第49話 男だもんね


 「あ、あのぅ。お風呂、頂きました」

俺が、まだ鳴りやまぬ雨が窓を打ち付け、流れ落ちるのを見ていると東先輩がお風呂から、エスケープしてきた。

あ、エスケープは違うか。

 「ああ、お湯加減は如何でしたか?」と、上品に尋ねようとした、俺は先輩の姿を見て固まった。

 クソォ!!こ、こんな————!!!

なんてことだ!数分前の俺!

少し考えれば分かっただろ!

お約束じゃねえか、こんなのぉ!!

なんで———、

なんでなんで、なんでっ!!


 なんで、カメラを用意してないんだぁぁあああ!!!

「変態ですかっ!!」

悔しがる俺に、アロラの鉄拳制裁が下された。

仕方ないじゃないですか!!

目の前の、この光景を見ろ!

 先輩の、風呂上がりの姿だぞ!

女性服に疎い俺が、さらに少なすぎる語彙を、ぼきゃぶらりぃを駆使して語るならば、今先輩が着ているのはピンク色のネグリジェというやつだ。

見るからに、薄そうだ。

 その上から、パーカーを着ているのが惜しい。

というか、アロラそんなの持ってたんだな。

 

 ———しかし、この画は素晴らしい。

今風(?)に言うと、“脳が、震える!”だな。

長めの髪を、右耳の少し上で束ね水玉柄のシュシュ?でくくっている。

蒸気した頬を滴がつたっていく。

そして、ネグリジェで透けた肌。

上半身はパーカーの影によってほとんど、隠されているが下半身は後ろからの光で透け、その太もものラインをこれでもかと見せつけてくる。

太すぎず、細すぎず、いい肉好きの両足は扇情的な曲線美を描き床に走っている。

ああ、なんて素晴らしいことかっ!!

今からでも遅くない。

撮ろう。


 俺が、スマホに手を伸ばそうとしたとき、2度目の鉄拳制裁が飛んできた。

「なぁにが、撮ろう、ですかっ!この太ももフェチがぁぁ!!」

脳天に一撃喰らいました。

最近、遠慮なくなってきたよね、アロラさん。

もう、キャラブレブレですよ、あなた。

「彼方さんに、言われたくはありません!」


 その後は、メムタチアがお風呂へと向かった。

先輩がいる以上、ちゃんと入っておかないと怪しまれるからなんだが。

先に入る美少女が多くなるほど、俺の興奮度が増すんだが。

「彼方さんは、入らないでください」

「ひでぇな、おい」


 暇つぶしに、とトランプゲームをすることになった。

先輩の格好が俺の視線を誘うんだが、その度にアロラの視線が突き刺さるので自重する。

 外を見ても雨は一向に止む様子はない。

テレビをつけて、ニュースを見ると台風はいまだ、この街にたどりついてもいないらしい。

それなのに、この雨の激しさとは恐れ入る。

本当に先輩を帰さなくてよかったと思った。

台風の夜に一人でいるのは寂しいからなぁ。


「あがった、の」

「ん、お湯加減は?」

「よかったの」

そりゃ、なにより。

俺が掃除して、お湯張った風呂だからな。

俺をただの、めんどくさがり屋と思うなよ?

ちゃんと家事くらいこなせるんだぜ?

「それは、すでに面倒くさがりではないのでは…」

「ん?なんと?アロラさん」

「いえいえ、なんでも。それより次は彼方さんが入ってください」

「え?ま、いいけど」

そんなに、俺を先輩と同じ場所にいさせたくないのか?

そこまで、変態面か、俺。


 まぁ、それじゃ、行きますか。

先輩と、メムタチアが入ったあとのお風呂に。

「まず、その変態思考を止めましょう」

 はい。



 夜はまだ長い(2度目)。

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