第51話「小説家でいいんですか?」
「はい、ヘルプデスクです★」
今回、電話を取ったのは、跳ねるように元気な口調の圭子です。
〈あのぉ……〉
対して電話の相手は暗いです。
圭子は努めて明るく声をだします。
「はい、なんでしょう?」
〈僕、漫画家か小説家になりたいんですけど、どうすればいいでしょうか?〉
「えーっと、それはどちらでもいいということなんでしょうか?」
質問があいまい過ぎて、このままでは答えられません。
〈できたら……漫画家かなぁ。将来的には、僕の作品がアニメ化したりして、印税生活して、かわいい女の子たちに『せんせー』なんて呼ばれたいんです〉
「なるほどです。欲望に忠実ですね!」
〈いやぁ~。それほどでも……〉
そこは、照れて謙遜するところではありません。
「漫画家さんですか。とりあえず、漫画を描けばいいんじゃないですか?」
〈いや、だからさ、勉強の方法とかあるじゃない。そういうのを知りたいんだよ〉
「うーん。とりあえず、チャレンジしてみる。行動あるのみだと思うんですよ〉
〈でも、何から手を付けたらいいのか……〉
「じゃあ、模写とかどうですか? 私も最初は見様見真似で挑戦しましたよ!」
〈え? 君も漫画を描くの?〉
「いえ。わたしが最初に真似たのは、回盲切除手術です」
〈……え?〉
「いやあ、盲腸が悪化した急患が来たんですけど、父さんがいなかったので見様見真似で、わたしがオペしまして……」
〈いやいやいやいや! 見様見真似でやっちゃだめなやつでしょ!〉
「若気の至りですねぇ」
〈若気って……君もともと若そうだけど、いくつとのとき!?〉
「6歳ですね」
〈若気すぎるわ!〉
どこかで聞いたことがある話です。
〈……で、それ、成功したの?〉
「はい。問題なく。いつも見ていたおかげですね」
〈どんだけ見てるんだよ、手術!〉
「てへへ★」
〈かわいく笑うな! 赦しちまうやろー!〉
「まあ、そういうわけで、とりあえずは模写からでいいんじゃないでしょうか」
〈う~ん。じゃあ、まずはGペンとかそろえてくるかなぁ〉
「え? 別にまずは鉛筆とかで書き始めれば……」
〈何言ってるんだよ! 雰囲気でないし、それじゃだめだろう!〉
「……そうですかねぇ」
〈でも、考えてみたら、道具をそろえるのが面倒だな……。そうだ、小説家の方にするよ〉
「……え? それでいいんですか?」
〈だって、小説家ならパソコンあればとりあえずできるし。金かからないじゃん。小説家でいいや〉
「はあ……」
完全になめていますね。
こういうのを聞くと、殺意の波動に目覚めそうになります。
〈よし。きーめた。小説家なら文字、書くだけだし、国語の延長だろう。国語は得意だったしな〉
「そ、そうですか……」
〈登場人物のかわいい女の子は、素人の絵描きさんに頼めば、タダで描いてくれるだろう〉
「そ、それはどうでしょうか……」
〈うん。方向性はきまった。まずは
「あっ! まっ――」
――ツーツーツー……
電話は切られてしまいました。
「コピペは模写じゃないし、小説は模写できないから、一番練習は難しい気が……」
圭子は、非常に不安になります。
後日。
その不安は的中し、相談者はパクリ疑惑で訴えられたそうです。
ざまーみろですね。
…………。
――ゴホンッ!
大変、失礼しました。
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■用語説明
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●「漫画家か小説家になりたい」
たまにこういう話を聞きます。
確かに両方やっている方もいらっしゃいますが、物語作り以外は別の才能なので難しいと思います。
●「かわいい女の子たちに『せんせー』なんて呼ばれたいんです」
イェス! イェス! イェス!
●「チャレンジしてみる。行動あるのみ」
圭子がいいことを言いました。
●回盲切除手術
先日、私の母親が行いました。
もちろん、手術担当医は6歳の女の子ではありませんでした。
●どこかで聞いたことがある話です。
夢子も「若気のいたり」と言っていました。
●「Gペンとかそろえてくるかなぁ」
形から入るダメなタイプです。
そして、Me too!!
●殺意の波動
リュウまで目覚めた時には、どうしようかと思いましたよ。
いや、まあ、別にどうもしないんですけど。
●「国語の延長」
国語は基本ルールなので確かに必要な知識です。
でも、延長ではなく、上乗せになる気がします。
●「素人の絵描きさんに頼めば、タダで描いてくれるだろう」
この思考は、絵描きさんに殺されます。
やめましょう。
●「
実際、冗談じゃなく多いわけです。
文章の語尾や単語を入れ替えるだけ。
人工知能の方が、よほどうまくオリジナル小説を書きますね。
●「小説は模写できない」
できますが、大して意味はありません。
模写は体に覚えさせたり、コツを見いだすための行為です。
小説の場合は、読んで文章を頭に入れて、いつでも素材として料理できるようにする方がいいかと思います。
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