4-10 魔剣 炎帝マサムネ
サブシナリオ「
先ほどの店主と客の会話がその出端だ。ということは、今晩、ガガーリン王の宝物庫が「ダークストーカー」に襲撃され、炎帝マサムネが奪われる事件が発生するということ。ダークストーカーは魔王級(A級)に次ぐ魔将級(B級)の魔物。序盤では破格の強さを誇るゴースト系アンデッドであり、低レベルで勝てる見込みはない。あくまでも終盤のやりこみ要素という位置づけだ。
いまの俺はS級・A級の装備で身を固めているものの、ゴースト系アンデットに物理攻撃は効きにくく、レベル8で倒すことはほぼ不可能。とはいえ、このまま放置すれば、ダークストーカーが辻斬りを繰りかえし、ガッダの住人に死傷者が頻発することも目に見えている。
いままでの周回では現実感も希薄で、
たとえ見ず知らずの相手であっても、死ぬかもしれない人を放っておくわけにはいかない。勇者としての覚悟というより、セシア、ネネ、ユズハ、スクルドの夫としての
ああ、クソ!
サブシナリオの発生条件を勝手に「魔剣士ユキムネがパーティーメンバーにいること」と決めつけていたが、もしかすると「マサムネシリーズを装備した状態で武具屋にはいる」だったのかもしれない。いまとなっては検証しようもないが、セシアの「
悔やんでも仕方ないが、想定の甘さがチクチクと針のように胸を刺す。
「――勇者が魔物を一掃してくれたおかげで、いくつかの廃道が息を吹きかえしてな。たまたま長く放置されていた坑道に潜っていったやつが、その奥で刀を抱えているミイラを見つけたらしい」
「なるほどな。運のいいやつもいたもんだ。俺はその刀が持ちこまれた先のガガーリン王から散々自慢されちまってよお。『こうもたてつづけにマサムネに出会えるとは奇跡ぢゃ!』とかな」
武具屋の親父が「おかげで売りこみたかった自信作は持ち帰りよ」と常連客に愚痴をたれたとき、ようやく入り口に立っている俺たちに気がついた。
「おお、
店主がカウンターから身を乗りだすと、
「おいおい、親父さん、ちょっと待ってくれよ! この御方だよ。さっきの話の勇者さまってのはよお!」
常連客が俺の顔を指して、興奮気味に店主の腕を引っぱった。
「昨日、魔物の掃討に向かうところを見かけたんだ。こっちの別嬪さんもいっしょだったよなあ。いやあ、ホンモノだよ。握手してくれねえか」
赤ら顔のドワーフがグローブのように分厚くなった手を差しだしてくる。
俺はダークストーカーのことで内心焦っていたが、そこは長い社会人経験と勇者経験のたまもので、うわべだけは朗らかな笑顔で握手に応じた。
「ワイリーとカレンの子、グリゴリーだ。それにしても、あんだけの数の魔物をたった4人でやっちまうなんてよ。勇者ってのは噂以上にすごいな! これならきっと魔王だってぶっ飛ばせるぜ!」
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『 グリゴリー・ボルチン 』
鉱夫ギルドに所属する採掘士。ガッダの自警団「
【種 族】
【クラス】 重戦士
【称 号】 発破技師
【レベル】 8(E級)
【愛憎度】 ☆/☆/-/-/-/-/- (勇者、かっけえ!)
【装 備】 破砕の斧(D級) 鋼の盾(D級)
鋼の鎧(D級) 鋼の兜(D級) 鋼の脚甲(D級)
【スキル】 斧(D級) 大剣(F級) 槍(E級) 格闘(F級) 盾(F級)
土魔法(F級)
採掘(D級) 発破(E級)
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『 タラス・タルノフ 』
ガッダの武具店「一撃のメイス」の店主。伝説の鍛冶師ヴェルンドの系譜につらなる武具職人であり、代表作に「流星の槍」がある。
【種 族】
【クラス】 鍛冶師
【称 号】 シルバーマイスター
【レベル】 15(D級)
【愛憎度】 ☆/-/-/-/-/-/- (これが勇者か)
【装 備】 革の
【スキル】 鎚(D級) 斧(E級) 大剣(F級) 槍(E級)
火耐性(E級)
料理(E級) 採掘(D級)
鍛冶(D級) 武具製造(D級)
鎚と金床(D級)
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店主のタラスが何かを思い出したらしく、ポンと手を打った。
「兄さんが勇者ってことは、そっちの金髪のお嬢さんは、ひょっとして、セシア・ライオンハートか?」
いきなり名前を呼ばれてセシアが恐る恐るうなずくと、
「おおおおおおお!!
ガガーリン様のところで話には聞いていたが、あんたがそうか!」
突如
「父上のセオドア様には、ガキを救われた恩義がある! あの御方が食いもんを届けてくれなけりゃあ、きっとせがれは飢え死にしてただろう。うちだけじゃねえ。ああ、ったく! なんであんな良い人がこんなに早く逝っちまうんだろうなあ!
タラスの感謝を伝える大声に、セシアは呆気にとられ、「はい、自慢の父でした」とこたえるのが精いっぱいであった。
「今日はいい日だ!! 恩人の娘が店に来てくださった! ええーい、持ってけ! 5割引だ!!」
白もじゃ頭のタラスが、バン! とカウンターを拳で叩く。
ダークストーカー戦のことで頭がいっぱいだった俺は、店主の言葉に顔をあげた。
「では、セシアに防具をみつくろってほしい。できるだけ防御力の高いもの、付け加えるなら、切断に強く、炎に耐性のあるものがいい」
悩んでいても仕方ない。できることから対策を積み重ね、あとは臨機応変に。俺の30周の経験を信じるしかない。
まずはセシアの「聖騎士の鎧」が戻ってくるまでの当座の装備だ。ダークストーカーが炎帝マサムネを手に入れたときのことまで想定すると、打撃系の攻撃よりも斬撃に強い防具、それに加えて火属性の耐性が高いものが望ましい。
「うーむ、なかなか難しい注文だな。ここにある防具はほとんどがドワーフ用だからな。人間の、しかも女にも合うものとなると、ぐっと絞られてくるが」
かたい頭髪をゲシゲシと搔きむしりながら店主のタラスが奥の倉庫へと消え、しばらくして、いくつかの皮鎧や金属鎧をとりだしてきた。カウンターに並べて、ぶうっと埃を吹き散らす。
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『 鋼の鎧 』
良質の鋼を使用した、ドワーフの防具工房「ラッパ吹き」製の鎧。
【タイプ】 金属鎧
【防御力】 16(D級)
【効 果】 切断ダメージ軽減
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『 岩の鎧 』
硬い岩盤を削りだして作りあげた岩の鎧。採掘士と防具職人の二足のわらじを履くゴルカ・ウフルカの意欲作。防御力は高いが、とてつもなく重い。
【タイプ】 石鎧
【防御力】 28(B級)
【効 果】 鈍重 ノックバック無効
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『 竜鱗のラメラーアーマー 』
ブロンズドラゴンの鱗を繋ぎあわせた鎧。防具職人バンバ・バッカロール作。伸縮性があって動きやすく、竜鱗には炎の熱を反射する特性があるため耐火性能が高い。
【タイプ】 竜鱗鎧
【防御力】 21(C級)
【効 果】 火耐性(E級)
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順に確認していくが、使えそうなものはこのあたりか。
「鋼の鎧」はオーソドックスなつくりの鎧で、カウンターに置かれているものはセシアの背丈にちょうど良いサイズだ。胸が入るかは確認してみないとわからないが、可もなく不可もなくといったところか。
「岩の鎧」は防御力だけなら置いてある鎧のなかで最高だが、すばやさが半減する「鈍重」の効果が「韋駄天の脚甲」の利点をすべて打ち消してしまう。見た目もほぼ岩のかたまりで、セシアの衣装としては0点だ。
やはりここは「竜鱗のラメラーアーマー」の一択か。
「お、勇者さまは目利きだな」
タラスがラメラーアーマーを前に出して、
「こいつはブロンズドラゴンの鱗をつかっていて防御力もそこそこ、火にも強いという逸品だ。だがな、こいつの真価はそこじゃあねえ。
着るものを選ばない、という汎用性にこそある!」
両手でビローンと横に引っぱるとと、前面中央にはいった切れ込みがひろがる。
「ドワーフは男でも女でも肉付きがいいほうがモテる。だから、体格の良いやつが多いんだが、でかい胸やたっぷりした腹がつっかえるようじゃあ、鎧も苦しくて着ちゃいられない。だがな、肉の付き方ってえもんは千差万別だ。
どの部分をひろげてどこをしぼるか、どう足掻いたってカスタマイズが必要になってくる。当然、値段もあがる。このラメラーアーマーはそんなドワーフ戦士の悩みを解決するためにつくられた究極の鎧! ハハハ、見ろ、この自在の伸縮性を!」
縦にも横にもゴムのように伸び縮みする。
タラスの説明によると、竜鱗を繋ぎあわせている紐に伸縮性に優れたネジリソウの
「セオドア様のお嬢は人間のなかじゃあ、かなりの美人かもしれねえが、もっとたっぷりと腹まわりに肉をつけないとドワーフにはもてないぜ!」
自警団のグリゴリーがグッと親指を立ててくる。どこからどう見ても、赤ら顔のセクハラ親父だ。
「カガトどの、私もこの中ではラメラーアーマーがもっとも良い品に見えます。試してみてもよいでしょうか」
「おお! 気にいったようだな! よっしゃあ! セオドア様のお嬢が着てくれるなら、職人冥利に尽きるというもの。このラメラ―アーマーをつくったバンバ・バッカロールてえのもセオドア様の恩恵にあずかったひとりだからな。あとで教えてやったら、喜ぶだろうぜ。
ささ、試着室なんて気の利いたものはねえが、そこの倉庫を使ってくれや」
タラスが店の奥につながる木の扉を指さす。
セシアが鎧をもって倉庫のなかに消えると、タラスがカウンターの中から価格表を取りだし、竜鱗のラメラ―アーマーの部分をコツコツと指でたたいた。
「値段は売価4000ゴールドのところを半値で2000ゴールドだ!
性能からすると破格だぜ」
たしかにC級の装備品としては安い。ダークストーカー対策としては必要な出費だろう。タラスが、もうこれで決まりだというように他の鎧を片付けはじめると、倉庫の扉がうっすらと開き、セシアが顔をのぞかせた。
「か、カガトどの、これは、ちょっと、さすがにダメですよね?」
頬を朱に染めつつ、そっと半身を見せる。
竜鱗のラメラーアーマー。その伸縮性は見事の一言であった。
枯葉色の竜鱗の連なりが中央のスリットでおおきく左右に分断されている。ドワーフの背丈を基準につくられているため、身長の高いセシアでは上下に極限まで引き伸ばされ、そのぶん横幅は狭くなり、セクシー水着もかくやというくらいの幅しかない。あとわずかで乳輪まで見えるのではないかという際どさでおっぱいがはみ出し、スリットはへそのあたりまで続いている。
「最高だ! これをもらおう!!」
即決した俺は2000ゴールドをカウンターに並べると、タラスに差しだした。
「まいどあり!」
「ちょっと待ってください。カガトどの。私、こんな格好じゃ恥ずかしくて」
もじもじするセシアの手を引いて倉庫から連れだすのと、店の入り口の扉が勢いよく開かれるのは同時であった。
「グリゴリーさん! やっと見つけたっス。ここにいたんスか」
「おお? どうした、そんなに慌ててよお」
「
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