第114話 カインと騎士団。
騎士団員数名に囲まれながらカインは下町から貴族街の騎士団詰め所へ連行される。
市井の民の視線はある程度遮られていたし、貴族街に入っては人の往来自体少なかった。
しかし貴族の耳目は本人に限ったものではない。
子飼いの者からあっという間に知れ渡ることだろう。
騎士団詰め所へ足を踏み込めば王子とは言え行動は制限され自由はなくなる。
今の内に聞き出せることは聞かなければならなかった。
「…ルーファウス」
「は。何か」
「嫌疑とのことだが証拠はあるのか?」
曖昧なものならそこを突こうと探りを入れる。
しかし言い淀んだルーファウスにカインは眉を寄せ怪訝になる。
正義感の強い彼ならばカインを快く思わずとも不正は許さないはずだ。
あるものならはっきりと告げるし、まして無いものを有るなどという男ではない。
そもそも不確かな証拠で捕縛などしないヤツだ、と少なくともカインはそう記憶していた。
「それは…」
「複数の告発と殿下の指示書が届いております」
「オイ!」
「隠しててもしょうがないっしょ先輩。殿下、お心当たりはございませんか」
横から発言したのはカインが去った後で入った新人騎士のようだった。
ルーファウスが苦虫を噛み潰した顔をしているがカインにとっては彼が口を滑らせてくれてありがたい。
「貴族、か…王都を離れて久しい。告発したのは誰なんだ?」
「それが匿名の投書でして」
と今度は彼も口ごもる。
告発状は直接持ち込まれたのではなく夜中に紙に包まれた石を投げ込まれたものらしい。
紙は多くの商会で扱われ貴族から裕福な商人まで市井に出回っているもので特定は難しいようだ。
だが他にもやりようはあるはずだ。
「調べていないのか?」
「調査班を組もうとしたのですが善意の投書の差出人を無理に特定するのは国民への裏切りに当たるのではないかという意見がございまして…」
「裏切り、か」
証拠は善意の投書、裏をとったわけではないという。
そんな不確かな証言でルーファウスが動かざるを得ないということはその意見とやらはかなり地位が上の人間から出たものということだろう。
貴族の誰かが陥れようとしているのは確か。
動機、目的は権力か?
放逐されたようなものと思っているが曲がりなりにも第三王子、カインの告発を足掛かりに地位を上げたいのだろうか。
だがその割りに告発したものは匿名であるという。
あるいは恨みという線もなくはない。
瀬戸際で母を止めはしたがあの頃の王宮は荒れており、目端の届かぬところは多々あった。
馬鹿な権力者のせいで地獄を見たものはごまんといる。
だがこれも何故今なのか。
現国王の治世は上手くいっていると聞いていたのに、それをわざわざ乱す意味はないだろう。
どうにも不可解、不自然な点が多い。
誰が何の為に忘れられたはずの
敵の影も見えず実行した者の尻尾もつかめないまま、カインたちは騎士団詰め所の前へ着いてしまっていた。
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