寝癖ナオシ帽子 第4話

「え……」


 私は引き剥がした帽子と、目の前にいるモノとを何度も見た。


「どうやら、またエゴが出たようだな。面倒なヤツだ」


 部屋の隅で男が言う。しかし、その声はまるで棒読みで、私の直面しているこの異常事態に対する関心など、まるで感じられなかった。


 帽子に、その子の顔が張り付いていた。ぱっちりと開いた両目の奥に床が見えた。うっすらと埃の積もった床に、私の手の中の顔から水飴のようにとろける何かがしたりしたりと垂れて広がっていく。


「ねぇ、ぼくのおかおをかえしてよ」


 目の前に立つ赤黒い顔の子が無邪気に言った。歯の白さと、ピンクの舌が、その濁ってぬめった頭部の中でギラリと輝いている。右目のあたりが黄色く濁っている。左目のあたりから床まで、水飴のようにとろける何かが糸を引いていた。


「ぼく、ひだりめがね、とけちゃったんだ。そしたらね、おかおももえたの。だからね、そのおかおをもらったの」


 脚の力が抜けた。腰が抜けて、床にお尻をしたたかに打ちつけた。尾てい骨にヒビが入ったんじゃないかというくらい、痛かった。足の痛みも合わさって、思わず涙が出た。


「あのね、ぼく、おかおがほしいんだ。おかおがひつようなんだ。ぼくのおかおおかおおかおおかお……」

「あ、あの、あの……!」


 顎がガタガタと震えてしまって、言葉にならない。男は私たちには関心なさげに、部屋の中の物を手にとっては眺めている。

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