第37話「『元気ですか~ぁ!』なのですか?」
「元気ですかぁー!!」
昼休みに入った直後、ヘルプデスクに似合わない、大きく元気な声が響きます。
あまりのことに、夢子も悠も目を丸くします。
「猪田さん、あまりうるさくしないで下さいよ」
皆藤のクレームを受けても、入ってきた猪田は、不自然にもりあがったスーツの下のマッスルボディーを自慢げにポージングするだけです。
「猪田さん、聞いていますか?」
「んー! 皆藤か! 気がつかなかった! しかし、元気がないな! 相変わらず元気がないな! うん、元気がない! だ~が~ぁ、それが皆藤らしさでもある! 個性は大切にしろ!」
要するに、元気になるなということでしょうか。
「お! 上空、今日も美人だな!」
「あ、ありがとうございます」
いつもなら褒められてうれしい悠ですが、今日はなぜか遠慮気味です。
「だが、上空! 自分が美人だと満足するな! 上だ! その名前のように天高く、はるか
「そ、そうですわね。でも、美しさではこの会社に常勝女王の十文字さんもいらっしゃいますし……」
「なんだ、上空! あきらめているかのか! あきらめたら、そこで試合終了だぞ! 本気になれば自分が変わる! 本気になればすべてが変わる! ドントウォーリー! ビーハッピー!!」
「は、はあ……」
「限界なんて言葉はこの世の中にはない、限界と言うから限界ができるんだ! 人は歩みを止めた時に、そして、挑戦をあきらめた時に年老いていく! さあ、私と一緒に、まずはスクワットだ!」
「…………皆藤さぁ~~~ん!」
たまらなくなった悠が脱兎のごとく席から逃げ、皆藤の背後に身を隠します。
「ん? あはははは! 上空は相変わらず照れ屋だな!」
豪快に笑いながらも、猪田は次の獲物を見つけます。
「お? 君が噂の電子の妖精か! デジタル・フェアリー!」
「なっ……なんですか、その恥ずかしい呼び名は……」
「なんだ、君も照れ屋か! ヘルプデスクは照れ屋が多いな! 照れ
「…………」
夢子はとりあえず無視します。
しかし、相手はそれを許してくれるような甘さはありません。
「しかし、デジタル・フェアリーよ! パソコンの前ばかりにいたら不健康だぞ! 運動してるか!」
「…………」
「デジタル・フェアリー! 返事がないぞ!」
「その呼び方、やめてくださいよ! 運動なんてしていませんが!」
「だめだ、だめだ! 運動しろ! 元気になれないぞ! 元気があれば、何でもできる!」
「……ノウテンキなことですね。元気だけで何でもできれば苦労ありませんよ」
「もちろん、元気なだけではだめだ! でも、元気なら努力ができる!」
「疲れませんか、そんな生き方……」
「一所懸命生きていれば、不思議なことに疲れない! 悩むなら進め! 迷わず行けよ! 行けばわかる!」
「行ってダメなら最悪じゃないですか。努力すればなんでもかなうって本気で思っていますか?」
「かなわないのは、命がけではないからだ! 必死さが足らない! 必至! 瀕死! 超必殺!」
「……それ、誰か殺してますよね?」
やっちゃってますね。
「さあ、とりあえずあの夕日に向かって、私とダッシュだ!」
「いや、今、昼ですよ」
「ならば、太陽に向かってダッシュだ!」
「……それ、昇天しろってことですか?」
太陽は今、南中にあります。
「道はどんなに険しくとも、笑いながら歩こうぜ!」
「だから、道なんてありませんから!」
「踏み出せばその一足が道となる!」
「……ああ、もう! あなた、馬鹿ですか?」
「そう、馬鹿だ! 馬鹿になれ! とことん馬鹿になれ! 恥をかけ! とことん恥をかけ! かいてかいて恥かいて、裸になったら見えてくる! 本当の自分が見えてくる! 本当の自分も笑ってた! それくらい、馬鹿になれ!」
「…………皆藤ぶちょ~~~~ぉ!」
とうとう夢子にも泣きが入りました。
悠と同じように、皆藤の椅子の背後に身を退避させます。
「ふうぅ……」
皆藤は、やれやれというようにため息を吐きました。
「猪田さん、ちょっとご相談したいことがあるんですが」
「おお、なんだ?」
「IT部に非常に優秀な女の子がはいったんですが……」
「おお! JKらしいな! JKはいい、いいぞ!」
「ええ。ただ、その子が試験勉強期間で長期休みなんですよ。でも、その子が優秀すぎたので、今は仕事が大変らしくて。IT部の面々、へとへとみたいなんですよね」
「おお! それはいかん! いかんな!」
「なので、ちょっと猪田さんが元気づけてきてもらえませんか?」
「よし、任せろ! 行ってくる!」
風を巻き起こすのではないかいうような勢いで、筋肉が去っていきました。
「……これでいいですか?」
「ありがとございますぅ~」
どうやら、無敵のヘルプデスクガールズにも天敵がいたようでした。
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■用語説明
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●「あきらめたら、そこで試合終了だぞ!」
スラムダンク・安西先生の名言から言い回しを変えて使わせていただいています。
しかし、この名言はあくまで勝機があること前提なんです。
●「本気になれば自分が変わる! 本気になればすべてが変わる!」
●「ドントウォーリー! ビーハッピー!!」
●「一所懸命生きていれば、不思議なことに疲れない!」
タレントの松岡修造さんの名言から言い回しを変えて使わせていただいています。
●「限界なんて言葉はこの世の中にはない、限界と言うから限界ができるんだ!」
●「人は歩みを止めた時に、そして、挑戦をあきらめた時に年老いていく!」
●「元気があれば、何でもできる!」
●「迷わず行けよ! 行けばわかる!」
●「道はどんなに険しくとも、笑いながら歩こうぜ!」
●「踏み出せばその一足が道となる!」
●「馬鹿になれ! とことん馬鹿になれ! 恥をかけ! とことん恥をかけ! かいてかいて恥かいて、裸になったら見えてくる! 本当の自分が見えてくる! 本当の自分も笑ってた! それくらい、馬鹿になれ!」
プロレスラーのアントニオ猪木さんの名言から言い回しを変えて使わせていただいています。
●無敵のヘルプデスクガールズにも天敵
前回、用語説明に書いた勇者は、はたして猪田だったのでしょうか?
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