第22話 交感世界

 こんないい雰囲気になって、それはどうだろう。彼がまたその気にならないだろうか。抱きつくこと自体やぶさかでないとしても。

「嫌かもしれないけど、仕方ないと思って…」

「分かったわ」

 ケンジがゆりこの手を取り、自分の胸に導いた。

「背中にしっかり捕まってくれるかい?」

「うん。こうかな?」

 いつも彼の胸に抱かれていたので、その背中がこんなに広くて逞しいことに気づかなかった。

 それにしても、彼は難なくゆりこをリードしている。以前から感じていることではあるが、この人、わたしが見えてるんじゃ? そんな気にさせる。


 ケンジは背中から胸に回したゆりこの腕を抱き締めた。

「じゃあ、いいかい?。僕の手をいつでも感じてる、そう思うこと。いくよ」

ケンジが合図すると、身体がスウっと軽くなり、そしてくぐり抜ける。フワフワの壁の中をくぐり抜けている。いつかレイコに聞いた通路を二人は進んで行った。

「レイコさん。あなたが言ってたのはこのことね」

そして二人は、空間にたどり着く。そこは何も感じないような、誰かいるような。静かなのに、その静けさが賑やかというか。


「ここは…?。不思議なところね」

 背中に張り付くゆりこをリードし、彼女の肩を抱くケンジ。

「ここはミセス・マーガレットの母体なんだ」

「母体?」

「ここに来れば、彼女に会えるんだよ」

 誰かが近づく気配を感じ、ケンジの背中に隠れるゆりこ。


「おおぉ、誰かな。やあ、ケンジかい。おや?、誰か一緒かな?。新しいガールフレンドかい?」

 その男は何度かケンジをポンポンと触り、握手を交わした。

「友達ですよ、ブルースさん。それじゃ」

 ケンジはその男からゆりこを隠すように彼女を抱いて背中を向ける。

「おおぉ、ほどほどにな」

 と、その男の気配は去って行く。その他に無言でケンジやゆりこを触る者がいた。性別は分からない。

「これは、何?」

「挨拶してるのさ」

「挨拶ぅ、なの?」

 もう行ってしまったが、ちょっと失礼な場所を触られた。


「さっきの人、この世界でも知り合いが作れるのね」

「ああ、そうだね。気をつけるんだよ。中にはへんなヤツもいるからね」

「ケンジ、あなたは何処の国の人?。あ、いえ、教えなくていい」

 それを聞けば、関係を深くするだけ。もう別れてしまった彼と。

「それより、どうして言葉が通じるの?」

「ここが精神世界だから…。だろうけど、僕にも解らない」

「ねえ!、ほどほどってなによ!」

「あのおじさんの口癖さぁ。気にすることないよ」


 そして、二人を包むような大きな気を感じ、少しだけしゃがれた年輩の女性の声を聞く。

「おや、ケンジなの!?。よく来たわ!」

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