第六章 平凡、異世界観光する。

第74話 新しい予定と影。

 こちらの世界にも慣れて自警団の仕事にも馴染んできたと思いながら今日も街の見回りをする。

 相変わらずカインさんと常に一緒の行動をしてるんだけど。

「やあ、こんにちは。自警団の仕事は順調みたいですね」

「店長さん」


 街をぐるりと巡回して買い取り屋さんの前を通ったら糸目の店長さんと久しぶりに会った。

「なんだか久しぶりですね」

「ええ、ちょっと王都に出掛けてきまして」

「王都ってどんなとこですか?まだ行ったことなくて…」

 日本でも余り都会に出掛けたことの無かった僕は王都と聞いて思わず目を輝かせて尋ねる。

 店長さんはそんな僕ににっこり笑って(糸目だから余り変わらないんだけど)教えてくれた。


「おや。そうですね…とても大きな街ですよ。魔石も色んな物がありましてね、お陰さまでいい買い付けができました」

「へえ、魔石…」

「ええ便利な魔道具の材料になりますから需要も多いので」

「魔道具が欲しいのかい?」

 カインさんに聞かれて頷いた。

 でも、出来合いの物買うより僕は作ってみたいと思った。

 だって日本ではできなかったけどこの世界でならできる魔法があるから。

 自分好みの物を思いのままに作ってみたい。自分の魔法ちからで。

 それを素直に伝えるとカインさんは優しく頭を撫でて頷いてくれた。

「じゃあ今度休みを取って行ってみようか」

「いいんですか!?行きたいです!」

「ふふ、いいよ。じゃあ見回り済ませてガザシに許可とらなくちゃね。では」

「ええ、お気を付けて。王都観光楽しんできてください」

「はい!」


「………報告は済んでいますし大丈夫とは思いますけどね。気を付けてくださいよ…王子」

「………………無論」

 二人が立ち去った後の店長と影にいた誰かの会話は余人に聞かれることはなかった。



 街の見回りを終わらせて本部に戻り異常無しの報告をすると早速僕はカインさんと一緒にガザシ父さんに休暇申請を出す。

「うん?長期休暇だ?」

「はい!王都に観光に行きたくて…」

 店長さんと話したことを言うとガザシ父さんは顎を撫でてしばらく考えたあと確認するようにカインさんを見た。

「もちろん俺も行ってくる。ついでに野暮用を済ませたいからな」

「…なるほど、なら、か。わかった。休暇期間は行き帰りの時間を考慮すると三ヶ月ってところか?」

「そうだな。混み具合や用事によって前後するかと思うがそのくらい、でいいかな?」

「あっ、はい」


 旅の準備や行程について、未だこの街しか知らない僕はカインさんにおんぶにだっこでお世話になるしかないので期間の予想もつかず休暇申請の詳細は丸投げ状態だ。

 なのでついボーッとひとりで旅の想像に浸ってしまっていた。

 苦笑と共に撫でられてちょっと気恥ずかしくなるけど…日本での旅行と違って道程の殆どが徒歩なのだ。

 どんな旅ができるのか準備もする前から楽しみだった。

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