第147話 カインと敵の正体。

 姿勢が違っていたものの相手は先代宰相キローゲの姿を真似ることができ、反王族派と通じている。

 貴族でも先代宰相の顔を知るものと言えばある程度の身内であろう。

 内部に反勢力の…おおよそ密偵と思しき者等がいることは間違いなかった。


 故にカインはキローゲと話し合う。

 現宰相と縁戚にあるキローゲ元宰相の姿を利用し反王族派に与する者がいる。

 貴族であり縁故の身内。それもある程度の実力あるいは権力を持つ王都の人間だ。

 そして恐らくは魔法を使える。それはキローゲの姿を写し取っている点から言って確実だ。さらに悪ければその人物が精霊を封じていることになる。

 関係ない者ならバッサリ切り捨ててしまう方が良いのだが、敵対していようと回りからすれば身内と見られる。回りくどい処罰を考えなければ要らぬ恨みを買うことになり…国民の心証を悪くしては先代宰相ゆえ国王の治世に影を落としかねない。


「私に反感をもっており魔法を使える者というと…あやつしかおらぬでしょうな」

「やはり、彼が…」

「しかしあやつが単独でこれほどの大事を仕掛けるとは考えられませぬ」

「ええ。黒幕は、大公閣下でしょう」

 薄々わかっていた、いやほとんど確信していたと言ってもいい。しかし口に出すのも憚られる大物が相手と決まって場が暗く澱んだような気すらする。

 王の次に権力を持つ相手が敵だ。それだけで折れそうになる心を奮い立たせようとカインは意識して声を張る。

「キローゲ殿が味方とあればとても心強い。これからよろしく頼みます」

「無論。精霊を封じ世界を滅ぼそうというような輩に抵抗せず国を明け渡すなどとんでもない。喜んで協力しましょう」

 二人はガッチリと握手を交わした。


 身内に敵がいると思うと頭が痛いが逆に考えれば敵に切り込むには有利、いっそやり易い味方ができたとも言える。

 交渉だけでどうにかできるなら楽だけれど、今までのことからして相手は力ずくでも事を成そうとしている。武力行使も視野に入れた準備をしなければならなかった。

 宰相の親族同士で争う事態となってしまうことに罪悪感がないわけではないが、国の、世界の崩壊を免れるため。未来がかかっている。ここで手心を加えて後顧の憂いを残すのでは今戦う意味がない。自分の為だけではなくすべからく罪無き民の為でもあるのだから。


 貴族の闘争は武力の前に舌戦という前哨戦が必須であり、派閥の勢力が鍵となる。仲間を増やすことが不可欠ということだ。今回の場合は、王族派と接触すべきだろう。

 最善は現王の父上に会うことだが、一度王城いえを出た身で謁見は容易たやすくない。何より今の状況で一番忙しいのも王であるし…何より俺自身未だ嫌疑のかかる身だ。

 次善の策として兄に会うのが良いだろうが…気が重いのに変わりはない。

 溜め息を飲み込んでカインは兄に会うすべを考えるのだった。

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