしく介抱してくれていた。半身を起こして鎧を脱がせると、背中をさすり、水筒からタオルに水を含ませて俺の唇にあてがう。
「私の声が聞こえますか? 苦しいですか?」
「……水は口移しがいいな」
真っ青な顔で俺がつぶやくと、セシアは心底ホッとした様子でほほ笑んだ。
「ダメですよ。それは身体が治ってからです」
ピロリン♪ と鳴り、セシアが俺の頭をギュッと抱きしめてくれた。
マシュマロおっぱいに包まれて、気分が安らいでいく。かすかにしか動かない手を必死にはげまして、弱々しくおっぱいを揉む。
すぐに、ペシン、と叩かれた。
「カガトどのは、本当に懲りない人ですね。でも、命にかかわる副作用じゃなくて、よかった。アーカイヴ様に感謝します。
いまはゆっくり休んでください。今度は私が助ける番ですから」
俺の装備品とダークストーカーの魔石を自分のアイテムボックスにしまうと、セシアはラメラーアーマーから手早くチェニックに着替えた。
「すぐに教会に連れていきますね。ガッダにもアーカイヴ聖典教の神官がいるはずですから、治療を受けられるとおもいます」
そう言って俺を背負うと、歩きはじめた。
上下の揺れでめまいと頭痛がさらにひどくなる。おもわずセシアにしがみつくと、もにゅん、とおっぱいをつかんでしまった。
「ひゃん」と可愛い悲鳴をあげて、セシアが背中の俺をにらむ。
「いたずらしたら落としますよ」
「セシアが魅力的すぎて……つい、な。
でも、気持ちよくて……安心する」
チェニックの上からでも、ふにふにとした感触は安らぎを与えてくれる。いまの俺は勃起することもできないが、女性の柔らかさには母性の包容力がある。俺はぐったりとなった頭をセシアの肩にあずけた。
「セシアの匂い……いい匂いだ……」
「私もカガトどのの匂いは嫌いではありません。変な風にさわらないなら、腕は前にもっていってもいいですよ」
セシアの手が俺の尻をしっかりと支える。
暖かい背中。上下の揺れが眠気をさそい、
◇
硬い感触が背中からつたわり、俺はみじろぎした。
まぶたは目ヤニにおおわれているようで薄っすらとしか開かない。白い清浄な光に浮かぶ見知らぬ人影。「極度の虚脱状態のようですね。何をどうしたらいったいこうなるのでしょうか」という聞き覚えのない男の声。
「――あ、カガトどのが気がついたみたいです」
光を背にほほ笑む天使が視界に舞い降りてきた。
徐々にひろがる外界の景色。セシアに押しのけられた格好の初老のドワーフがかざしていた手をおろした。
「体力が尽きたわけではないようなので、ヒールは必要ないでしょう。さきほどのキュアオールが効いたのか、あるいは時間の経過によって回復しただけなのか。いずれにしても、もう大丈夫でしょう。『呪い』にこれと似た状態がありますが、ダークストーカーという魔物の特殊能力でしょうか?」
聖円の首飾りをさげた聖典教の神官とおぼしきドワーフが白いひげをしごきながら、だれにともなく問いかけると、
「……ダークストーカーに『呪い』の能力はないはず」
黒い三角帽子がつぶやいた。
その横から猫耳がニョキッとつきだしてきて、
「ネネ、本の知識がすべてじゃないにゃ。でも、ほんとにダークストーカーを倒したのかにゃ? カガトが見かけより強いのはみとめるけど、魔将級の魔物はさすがに荷が重い気がするにゃ。
――でも、自警団のおっちゃんたちの話からして強力な魔物であったことは間違いないにゃ。ということは、強敵をも圧倒する、勇者の奥の手が存在するのかにゃ? だったら、魔王も楽勝かも? ククク、このままカガトについていけば、アタシも労せずして救国の英雄にゃ!?」
「……勇者の奥の手。セシアは知ってる?」
「えーと、それはですね……」
ネネに水をむけられたセシアが急に顔を赤くして明後日の方角に目をそらす。あきらかに不審な挙動に、ユズハとネネが詰め寄った。
「カガトはいったいどんな手をつかってダークストーカーを倒したのにゃ!? これからの旅の難易度にかかわってくる問題にゃ。さっさと白状するにゃ!」
「……ボクたちは仲間だよね?」
目が完全に泳ぐセシア。さらににじりよるユズハとネネ。
息をするのがようやくのところで声を出すほどの肺活量も回復していない俺は、事のなりゆきをただ見ていることしかできなかった。
勢いに押されて、俺の横たわる寝台に尻もちをついたセシア。支えのために後ろについた手がちょうど俺の手と重なり、翡翠の瞳と俺の視線がからみあう。一瞬にしてさまざまな記憶が呼びおこされ、セシアの上気した頬に色気がたちのぼる。
「で、カガトに奥の手はあるのかにゃ?」
「……知りたい」
「たしかにカガトどのには勇者だけに与えられた切り札がありました」
「ほんとにゃ!?」
「……どんな?」
「え、えーと、それはですね、肉体の限界を突破し、無限の力を発揮する秘法で、たしか、エロ、ス? いえ、あの」
「ん? エロ、ス?」
「……エロス?」
「あ、愛の力です!!」
ユズハとネネが、ぽかーんと口をひらく。
「だ、だからですね、勇者は愛の力で強くなるのです。実際、カガトどのは魔将級のダークストーカーを一刀のもとに斬り伏せました」
セシアは勢いよく立ちあがり、ユズハとネネを押し返すと、「この話題はもう終わりです!」と顔を真っ赤にしながら部屋から出ていってしまった。
その背中を追いかけて二人も、
「ま、待つにゃ! 愛の力って何にゃ!?」
「愛が最強の力……!?」
結局、俺はひとり教会にとりのこされる。
気まずい沈黙のなか、ドワーフ神官が軽く咳払いをした。
「愛と孤独は常に隣り合わせの存在です。孤独を知れば、愛もきっと深まるはず。
さて、状態異常の回復は100ゴールド。このまま教会に泊まっていく場合はベット代に夕食代こみで追加100ゴールドです」
金には厳格な聖職者に、俺はまだ不自由な表情筋で苦笑をつくりつつ、「リクの隠れ里」では「
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