吸血鬼ルカ

 真夜中——たくさんの人がいる広い公園であそんでいると、誰かがマリの手を引いて公園の外へ連れて行きました。


 着いた先は人工の雪が降る円形の広場でした。誰かが「ここは年中、雪が降っているんだよ」と教えてくれました。マリは喜んで、誰もいないその広場の真ん中でデタラメに踊ってあそびました。不思議とその円形の中ではとても身体が軽くてたのしかったのです。


 そうしていると奥から『ルカ』と呼ばれる、外国人のような中年男性(と言っても顔は眼鏡やら帽子やらでよく見えません)が現れてカタコトでマリに「じょうずね」と言いました。ルカはバレエのようなものを踊り始めました。とても優雅で上手だったので、マリは自分のデタラメな踊りを見られたことを恥ずかしく感じました。


 ルカは有名な吸血鬼です。気がつくと周りにルカを慕う吸血鬼仲間が5人ほど集まっていました。ルカはみんなに食べ物を配りました。マリにも、ちいさな柑橘系の果物と、そのゼリーがたくさん入った袋をもらいました。うれしかったのですが食べきれないのでマリは周りの人と分け合いました。


 母親と公園に来ていた幼い子がその様子を見て「あのゼリーたべたい」と言うと母親は「これ、そんなことを言わないの。行儀がわるい。あれは吸血鬼が独り占めしているのよ」と言いました。それを耳にして、マリは袋の中にゼリーが余っていないかと探しましたがもう全て配り終えてしまっていました。けれど袋の底に、子供が喜びそうなかわいい模様の絆創膏の束があったのでマリはそれをその子に差し出して「ゼリーでも、食べ物でもないけれど……」と言って渡すと母親も子供もとても喜んでくれました。母親はお礼に、子供の着ていたぼろぼろのトレーナーをその場で脱がせて、マリに渡しました。

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