第53話「ゴールデンウィーク中なのですか?」
「おはようございまーす」
夢子が出勤してくると、皆藤だけがオフィスにいました。
「おはようございます」
「あれ? 上空さんはお休みですか?」
「上空さんも、石野さんもゴールデンウィークなので連休を取ってますね」
「ああ。今日、お休みとると大型連休になりますものね」
「ええ。……花氏さんは、連休取らなくてよかったんですか?」
「小型だろうが、大型だろうが、私は結局、PCの前にいるので」
夢子・ザ・ヒッキーです。
「……外に行きなさいよ」
「だから、そのために会社にでてきたんじゃないですか」
「会社はヒッキーのリハビリのためにあるわけじゃないですよ……」
「そういう、皆藤部長は? 恋人と旅行とか行かないんですか?」
「うぐっ……」
皆藤が胸を押さえます。
もちろん、夢子はわかっていて口にしています。
無表情に苦しむ皆藤を見て、唇を弓なりにしています。
性質の悪い子です。
「今日、よく行く喫茶店のモーニングを食べてから来たんですけどね……」
少し絞り出すように、皆藤が話し出します。
「そしたら、そこの美人マスターが、『ゴールデンウィークは、家族サービスで旅行とかなさらないんですか?』と……」
「ああ……。なんかいますよね。年齢的にもう『結婚していて当たり前』みたいに決めつけて、無邪気に傷つけてくる相手。そういう酷い人は困りますよねー」
さっき、皆藤を傷つけたことは棚の上です。
「私もコンビニによったら、『これからご旅行ですか?』と聞かれましたよ。仕事だっつーの……」
「広告なんかも、GW、GWの文字ばかりで……」
「本当ですよね。GWなんて、私にとってはゲートウェイですよ。ゲートウェイサーバーの大安売りかと!」
「テレビでもゴールデンウィーク特集ばかり。ゴールデンウィークという言葉を聞きたくなかったら、NHKにチャンネルを変えるしかありませんね」
「まあ、不思議と『大型連休』と言われた方が腹が立ちませんね、確かに」
「不思議ですねぇ」
「だいたい、ゴールデンウィークに出かけるのなんて、馬鹿ですよね。道は混んでるし、ホテルは高いし、わざわざ金出して疲れに行くようなものですよ。それに引き換え、通勤電車はガラガラで、今日なんて座ってこられましたよ。ああ、出かけなくてよかった!」
「いや、もう、それ……完全に負け犬のセリフですよね……」
「試合に負けて勝負に勝つってやつですよ!」
「あっていそうで、大いにまちがっていますよ……」
「そういえば、シルバーウィークはあるけど、ブロンズウィークはありませんね?」
「いや。なんか短い連休なんかをそう言ったり、会社によってオリジナルで作っていたりするらしいですけど」
「うーん。作ればいいのに。そうすれば、ゴールデンウィークももう少し落ち着くかもしれませんしね」
「休みが多すぎるのも、どうなのかという気はしますが……」
「なら、ゴールデンウィークは、私のようにセブンセンシズに目覚めた人しか休めない連休にすればいいんですよ!」
「……あなた、いつの間に黄金聖○士になったんです?」
「だって、ひどくないですか! この辺、オフィス街だからって、ゴールデンウィーク中になじみの定食屋もやってないんですよ! セブンセンシズに目覚めたくもなりますよ!」
「随分と簡単に目覚めますね……」
「だいたいですね、皆藤部長!」
「なんです、花氏さん」
「……電話、かかってきませんね!」
「そうですね。みんな休みですからね……」
ヘルプデスク、さすがに今日は暇でした。
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■用語説明
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●ゴールデンウィーク
12人の黄金聖○士たちが、その聖衣を脱いで、裸で踊りまくる1週間限定の祭りです。
12人の黄金聖○士たちを倒す絶好のチャンスなのです。
●夢子・ザ・ヒッキー
ヒッキーを自慢げに言う割に、意外とお出かけしている夢子でした。
●ゲートウェイ(サーバー)
ゲートウェイ は、コンピュータネットワークをプロトコルの異なるネットワークと接続するためのネットワークノードです。
もしくは、牛模様のパソコンメーカー。
●「NHKにチャンネルを変える」
NHKさんは「ゴールデンウィーク」という単語を使わず、「大型連休」と言います。
●ブロンズウィーク
短い連休をそう呼んだり、会社によってオリジナルで作ったりしているところはあるようですが、あまり一般的ではありません。
所詮は、青銅聖○士の裸祭りということです。
●セブンセンシズ
第七感。第八感まであるそうです。
●黄金聖○士
なんか、超感覚に目覚めたと厨二病みたいなことを言って、派手な金色の鎧をつけている12人のイタイ人たちです。
近寄らない方がいいです。
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