第59話 突撃、カオルちゃんの店 2

 動悸を抱え、瀬戸君の罵声を思い出しながらレンガ通りを渡る。指定された斜向かいにあるカフェも結構な賑わいだったけれど、何とか席を確保できた。

 丸いテーブルに、椅子が四脚あり。私とタイちゃんは向かい合わせで座った。

 苦いコーヒーを頼みたいところだったけれど、この状況下で胃にはかなりの負担がかかっている気がしたから、少し和らげようとカフェラテを頼む。

「カオルの店。人気なんだな。客、いっぱいだったもんな」

 タイちゃんは、まるで自分のことみたいに自慢げで嬉しそうだ。

「あの制服も、可愛いよな」

 カオルちゃんの制服姿を思い出しているのか、とってもニヤニヤしているタイちゃん。

 なんか、腹立つ。ここがカフェじゃなかったら、橋本さん並みにボディーに一発入れたいところだよ。

「葵さんも、似合いそうだよね」

 他意があるのかないのか、ニヤニヤして緩んだ顔のままそんなことを言ってくるタイちゃんを、思わず鋭い眼差しで見てしまった。

「あれ……。葵さん、なんか怒ってる?」

「怒ってない」

「そうかな……。ていうか、ここの所あんまりご機嫌よくないよね? なんかあった?」

 なんかあったって、他人事みたいに……。

 覗き込むように訊ねられ顔が近づいてきたから、思わず身体を後ろに引いたら小さく溜息を一つ零された。

「なんか、それ。傷つく」

 身を引いた私の行動に、タイちゃんが肩を落とした。

「あ、ご、ごめん……」

 タイちゃんの落ち込む顔は、見たくないはずなのに。私、何やってんのよ。

「何かあるなら言ってよ。最近の葵さん、らしくないよ」

 タイちゃんは少しだけ唇を尖らせて、目の前にあるコーヒーカップに視線を落とした。

 言えないよ……。カオルちゃんに嫉妬してるなんて、嫌な女じゃない。器のちっちゃい女だもん。

 もっとさばけた性格だと思っていたのに、こんなにも焼きもち焼きだったなんて自分でも驚いているくらいで、どうしたらいいのかわからないんだ。

「俺、葵さんにはいつも笑ってて欲しいんだ。どんなに辛いことがあった時も、葵さんが笑っていてくれたから歩いて来られたんだから」

「タイちゃん……」

 両親やお祖母ちゃんが亡くなって、一人ぼっちのタイちゃん。そんなタイちゃんを笑顔にしなくちゃって思っていた私が、こんなに寂しい顔をさせるなんて。

 馬鹿だよ、私。カオルちゃんが何よ。親しげだって、呼び捨てだっていいじゃない。きっと、ずっと昔からの仲のいいお友達なんだよ。そう、ただのお友達。

 勝手に勘ぐって、落ち込んで、嫉妬して。何やってんのよ。瀬戸君がいたら、バシッと思いっきり叩かれているところだよね。

 よしっ、決めた! カオルちゃんのケーキ、美味しく頂いてみせるっ。

 頑張れ私っ。

 心の中で自分自身に叱咤激励して拳を握っていたら、私たちのテーブルのそばに人影が現れた。

「よっ。太一、待たせて悪かったな」

 聞こえてきた声に顔を上げると、そこにはパティシエの制服に身を包んだスラリと背の高い男性が立っていた。

「こっちこそ。忙しいのに突然来て悪かったなかおる

 その人を見て、タイちゃんが笑顔になる。

 しかも、かおるって……。えっ……と、どういうこと?


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