添
黒い体毛を赤く染めた狼は森の中から町の様子を伺った。
噴水のある広場を中心にして数十軒のレンガ造りの家や店が並ぶ町はそれなりに栄えているようで、深夜となった今でもいくつもの明かりが点っている。酒場でもあるのか、男たちが騒ぐ声が微かに聞こえてくる。
町の外れ、すなわち森に一番近い場所には教会が建っていた。十字架と鐘は磨かれ、教会は小さいながらも立派な佇まいをしている。花壇には様々な種類の花が植えられ、仄かに甘い香りが漂う。町の中心部と比べて教会の周囲は暗く、花の色はわかりにくい。
狼が目を向けると、衣服が汚れるのも厭わず一人の少女が座り込んでいた。狼の存在には気が付いていないようだ。フードをかぶった少女はうつむき、花壇に咲いている花を、自分の手が届く範囲で丁寧にむしりとる。
一本
二本
三本
ふいに少女は立ち上がり朧気な満月が浮かぶ夜空を見上げた。
頭からフードが落ち、肩の下辺りまでのびた傷んだ栗色の髪があらわれる。
瞳は闇夜に沈む影のように黒い。
狼は目を見開いて少女を見つめた。
風が、少女の手から花をさらっていく。
「お母さんもお祖母ちゃんも」
少女は目を閉じ悲しげな顔をして、笑う。
真っ赤な花が狼の前に落ちた。
狼は少女から目を離さない。
「いなくなればいいのに」
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