第146話 カインと先代宰相。
モリーとカルモ、そして少年から提供された情報をもとに調査をして数日。
昔茶飲み友達として交流のあった男娼を通じ先代宰相キローゲと会う約束を取り付ける。
「本当に来るでしょうか」
「…」
表向き中立に見せてはいるがあの魔道具の映像を見る限り味方とは思えない。
今後の対応をどうするかここではっきりさせるつもりの立ち位置確認のための元宰相との会談なのだ。
待ち合わせ場所は王都を出て五分ほど歩いたところにある小さな小屋。
昔門番が休憩に使用されていたが今はもっと立派な休憩所が作られたので放置されて久しい老朽化の進んだみすぼらしいものだったが、どちらのテリトリーでもなく人目にもつかないのでこの会談にはふさわしいかと思う。
中は家具など撤去されて空になっていたので小テーブルと椅子だけ運び込んである。カインと護衛役のマリナはお茶を飲みながら相手を待っている。現在平民として過ごしているカインは普段であればお茶など高級なものは飲んでいないが先代宰相は今でも貴族として王都に暮らしているのであえてそちらに合わせた形だ。
モリーとカルモは情報収集を続けているが、不測の事態に備えてモリーの知り合いのムサポー(ムササビのような魔物)のムサビーが肩に乗っていて、何かあれば連絡に飛ぶ態勢。
現宰相は証拠映像に映らず息子のルーファウスはこちらに近い。だが、先代宰相はあの映像の中に居た。こちらにつく意思があるならよし、反勢力であれば…。
「お待たせしました、第三王子殿下…」
低く通る声に場がピリッと緊張する。襤褸小屋の中に現れたのは老齢とは思えぬ闊達な様子で歩く貴族男性、先代宰相キローゲだった。カインより一回り大きく背筋はぴんしゃんとのびており、まるで二十代の若者にもひけをとらない若々しさだ。
あの映像の人物は猫背に曲がり鬱々とした雰囲気に見えていたのにまるで別人のようでカインはここで疑念を抱く。
「殿下?」
「いえ、ようこそキローゲ殿」
呼び掛けにはっとしてまずは挨拶を返すと怪訝な顔を一瞬で納めキローゲは話を促した。
「…?此度はどのようなご用件で」
「率直にお聞きしたい」
頭に浮かんだ可能性に回りくどい貴族的話術を放棄したカインはまっすぐ切り込むことにする。
背後にたつマリナが僅かに焦ったような気配がしたが黙殺して続けた。
「キローゲ殿、貴殿は反王族派なのでしょうか?」
ぴくりと眉を跳ね上げたキローゲは激昂するかと思ったが静かに聞き返す。
「ほう?それはどういった推察をなされたので?」
「ある魔道具を奇跡的に手に入れたのですが、そこに反王族派に歓待され密談している貴殿の姿が記録されているのです。どうぞご確認を。日付は下町で祭りがあった日です」
カインも落ち着いて懐から取り出した魔道具で小屋の壁に映像を写し出す。
貴族たちの密会に音声はない。しかし顔は鮮明に写っているのだ。
そこに写ったのは確かにここにいるキローゲと同じ顔であった。
「なるほど、これは私に瓜二つですな。しかし…この日私は外出しておりませんので」
「…別人、ですか」
「さようですな。どこでこのような…殿下?」
「いえ、安心しまして」
「これだけで信用してよいのですかな?いささか不用心では?」
「真に悪人ならばそのように自分から疑えなどと言わぬものですよ。それに、姿勢が全く違いますから」
「…」
カインの言葉に納得したようなそうでもないような妙なしかめ面をしたキローゲは黙り込んでしまう。
ここまでの対応でその人となりを見るに先代宰相は敵ではないとわかりカインは微笑んだ。
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