第58話 チェックダイブはパラオの掟

 パラオに到着した私とOさんのふたり連れは、否が応でも期待が高まってきます。

 ホテルに到着すると、さっそく準備して海へ。

 ところでパラオにはファンダイビングをする前に、全員チェックダイブをするという掟があります。

 つまりガイドさんが、基本的なスキルをチェックして、「あ、こいつ無理だわ」と判断すれば、連れて行かないという非情な掟が……。


 といっても、チェックすることはふたつ。

 ひとつはマスクの中に水が入ったとき、それをクリアする。(簡単に言うと、鼻から息をだせば、マスクの中の水は、外に押し出されます)

 もうひとつが、口からレギュレーターを離したとき、咥え直す。(このとき、いきなり吸い込むと中にたまった水を飲むので、まず息を吐いて水を押し出してから、吸うのが掟)。


「だいじょうぶかなあ」

 ボート上でイマイチ心配そうなOさん。

「だいじょうぶですよ」

 あなた、ついこの間、講習やったばかりじゃないですか?

 私なんて、そんなこと数年やってませんが、なんとかなりますって。


 じっさいに、「あんた、できなかったから、連れて行かない」といって丘に戻された人がいるという話は聞いたことがない。(いや、いるのかな?)


 ボートからエントリーして、浅瀬でチェックダイブ始まりました。

 やってみれば、なんの問題もなく終了。ふたりで5分もかかりません。

 ガイドさんはOKサインを出すと、そのまま水中を移動していきます。

 ここは「ジャーマン・チャネル」。世界でも有名なマンタポイント。

 真っ白な砂地を泳いでいくと、やがてポイントに到着。そこで少し待っていると……。


 来た、来た。マンタきた~っ!


 ここのマンタは比較的じっくり観察できます。一瞬だけのすれ違いマンタとか、遠目で逃げ去っていくマンタではありません。

 翼のようなでかいヒレをゆったりと動かしながら旋回。

 南野、カメラのシャッター、ばしゃばしゃ。


 マンタの後は、ギンガメアジの群れのおまけ付き。

 こうして、パラオでのファーストダイブを堪能した後、ボートに帰還。


 すごかったなあ、とかごく普通の感想を漏らした後、Oさんは言いました。

「マスククリアできてよかった」

「なに言ってんですかぁ」

 思わず、肩でもぱーんと叩こうとしたら、

「だって、俺、コンタクトしてたし」

「え?」

「マスクに水入れて、コンタクトはずれたらどうしようかと……」


 そういう心配かいっ!


 ほんとはやめたほうがいいんですが、コンタクトをしたまま潜るダイバーはいます。(水中で外れたり、ずれたりしても直せないからね)

 でもまあ、チェックダイブするってわかってたんだから、一本目はコンタクトしない方がよかったんじゃ?


 あれ、よく考えてみたら、事前に相談されてた気がします。

「コンタクトしたままでも、だいじょうぶかな?」

「ああ、ぜんぜんだいじょうぶですよ。そういうダイバーよくいますし」

 このときは、チェックダイブのことなんか頭になかった。(適当なやつ)


 ……いいんだよ。こまけえことはっ!

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