心の修理工場
真っ白な工場の中をマリは歩いていました。中にひとつテーブルがあり、その上には何枚かの薄くてきれいな、プレパラートに似たガラス板が専用のスタンドに掛けられ、置いてありました。ガラス板は見る角度によっては薄紫色にキラキラ光って見えます。
しばらく見ていると、突然一枚のガラス板が割れて粉々になってしまいました。マリがぼんやりと、テーブルに散らばった破片を眺めていると「危ないから触ってはだめだよ。直すから、離れていて」と、声をかけられました。声がした方を見ると誰かがいましたが、工場内は白くて眩しかったので姿はよく見えません。男性か女性かも曖昧で、ただ声は優しく穏やかでした。「ここの工場長かな」とマリは思いました。
工場長はガラス板を指して「これは、心なんだよ」と教えてくれました。それを聞いてマリは「このガラス板は、心……。壊れた心はこの工場で修理されているのね」と感心しました。工場長は粉々になった心の破片を集め始めました。直すことなんて出来ないのではないかと思うくらいに粉々でしたが、破片は壊れる前と変わらずキラキラと光っています。
それらの破片にはマリが心にしまっていた嬉しい思い出や幸せな過去が映っているように見えました。素晴らしい思い出のはずなのに見ているとマリの胸は痛みます。幸せな思い出も心が壊れると、とがった破片になってしまうから思い出す時に胸が痛むのだ とマリは理解しました。
そうして工場長が手でやさしく集めてくれている粉々になったガラス板はマリの心だったことがわかり、マリの目からは涙があふれました。
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