鬼の村 第二話


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 私は登山が趣味で、ハイキングコースに毛の生えたような初心者用の山登りが好きだった。単独で登ることもあったが老人や子供が参加するイベントもかなりの数をこなしていた。上級者向けの山には興味がなく、仕事に明け暮れる毎日のストレス解消ができたらそれでよかった。

 あの日、初心者向け登山のイベントにいつものようにひとりで参加していた。

 上級者を目指さずとも歩き続けていれば自ずと健脚になる。のんびり歩いているつもりが、他の参加者よりもずいぶん早くゴールに着いた。

 木村とはそこで出会った。

 あいつは頂上から見える町並みを眺めながら汗を拭いていた。

 私が着くと振り返って「おっ、早いですね」と笑った。

 どこか地方の出身なのか、少し訛りを含んでいる。牧歌的で悪くない人だとその笑顔が表していた。

「そちらこそ」

 隣に並んで汗を拭く。

 お互い名字を名乗り合った後、据え付けの丸太でできたベンチに腰掛けた。

「広尾さんは今回初めてですか?」

 彼の質問に私は首を縦に振り、

「この山はね。でも登山が好きで、こんなイベントには何度も参加してますよ」

 と返事して、リュックの中から小さなペットボトルの茶を二本取り出した。

「それでは今度は中級者向けの山に挑戦ですか?」

「いえいえ。このくらいの山で十分です。極めるつもりありませんから。木村さんは?」

 一本差し出すと木村は嬉しそうに頭を下げた。

「僕、こういうイベントの参加は初めてなんですよ。でも実家が結構な山ん中で、子供ん頃は走り回ってました。

 こっち来てから運動不足になったんで参加したんです」

「ああ、だから脚が強くて到着が早かったんですね」

 二人が話している間に参加者たちがどんどんゴールしてくる。

「そうだっ。今度の夏休み、実家に帰るんですけど、一緒に山登りしませんか。僕んちに泊まってください。たいした食べもんありませんけど味は最高ですよ」

「いやあ、おいしいものには惹かれますが、きつい山はちょっと」

「ははは、全然きつくないですよ。この山よりも低いくらいです。ただきちんとした道がないと言うか、足場探しながら登るんです。かといって危険はないですよ。熊や猪は出ませんし」

「へえ、面白そうですね。でもほんとですか? 危険動物が出ないって」

「僕の村には動物避けのお守りがあるんですよ。だから大丈夫」

 にこにことした気持ちの良い笑顔にほだされ、木村と約束を交わしてしまった。

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