Vol.04[Deadend Survivor]

Vol.04 プロローグ『その名の理由』

 昔の夢をみた。


 とある反政府運動が盛んなコロニーにて生まれたその少年は、物心ついた時には既に銃の扱い方を心得ていた。それについて当時は何の疑問を抱くこともなく、ただ大人たちの言われるがままに引き金を引くだけだった。

 両親の顔や、自分の本当の名前も知らない。同じような境遇の仲間も、毎日誰かが消耗品のように死んでいく。それが当たり前だった。

 だがある時、死の倫理観に乏しかったその少年にも転機が訪れる。


 コロニーの住民をも巻き込んだ連続爆破テロ事件。偶然にも持たせられた爆弾が不発弾だった少年は、仲間たちと同じように自爆して命を絶つこともできず、軍の人間に捕らえられてしまったのだ。


──貴様の仲間は何の罪もない民間人らを殺した。


──そこには女子供も大勢いた。


 暗い部屋で手足の自由を奪われ、鞭で傷めつけられ、何度もそのように怒鳴られた。

 人の死に何の価値も抱いていなかった少年は、その時はじめて事の重大さを、そしてこれまでに自分の重ねてきた罪の重さをようやく自覚することとなる。


 少年は絶望した。それほどまでに、彼は屍を積み上げすぎていたからだ。

 いまさら許されるはずもない。それでも何か贖罪の方法がないかと請うたとき、その場に居合わせていた将校の一人が答えた。


──『一人を殺せば犯罪者だが、100万人を殺せば英雄』……という言葉をご存知ですか?


 耳にしたことはなかったが、言わんとしていることは何となくわかった。

 少数の死は悲劇に過ぎないが、万人の数は統計として扱われる。死の数が、殺人を神聖化するということだ。


──“英雄”に、なってみたくはありませんか? さすれば、君の罪もゆるされる。


 男はまるで聖者のような笑みを浮かべて、少年に手を差し伸べた。

 もしも本当に、それが贖罪となるのなら。

 英雄という功績が、自分の犯してきた過ちが帳消しになるほどの勲章になるのならば。


 無垢な少年は、強い意志を持ってそれに応じた。

 自らの手にこびり付いた血を、血で洗う為に。


 この時から彼は、血を渇望する者ヴラッド=デザイアの名を背負うこととなった。

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