第60話 女王様はご立腹です。

 突き当たりまで進むと足元から天井まで壁一面真っ白のハニカム構造。

 ここが最奥?

「ふわぁ…」

 日本でも見たことのある蜂の巣だ。

 辛うじて仕切りがあるのは分かるけどふた?があるようで中がどうなっているかは見えない。

「あの中に幼虫や幼虫の餌、白蜂蜜があるはずだ。女王蜂がいないようだから今のうちに採取してしまおう」

「はい…幼虫とかは…」

 もふもふの犬とかは好きだけどにょろにょろした虫さんは好きでないので遠慮したくて恐る恐る聞いてみる。

「ん?もちろん薬になるし結構旨い料理にもなるんだよ。だから見逃す手はない…あー、幼虫は俺がとろうか」

「是非オネガイシマス」

 察してくれたカインさんにありがたく頼らせてもらう。

 本当に苦手なんですよー…。


 街で用意してきた採取用ナイフを使って端っこから蓋を切り開いていく。

 ハニカムの角から辺に沿ってナイフで切れば蓋はへろん、と破れた障子のようにはがれた。

 そして全貌を表した幼虫さんとこんにちは。

 真っ白の幼虫(大)がうねうねと蠢きながら赤い瞳でこちらを見る。

「…!……!~~~っ!!」

「だ、大丈夫?ほら代わるから、ね?」

 隣で作業していたカインさんが素早く位置を入れ換えてくれて、僕の前にはこぼれそうな白い蜜が。

「はぅ、…ありがとうございます、うぅ…」

「いいよ、苦手の一つ二つ誰だってあるよね。ほら採取しちゃおう」

「はいぃ」


 気を取り直して道具を持ち替える。

 スコップで白蜂蜜をすくい取って寸胴鍋に入れていく。

 鍋の容量限界まで波々と入れて蓋をしたらそのまま亜空間収納に仕舞い込む。

 使った道具も収納へお片付け。

 カインさんも程々に採取し終えたらしくナイフを仕舞っていた。(その際不自然に蠢く皮袋を一緒に背負い袋に入れているのは見ない。見ないったら見ない)

「後は街に戻るだけ」

 ですね、と言う前にギシ、と鳴き声がして固まる。

 すかさず前に出ているカインさんさすがです!

 肩越しに見えるあれはきっと白蜂の女王様ですよね。

 全体の形は兵隊蜂と同じだけど何倍もでかく首周りにはふわふわした鬣のような毛が生えていた。


「ギ、ギシシ…?」

 赤い複眼でハニカム構造の壁を見ると首を捻り僕らを見る。

 いや、睨んでいるのだ。

 匂い?それとも音か?とにかく僕らの所業を察知したのだと思う。

 怒りに燃えるその目は確かに侵入者に拐かされそうな我が子を見つけていた。

 母子愛が虫にあるのか?それとも種の存続の為かはわからない。

 だけど僕だって死にたくはない。

 そして何もせず漫然と生きることを望まない。

 楽しく生きたいから。

 生きようとすれば必ず何かを犠牲にすることになる。

 だから僕は。

「ご、ごめんなさいちょっと甘いお菓子が食べたくて「ギシャアアアアァ!!」デスヨネー!」

 飛んできた針を避ける!すいません!(正しくはカインが剣の峰で弾いてる)

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