ムシャムシャさん
「おとうさん。どこへ行くの?」
「ゼシカ・ゲカの結婚式へ行くんだよ」
「そう。行ってらっしゃい」
そんなやりとりをして父を玄関まで見送った後、マリは手元にあった一冊の観光案内の本を手に取り、それを読んで過ごしました。
その本には、ある”いわく”がついていました。この本を読んだ人のところには夜になると「ムシャムシャさん」という妖怪が訪れるのです。ムシャムシャさんは本を読んだ人のベッドに接近して顔を覗き込んで寝ているかどうかを確認してきます。眠っていない時に覗き込まれたら「ムシャムシャ、ムシャムシャ」と音を立てて、食べ物を食べている夢を見ているかのようにして眠っているフリをしなければなりません。起きていたり、起きていることを見破られた人はムシャムシャさんに異界へ連れて行かれてしまうことがあるのです。
その夜、マリと同じようにムシャムシャさんの本を読んだ大勢の人たちが集められ、みんなで避難所のような場所でふとんを敷いて眠ることになりました。
深夜、部屋は真っ暗でほとんどの人は眠りに就いていましたが、マリは寝付けていませんでした。ソワソワして何度も寝返りを打っていると、近くから妙な気配を感じたのでマリがそちらを向くと長い髪を垂らした人が背を曲げて、寝ている人の顔をひとつひとつ覗いて回っているのが見えます。マリはそれがムシャムシャさんだとわかり、慌てて目を閉じました。眠っていない人が「ムシャムシャ」と音を立てて、食べている夢を見ているふりをしているのが時々聞こえます。
だんだん気配が近付き、マリは自分の顔が覗き込まれているのを感じました。
“ムシャムシャ ムシャムシャ” マリは音を立てました。ムシャムシャさんは目や耳を近付けてマリをよく観察しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます