第四部 英語なんてしゃべれなくても所長はできる

第48話 新所長Iさんの英語はすごい! いや、……マジで

 営業部長の現場が終わるやいなや、私は次の現場に配属になりました。

 またしてもアシスタント。おまえはちっとも出世せんなと言わんでください。

 しかし今度の所長は今までの所長と違い、まだフィリピンになれていません。

(年齢だけは今までで一番上ですが)


 で、この新しい所長Iさんの英語はすごい。

 ええ、ほんとすごいです。逆の方向に。


 どれくらいすごいかというと、夏休み前の中学一年生くらい。

 はっきりいって、be動詞で疑問文や否定文が作れるかどうか怪しいレベル。


 いや、知識としてはさすがに知ってるかもしれませんが、それを実際に使ったのを見たことがない。


 ローカルの責任者となにやらコミュニケーションをとろうとしていますが、まったく通じていない模様。


「コンクリート、だぁあ~っ!」

「?」

「ウォーター、だぁあああ~っ!」

「?」


 誰だ、こんなの海外に連れてきた奴はっ(笑)。


 それとプロジェクト・インチャージ(ローカル責任者)。頼むから俺をチラ見して、「この人なに言ってんの?」と訴えるのはやめろ。


 俺にだってわかんねえよ。その人がなにを伝えようとしてんのか?


「あ、南野君、彼がプロジェクト・インチャージのトト」

 え、紹介終わり。他の奴らは?

 

 Iさんがどこかにいった隙に、私はトトに言う。

「アシスタントマネージャーの南野です。よろしく」

 トト、心底ほっとした表情で

「トトです。よろしくお願いします」


「組織表作って、貼っておいてくれ。誰が誰だかさっぱりわからん」

「わかりました」


 それがないと、名前はもとより、誰がなんの仕事をしてるのかさっぱりわからないのです。

 あえてIさんには聞きませんでした。


 あの人がわかってるとは思えないからです。


 今までアシスタントといってもほとんど飾りのようなものでしたが、フィリピンに来てはじめて思いました。


 この現場は俺がいないとまわらないかもしれない。

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