SF小説を書きたかった

スパイシー

SF小説を書きたい

 パソコンの電源をつけて……よし、準備完了だ。今日も小説を書こう。マウスを動かし、テキストエディタを開いて、キーボードを叩く。

 何を隠そう俺の趣味は、SF小説を書くことだ。なぜSF小説なのかと言えば、俺は機械や不思議道具を想像するのが好きだから。

 だが、俺はなかなかSF小説を書き切ることができていない。なぜなら、いつも邪魔が入るからだ。

 ――トントン。部屋の扉を叩く音。

 ほらきた。

「ねぇあんた。私の包丁知らない?」

 不意に部屋の扉が開き、おふくろが顔を覗かせた。いつもこうだ。俺がSF小説を書こうとすると、絶対に邪魔が入る。

「はぁ? 知らねぇよ。てか、いま忙しいんだから後にしてくれ」

「ふーん。そういう態度なんだ。じゃああんた今日は夕飯無くて良いって訳ね」

「なんでそうなるんだよ……予備の包丁あっただろ?」

 台所の棚の中に、安売りしている時に買った刃のついた・・・・・包丁がいくつか入っていたはずだ。

「あれはダメなのよ。すぐ刃こぼれするし、切りにくいのよ。もういつもの包丁じゃないと料理なんてできないわ」

「……はぁ~~。わかったよ。一緒に探せば良いんだろ?」

「さすが私の息子ね。話が早くて助かるわ」

 まったく、俺も飯無しは嫌だからな。部屋を出てダイニングまで行く。そして、包丁大捜索が始まった。おふくろがキッチン周り、俺はダイニング。あるものすべてをひっくり返しながら迷子の包丁を探し始めた。

 それから数十分たった頃。おふくろから声が上がった。

「あぁ~~! こんなところにあったわぁ~~」

 おふくろがてを突っ込んでいるのは、床と冷蔵庫の隙間。そこから手のひらサイズの機械を引っ張り出した。

 すると、ブィンという音と共に、レーザーの刃が飛び出す。そして、置いてあったリンゴを持ち、するりと刃を通した。この包丁は手に刃が触れても、身体に危害を加えないという優れものだ。

「あ~。やっぱりこれじゃないとダメだわぁ~。私の相棒『レーザー包丁』たん~」

 おふくろは刃を一度しまってから、頬にすりすりと擦り付けていた。

 なにやってんだ気持ち悪い。というか、相棒なら無くさずに大切にしてやれよ。

「もういいよな。じゃあさっさと片付けるぞ。俺は忙しいんだからな」

「はーい」

 そう言って、ひっくり返したものを直そうとしたら、唐突に背後から声が聞こえた。

「おかあさーん。今日の夕飯何~? ――ってなにこれ!? なんでこんなにごちゃごちゃなの……?」

 後ろを振り向くと、妹が『ワープ装置』で学校から帰ってきたところだった。

「ちょうど良いところに来たな、妹よ。お前も手伝え。さもなくば夕飯は無しだ」

「え、えぇっ!? どう言うこと!?」

 そうして、妹を巻き込んで、片付けを開始した。まぁ、今度は探すものもないし、ひっくり返したものを戻すだけ、さして時間はかからないだろう。

 ほんの数分で片付けが終わり、俺は解放された。よし、やっとSF小説を書けるな。

「おい息子よ! さっき仕事帰りに町で良いものを見つけて買ってきたんだ! 見てくれ!」

 またもや声が聞こえたのは、『ワープ装置』。今度は親父だった。

「なんだよ。俺は本当に忙しいんだ、後にしてくれ」

「そんなこと言うなって! 良いから見てくれよ!」

 しょうがない、相手してやるか。仕方なく振り返ったら、親父の他にメイド服を着た絶世の美女がいた。赤く綺麗に靡く髪に、小さな猫耳そしてその儚げな表情。その姿には見覚えがあった。ネットでだが……。

「お、おい。それはまさか……」

「そう! そのまさか、『第三世代ご奉仕用メイドロボ』ミミちゃんだ!」

「な、なんだとぉ!?」

 思わず叫んでしまったが、これが叫ばずにいられるだろうか。『ご奉仕用メイドロボ』は現在第12世代まで出ている中、もっとも気持ちよくしてくれると噂だった、第三世代のミミちゃん。それが今俺の目の前にあるんだ! これは叫ばずにはいられない!

「お、おやじ……それは俺にも使わせてくれるんだろうな……?」

「あぁ……もちろんだとも息子よ。共に二人で気持ちよくなろうではないか!」

「お、親父ぃいいい!!」

「息子よぉおおおお!!」

 俺たちは抱き合った。あぁ、やはり家族の絆は偉大だ。今まで冷たく当たってごめんよ、今度からは頑張って親孝行するよ……。

「ねぇ、あんた達。喜んでいるところ申し訳無いんだけど、ちょっと話があるわ」

「え?」

「ん?」

 後ろからただならぬ殺気を感じ、振り向くと、鬼の形相をしたおふくろと妹が立っていた。俺と親父は恐怖に顔がひきつった……。


 そうして、俺はまたSF小説を書けなかった。ついでに、ミミちゃんは木っ端微塵に壊された。

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